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2023年1月9日 大阪府の淀川河口にストランディングしたマッコウクジラ 調査概要

2023年2月22日(2023年2月24日改訂)
(独)国立科学博物館

ストランディング(座礁)の状況

調査の経緯

1月9日(月) 大阪市西淀川区淀川河口に生存迷入したマッコウクジラ発見
1月11日(水) メデイア映像より死亡と推定
1月13日(金) 大阪市「死亡判定」正式に発表
1月16日(月) 大阪市「海洋投棄」正式に発表
1月17日(火) 午後:外貌観察・調査
1月18日(水) 淀川から此花区桜島に移動し回収作業 ガス抜き及び学術調査を実施
1月19日(木) 紀伊水道沖で海洋投棄 完了

調査の概要

2023年1月18日、バージ船に下ろされたマッコウクジラ(学名:Physeter macrocephalus)©2023 国立科学博物館

2023年1月18日、バージ船に下ろされたマッコウクジラ(学名:Physeter macrocephalus

  • 種:マッコウクジラ(オス)
  • 体長:
    1469cm(上顎骨先端-尾椎後端までが体長)
  • 全長:
    1598cm(頭部先端-尾椎後端までが全長*)
    *マッコウクジラの場合、頭骨より頭部が前方に張り出しているため、そこまでの距離を「全長」として計測する。
  • 体重:
    38トン(クレーン⾞の測量計による)
  • 成熟度:
    成熟オス(体長、歯の大きさ、外貌、生殖器の大きさなどから成熟したオスと判断)
  • 研究資料:
    • ・年齢査定用:上顎歯 12本
    • ・博物館標本用:下顎歯 8本
    • ・寄生虫学用:表皮寄生虫、皮脂内寄生虫
    • ・食性解析用:胃内容物
    • ・DNA解析用:表皮・筋肉
    • ・環境汚染物質解析用:皮脂・筋肉

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学術調査

2023年1月17日午後 外貌観察・調査

2023.01.17 午後:淀川上流に漂流するマッコウクジラの外貌を観察する学術調査チーム ©2023 国立科学博物館

2023.01.17 午後
淀川上流に漂流するマッコウクジラの外貌を観察する学術調査チーム

2023年1月18日 曳航・クレーン車による吊り上げ作業

2023.01.18 08:30:淀川から此花区桜島に曳航。©2023 大阪市立自然史博物館

08:30 淀川から此花区桜島に曳航

2023.01.18 11:00:此花区桜島に接近中。©2023 大阪市立自然史博物館

11:00 此花区桜島に接近中

2023.01.18:クレーン⾞で吊り上げる準備中。©2023 国立科学博物館

クレーン⾞で吊り上げる準備中

2023.01.18:クレーン⾞で吊り上げ中。©2023 国立科学博物館

クレーン⾞で吊り上げ中

クレーン⾞の測量計によると、体重:38トン。©2023 国立科学博物館

クレーン⾞の測量計によると、体重:38トン

クレーン車で吊り上げ、バージ船に下ろす。©2023 国立科学博物館

クレーン車で吊り上げ、バージ船に下ろす

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2023.01.18 学術調査

1.外部計測・観察・撮影

1-1 外部計測風景。©2023 国立科学博物館

1-1 外部計測風景

1-2 尾ビレ計測風景。©2023 国立科学博物館

1-2 尾ビレ計測風景

2. 内部調査

2-1 皮脂厚計測、DNA解析用サンプル:表皮・筋肉。©2023 国立科学博物館

2-1 皮脂厚計測、DNA解析用サンプル:表皮・筋肉

2-2 環境汚染物質解析用サンプル:皮脂・筋肉。©2023 国立科学博物館

2-2 環境汚染物質解析用サンプル:皮脂・筋肉

2-3 食性解析用サンプル:胃内容物。©2023 国立科学博物館

2-3 食性解析用サンプル:胃内容物

2-4 寄生虫学サンプル:表皮寄生虫、皮脂内寄生虫

2-4 寄生虫学サンプル:表皮寄生虫、皮脂内寄生虫

2-5 年齢査定用:上顎歯 12本、2-6 博物館標本用:下顎歯 8本。©2023 国立科学博物館

2-5 年齢査定用:上顎歯 12本, 博物館標本用:下顎歯 8本

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Q&A

Q.1今回のマッコウクジラがなぜ淀川に迷い込み、死亡してしまったのか、わかりましたか?
A.1残念ながら、限られた学術調査ではそれを断定できる所見を得ることはできませんでした。
ただし、調査の結果、完全に成熟したオス個体であることがわかりました。この成熟度の個体は、すでに群れからは独り立ちして単独行動をするため、群れからはぐれたわけではないことがわかります。
さらに、マッコウクジラは2000mほどの深海のイカ類をエサとしているため、成熟した個体が淀川までエサを深追いして来てしまったわけではないこともわかりました。
海外の事例では、今回のような大型クジラの成熟個体が迷い込んで死んでしまう原因としては、大型船との衝突や軍事演習ソナーによる潜水病などが報告されていますが、今回はそれらにつながる所見を得ることはできませんでした。
病気に罹患していたのかどうかも確認することはできませんでした。
Q2個体情報について
A.2体長: 1469cm(上顎骨先端-尾椎後端までが体長)、全長:1598cm(頭部先端-尾椎後端までが全長*)
*マッコウクジラの場合、頭骨より頭部が前方に張り出しているため、そこまでの距離を「全長」として計測しますので、当然ながら「全長」の方が大きくなりますが、学術的には「体長」を重視します。性別:オス、体長、歯の大きさ、外貌、生殖器の大きさなどから性的に成熟したオスと判断しました。
マッコウクジラの体長と全長の違い
Q3今後の研究はどのようなことをするのですか?
A.3国立科学博物館で採材した標本は、以下の調査研究・学習への利用を計画しています。
  • 年齢査定用(上顎歯):当該個体の「実年齢」
    今回採取したマッコウクジラの歯の断面図 ©2023 Hayao Kobayashi
    図1. 歯の断面に形成される成長層を数えた結果、今回の個体は、46歳と判明しました。
    これまでに、マッコウクジラは70-80歳まで生きた記録があるため、本個体は寿命が死因ではないことは年齢査定から判明しました。
  • 博物館標本用(下顎歯):マッコウクジラの歯はとても大きく立派です。そのため、ハクジラ類を知るきっかけとして、博物館の標本として保管し、展示や生涯学習に活用します。
    マッコウクジラを含むハクジラ類は、我々と違って歯は全て同じ形をした「同型歯性」を示します。
  • 寄生虫学用(表皮寄生虫、皮脂内寄生虫):今回は外部寄生虫として表皮に寄生するペンネラ類(カイアシ、甲殻類の仲間)と皮脂内にフィロボツリウム類(条虫の仲間)を発見しました。
    寄生虫のライフサイクルを解明し、どんなクジラにどんな寄生虫が寄生するのかといったデータ蓄積に活用します。
  • 食性解析用(胃内容物):マッコウクジラは世界中の海に生息しますが、2,000mほど深海に生息するイカ類を好んで食べます。今回得られた胃内容物からどんな種類のイカ類を食べていたのかわかるかもしれません。そのイカ類の生息域が判明すれば、本個体がどの辺りでイカ類を食べていたのかもわかるかもしれません。
  • DNA解析用(表皮・筋肉):世界中の海にいるマッコウクジラですが、日本では小笠原諸島や根室海峡、長崎県五島列島などで若い個体が確認されています。DNA情報を得ることで、日本周囲や世界の海にいるマッコウクジラとの血縁関係が明らかになるかもしれません。
  • 環境汚染物質解析用(皮脂・筋肉):マッコウクジラを含むクジラ類の体内にはダイオキシン、PCBs、DDTsなどの環境汚染物質がエサ生物を介して高濃度に生物濃縮していることがわかっています。環境汚染物質が体内に蓄積すると、免疫機能の低下や内分泌が撹乱してしまうことが報告されています。
    元を辿れば、環境汚染物質は我々人間が作り出した化学物質です。また、同じ哺乳類である我々人間への影響も懸念されています。本個体の体内にはどのような化学物質が蓄積しているのかを明らかにする予定です。
Q4海洋投棄されたあと、あのクジラの骨や内臓はどうなるのですか?
A.4多くの海洋生物の栄養源となります。大きなマッコウクジラですので、多くの海洋生物が集まって新たな生態系がそこに築かれます。
Q5今回の調査チームの構成は?
A.5地元や国内各所の学術機関で構成しました。
海遊館、大阪市立自然史博物館、日本鯨類研究所、東京大学、東京農業大学、筑波大学、大阪市、国立科学博物館、総勢20名のチームでした。

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