2007-11-15

日本の両生類とカエルツボカビ (協力:植物研究部 細矢剛)


最新の研究成果から

 現在、世界各地でカエルをはじめとする多くの両生類が減少、或いは絶滅の危機に瀕しています。その原因のひとつと考えられているのが、真菌類の一種、カエルツボカビによって引き起こされる高致死率の感染症カエルツボカビ症(※1)、です。
 これまでアジア地域には存在しないと思われていたカエルツボカビですが、2006年12月には飼育下のカエルの感染が報告され、2007年6月には日本固有の野生のカエルからもカエルツボカビの遺伝子が発見されて、野生での感染の疑いが強くなっていました。
 日本には多くの貴重な固有の両生類(※2)が生息しています。カエルツボカビの侵入は、これらの生物にどのような影響を及ぼすことになるのでしょうか?

 2007年11月、日本の野生の両生類のうち約7%がカエルツボカビに感染している、という報告が「爬虫類と両生類の臨床と病理の研究会」(麻布大学)で発表されました。日本の野生の両生類で、カエルツボカビ症を発症して死んだ個体は今のところ見つかっていませんが、実験室内で人為的にカエルツボカビを感染させた個体は一部が発症・死亡したことも判りました。
 1年前、カエルツボカビが初めて日本で問題とされた時には、世界のカエルツボカビは全て同じ種類で、病原性も全て同じおそれがあると考えられていました。しかし今回の発表では、カエルツボカビには遺伝子型の異なるものが複数タイプ存在することが紹介されました。日本の両生類が感染しているカエルツボカビは、世界各地で両生類を死に追い遣って来たものと同じタイプも一部ありますが、他はそれとは別のタイプの、病原性などが未だよく判っていないものでした。このタイプのものの危険性の解明、日本の両生類への影響の調査が待たれるところです。

 日本の両生類がカエルツボカビに感染しているからといって、直ちに日本の両生類の危機だとおそれる必要はありません。しかしカエルツボカビの実体が完全に解明できたとは言えない現在、両生類の保護にあたっては常に最悪のケースを想定して行動する必要があるのです。


※1 カエルツボカビ (Batrachochytrium dendrobatidis) によって起こる感染症です。発病すると表皮が冒され、異常な脱皮や変色などが起こり、皮膚呼吸が阻害されて死に至ります。
※2 オオサンショウウオやモリアオガエルなどが代表的ですが、日本に棲息する58種5亜種のうち、84%にあたる48種5亜種が日本の固有種です。奄美諸島や琉球列島では特に固有種が多く、島の生態系にも深く関わっています。


写真提供:麻布大学・宇根有美准教授

より詳しく知りたい人のために
麻布大学
日本動物園水族館協会