2018年8月5日 鎌倉市由比ガ浜海岸にストランディングしたシロナガスクジラ 調査概要

2018年8月14日
(独)国立科学博物館

ストランディング(座礁)の状況

1.発見日及び場所

2018年8月5日(日) 14時過  神奈川県鎌倉市長谷2丁目付近(坂ノ下)

2.種・体長

種・体長:シロナガスクジラ(オス)、体長:1052cm

3.座礁の状況

14時頃 一般の方が沖で漂流している大型鯨を発見し、鎌倉警察に通報。鎌倉警察より新江ノ島水族館に連絡が入る。
16時頃 鎌倉市役所より新江ノ島水族館に大型鯨類が座礁したとの連絡が入る。
16時半頃 新江ノ島水族館職員が現地着。波打ち際に座礁している鯨類を確認。計測を試みるが、波が高くおおよその体長測定のみ。
尾ビレ先端は腐敗しているが、全体的な傷は少ない。
17時頃 夕方の報道で、科博担当者はこの情報を知る。
・神奈川県立生命の星・地球博物館と新江ノ島水族館と直ちに連絡をとり、早急に種同定する必要があるため、詳細な写真の提供を依頼。
・新江ノ島水族館より提供された写真よりシロナガスクジラと断定。

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調査の状況

8/5 16時半頃 新江ノ島水族館職員2名現地到着。各部位写真撮影と計測を実施。撮影写真を検討後、シロナガスクジラと確認する。
8/6 7時頃 国立科学博物館、神奈川県立生命の星・地球博物館、新江ノ島水族館、地元協力者らと外部計測・写真撮影を実施。
  11時頃 潮が満ちてきたため、重機の到着を待ってクジラを陸に引き揚げる。
  14時半頃 国立科学博物館主導の調査チームを編成、個体を輸送するための解体実施。
調査チーム:国立科学博物館、新江ノ島水族館、筑波大学、北海道大学、宇都宮大学、長崎大学、東京海洋大学、日本鯨類研究所
  17時頃 5トン トラック2台に個体を載せ、漂着現場から移動する。
8/7 8時頃 全身骨格回収、研究用サンプリングおよび内臓調査実施。
  15時頃 全ての作業終了。
8/8 10時頃 科博・筑波地区にて追次調査実施。

下の画像4点:新江ノ島水族館撮影(8月5日)

由比ヶ浜で発見された当初のシロナガスクジラ。 ©新江ノ島水族館撮影(2018年8月5日)

発見当初のシロナガスクジラ(16時頃撮影)

当歳児であるためか、体表にはしわがある。以後の急速な成長に備えているのだろうか。

体色は濃青灰色を呈し白いかすり模様があり、シロナガスクジラの特徴を呈す。胸ビレもシロナガスクジラの特徴を呈す。

右胸ビレを押さえる水族館職員。前縁と内側が白いことがわかる。

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回収の状況

2018年8月6日 7時頃:調査開始

国立科学博物館、神奈川県立生命の星・地球博物館、新江ノ島水族館、地元協力者らと外部計測・写真撮影を実施。

沖合(左側)を頭に仰向けに横たわるシロナガスクジラ。©2018 国立科学博物館

7時頃 全身右側:沖合(左側)を頭に仰向けに横たわっている

計測を実施。©2018 国立科学博物館尾側からの全身。©2018 国立科学博物館生殖孔・肛門付近の計測©2018 国立科学博物館

外貌観察・計測を実施

尾側から全身を見る

生殖孔・肛門付近の計測

外貌観察の結果:抜粋

畝の数は61条©2018 国立科学博物館

【畝(ウネ)の数】
(左右胸ビレのラインでカウント):61条  シロナガスクジラの畝の数は55-88条とされる

陰茎が書くんんされたのでオスと断定した。©2018 国立科学博物館シロナガスクジラに特徴的な濃黒色のヒゲ板。©2018 国立科学博物館

【陰茎(矢印)】 観察されたのでオスと断定

【ヒゲ板】 シロナガスクジラに特徴的な、濃黒色を呈す。

シロナガスクジラの寄生虫。©2018 国立科学博物館シロナガスクジラの背ビレ。©2018 国立科学博物館

【写真左】一個体のヒジキムシに 多数のスジエボシが付着している例
【写真右】体表に寄生するヒジキムシ(カイアシ類)(黄矢印)。それに付着するスジエボシ(蔓脚類)(緑矢印)

【背ビレ】
シロナガスクジラの特徴である体サイズに比してきわめて小さい背ビレ.個体は仰向けなので上下逆に見ている.
基部に見られる円形の穴はダルマザメの咬傷痕(死因とは無関係)

2018年8月6日 11時頃

潮が満ちてきたため、重機によりクジラを陸に引き揚げる。

重機によるシロナガスクジラの引き揚げ。©2018 国立科学博物館重機によるシロナガスクジラの引き揚げ2©2018 国立科学博物館

 

背景の小高い森の向こう側が稲村ヶ崎

2018年8月6日 14時半頃

国立科学博物館主導の調査チームを編成、個体を輸送するための解体実施。

調査チーム:国立科学博物館、新江ノ島水族館、筑波大学、北海道大学、宇都宮大学、長崎大学、東京海洋大学、日本鯨類研究所

2018年8月6日 17時頃

5トン トラック2台に個体を載せ、漂着現場から移動する。

2018年8月7日 8時頃

全身骨格回収、研究用サンプリングおよび内臓調査実施。

調査チーム:国立科学博物館、筑波大学、北海道大学、長崎大学、ソウル大学

2018年8月7日 15時頃

全ての作業終了。

シロナガスクジラの左右ヒゲ板列©2018 国立科学博物館

【左右ヒゲ板列】
濃黒色を呈す:シロナガスクジラの特徴を示す。
ヒゲ板を解析することで回遊経路がわかるかもしれない。

8/8 10時頃  科博・筑波地区にて追次調査実施。

まだ幼いシロナガスクジラの骨盤骨(左右)©2018 国立科学博物館

【骨盤骨(左右)】
まだ幼いため軟骨で構成される。

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Q&A

Q.1シロナガスクジラのストランディングは国内初なのですか?
A.1過去に数例の報告はありますが、一例を除き事実確認できるもの(写真や映像など)がないため、第三者が内容を精査することができません。
そのため、事実確認できるものが揃った事例として、今回の事例は事実上国内初となります。
また、ストランディングしたシロナガスクジラを今回のように体系的に調査した事例は国内初となります。
Q2シロナガスクジラと同定した特徴は?
A.2濃灰青色の体色。その中に見られるかすり模様(白斑)。胸ビレの形。相対的に小さな背ビレ。ほとんど漆黒のヒゲ板の色。プロポーションなどです。
Q3個体情報は?
A.3体長:1052㎝、性別:オス 体長やその他の外貌観察などより乳児であり、今年生まれの当歳児と判断しました。
Q4死後どのくらいたっているのですか?どこで死んだのですか?
A.48月5日に発見されたときの外貌観察から、死後数日しか経っていないことがわかります。
それを考慮しますと、漂着した海岸からはそう遠くない南方沖合で死んでしまい、南風などによってあの海岸に流れついた可能性が考えられます。
Q5死亡原因は?
A.5腐敗が進んでしまったため、内臓の詳細な調査を実施することはできませんでしたが、観察した限りでは内臓に病気は発見されませんでした。
さらに、海の哺乳類の場合、その死因は外的要因もありその代表例が1.船との衝突、2.漁網などに絡まる、3.サメやシャチなどに襲われる、などです。
今回の個体の外貌観察からは外的要因に結びつく所見は観察されませんでした。当歳児であるということは、母乳が栄養源であり、母親と一緒に生活しなければ生きていけません。
胃はほとんど空でしたが、腸には内容物がありましたので、母乳を飲んでいたようです。こうした情報から総合的に判断しますと、生後数ヶ月の個体が、何らかの理由で死亡の数時間前に親とはぐれたため、単独では生きていけず死亡してしまった可能性が考えられます。しかし、何故親とはぐれてしまったのかはわかりませんでした。
Q6骨はどうなるのですか?
A.6国立科学博物館が全身骨格を標本として保管します。非常に若い個体のため骨の大部分がまだ軟骨です。
そのため、どこまで骨格標本として残せるのかは現時点では断定できませんが、可能な限り標本として保管します。
Q7骨格はいつか科博でお披露目されるのですか?
A.7なるべく早い段階で皆様に見て頂けるよう、最大限の努力をします。
Q8今後の研究はどのようなことをするのですか?
A.8国立科学博物館で採材した標本からは、
  • DNA解析:世界中のシロナガスクジラと今回の個体がどのような関係にあるのかを解明するため、共同研究という形で進めます。
  • 環境汚染物質解析:本個体の身体にどのような環境汚染物質が蓄積されているのかを共同研究という形で進めます。
  • 胃内容物解析:胃内に認められた寄生虫の解析を共同研究という形で進めます。
  • 寄生虫学解析:体表に寄生していた寄生虫を共同研究という形で進めます。
  • 安定同位体解析:ヒゲ板を使い共同研究という形で進めます。生後の移動経路がわかるかもしれません。
  • その他:博物館活動を通して骨格標本の展示、最新の研究成果を発信していきます。などなど。
今回参加した研究機関では、
  • 神奈川県立生命の星・地球博物館:右胸ビレを博物館標本として保管します。
  • 新江ノ島水族館:体表の寄生虫を寄生虫解析します。
  • 日本大学:機能遺伝子配列解析をします。
  • 日本鯨類研究所:DNA解析をします。
Q9今回の調査チームの構成は?
A.9国内外から駆けつけてくれた学術機関の方々です。
新江ノ島水族館、筑波大学、北海道大学、宇都宮大学、長崎大学、東京海洋大学、日本鯨類研究所、ソウル大学を中心に編成されました。

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お問い合わせ

国立科学博物館動物研究部 脊椎動物研究グループ  田島 木綿子
メールアドレス: yuko-t@kahaku.go.jp