A Review of Coleopterology in Japan, contributed to a Japanese entomological journal, "Gekkan-mushi"
「月刊むし」誌所載 「1998年の昆虫界をふりかえって:甲虫界」第2部(後半ガムシ、ハネカクシ上科部分のみ)


1999年5月発行



7.分類群ごとの新知見
 以下に、主としてヤ97、ユ98年に発表されたコウチュウ目各群についての新知見を列記していきたい。採択方針として日本の甲虫ファウナに関するタクサの変更を第一とし、なるべく種名まで記述する。高次分類群の世界的な変更や動向、アジア甲虫相解明に関する日本人(雑誌)の貢献、地域ファウナの解明などの国内の話題等々について取り上げた。文献は冒頭に挙げたように略記し、人名については以下、敬称は略させていただく。欧文で論文を出されている方でもできるだけ漢字で表記させていただいた。悪しからずご了承いただきたい。また、和名語尾も省略したので、適宜補っていただきたい。

 カブトムシ亜目ガムシ上科、ハネカクシ上科
 大原昌宏は「甲虫ニュース」紙上で9回にわたったエンマムシ上科の概説を終えた。これによって少なくとも日本のファウナについては容易に参照できるようになったと言えよう。また、これによるとヤ97年に世界のエンマムシのカタログがワルシャワ農大のS. Mazur博士によって刊行されているという。紹介記事も書いている(昆自 32(2): 19-22)。また、大原はInternational Kuril Islands Project (IKIP)に参加し、ここで得られた標本から、続々と千島地域の甲虫相が解明されている。この概要について紹介記事も書いている(昆自 33(1): 25-29)。1995年の中千島の調査から、カラカネハマベをウルップ島から初めて記録した(EL 25: 173-174)。また、J. C. Paikと共著で韓国のエンマムシをまとめて31種とし、2新種を記載している(Ins. Matsum., N. S. (54): 1-32)。
 ガムシ類は日本ではこのところやや沈滞気味といったところであろうか。しかしながら、佐藤正孝は奄美大島から新種Hydrocassis jengiリュウキュウマルガムシを記載している(EL 26: 81-84)。また、コガムシ属について佐藤は琉球におけるコガムシの記録を報じ(EL 26: 398)、野村周平・林成多は佐賀県からエゾコガムシを記録した(本誌 (329): 14-15)。
 ハネカクシ上科はこのところ大盛況といっても過言ではないだろう。海外ではM. Hansenがコガネムシ科まで含めたハネカクシ群高次の系統解析を発表した。これは先に発表されたNewton & Lawrence(1995)のシステムとは非常に違っており、特にガムシ上科とエンマムシ上科がコガネ上科の姉妹群であり、ハネカクシ上科内ではデオキノコがハネカクシ科とは離れた位置に置かれた点が注目される(Biologiske Skrifter 48)。Hansenはまた、この系統関係を元に、生態的な特徴やイベントがどの段階で起こったかを推定し、ハネカクシ群全体の進化的傾向を追った論文を発表した(Steenstrupia, 23: 43-86)。また、AdephagaやElateriformia等の系統仮説を続々発表しているBeutelらはハネカクシ類についても幼虫形質のみに基づく系統を構築している(Zool. Anz. 236: 37-67)。これもまた前者らとかなり食い違っており、ハネカクシの系統は泥仕合の様相を呈してきた。
 Koleopterologische Rundschau(N. S.) 68巻(1998)は、コケムシの権威、Herbert Frantz博士の90歳を祝う記念号で、現在のコケムシ研究の動向をこれによってつかむことができる。コケムシは日本では最近全く研究されていないが、なわばり争いの激しくなってきたハネカクシ界で唯一残された黄金郷(もしくは泥沼かも)である。Annales Zoologici 47巻(1997)はM. Mroczkowskiの70歳記念号で、ハネカクシ上科とヒラタムシ上科で重要な論文が多数掲載された。また、L喘lらが一昨年、デオキノコのWorld Catalogを出版している(Instrumenta Biodiversitatis (1))。
 日本では最近タマキノコを研究する若い人が出てきたことが嬉しい。九大の保科英人はAgathidiiniの研究を進めており、Agathidium属Neoceble亜属をまとめ、2新種、yukihikoiサガミモンマル(神奈川)、fujiyamaenseフジサンマル(富士山)を書いた(JSE 3: 161-165)。藤森健史は同じ亜属の1新種 akemiae キバマル(愛媛面河)を記載した(JSE 4: 381-382)。また保科はMacroceble亜属の3新種、narusawaeナルサワマル(奄美大島、徳之島、沖縄本島)(図4)、nomurai トカラマル(中之島、宝島)、および、原名亜属の6新種、amamienseアマミマル(奄美大島)、aikanaeアイカナマル(奄美大島、徳之島)、 fujisakiaeフジサキマル(沖縄本島)、 ishigakienseイシガキメボソマル(石垣島)、okinawaense オキナワメボソマル(沖縄本島)、saigoiサイゴウマル(奄美大島、徳之島)を記載した(JSE 4: 137-159)。原名亜属について2新種、katsuragiaeカツラギマル(兵庫、三重)、morishitaeモリシタマル(下甑島)をさらに追加し(ERJ 53: 59-66)、Macroceble亜属については生川展行と共著でyuhkiaeユウキマル(兵庫)、sakuragiaeサクラギマル(三重)を書いた(ERJ 53: 49-57)。さらに北海道から日本新記録のAnisotoma orbicularisエゾクシヒゲ(北海道阿寒)を報じ(ERJ 53: 8)、日本新記録属の新種 Liocyrtusa onodaiミナミナガヒメ(屋久島)を記載した(ERJ 53: 9-13)。Cyrtusa 属についても千葉県からsarasvatiベンザイテンヒカゲを書いた(ERJ 53: 1-7)。
 最近の分類体系ではタマキノコの1亜科とされるが、西川正明はチビシデムシ科(Cholevidaeとしている)のCatops fujitaniorumチクマチビシデを記載した(El 25: 117-121)。また、以下に述べる大原の資料から千島列島初記録種となるムネグロコチビシデを報じ(EL 25: 348)、対馬産の本種の形態を記した(EL 25: 431-434)。中根猛彦はCatops属に3新種、tanakai(岐阜)、dorogawensis(奈良)、akiyamai(広島)を追加した(北昆 44:7-8)。西川は、ツヤシデムシ科のLyrosoma ituropenseエトロフホソシデを北海道利尻島、函館市から初めて記録した(EL 25: 121-122)。シデムシは行動生態の研究が盛んで、近雅博がクロシデの育児室に労働寄生するコクロシデの繁殖行動について発表したのが注目された(鞘10会:15)。大河原恭祐らは北海道におけるモンシデ数種のニッチェ競合と棲み分けについて報じた(ESC 1: 551-559)。昆虫学会大会でもいくつかのモンシデの行動に関する発表があった(昆58会:36;昆58会:107-108)。
 ハネカクシ科についても大きな論文が続々発表されている。直海俊一郎は日本のNacaeus属をまとめ、newtoniellus(沖永良部島、沖縄本島)、iriomotensis(西表島)を記載すると共に、Lispinusで書かれた2種を本属に移した(JJE 65: 127-142)。また、引き続きメダカハネカクシ属のRevisionを継続しており、S. (Hypostenus) wasabi種群をまとめ、nakanei mikawanis(愛知面の木峠)、ignorabilis(四国)、i. awajinis(淡路島)を記載した。また、この群の雄交尾器内袋の形態についてPuthzのターミノロジーを参照しつつ論議している(JJE 65: 600-611)。同じくHypostenus亜属の4新種、aquilonalis Naomi et Puthz(北海道、栃木、サハリン)、vernalis Naomi(静岡、岡山)、brendelli Naomi(福岡)、yoshidai Naomi(徳島)を記載した(JJE 65: 745-759)。さらに同じく4新種oblongulus (鹿児島)、tsurusakii(鳥取)、ambiguellus(兵庫)、ruricolaris(福岡)を記載し、kanmiyai Naomi, 1988をS. (Hemistenus) benefactor Ryvkin, 1985のシノニムとした。また、S. (Tesnus) immarginatus Maeklinを北海道から新たに記録すると共に、京都から記載され、記録の少なかったS. (Hypostenus) incommodes Puthzの追加記録を報じた(ESC 1: 99-104)。さらに以下の6種の短翅種(後翅が退化して短くなった種)を記載した。volkeri(大阪)、pubicornis(和歌山)、utan(神奈川県箱根)、tokunis(徳之島)(以上Hypostenus亜属)、bishamon(徳島)、hotei(徳島)(以上Parastenus亜属)(ESC 1: 385-392)。さらにParastenus亜属のcirrus種群2種をまとめてsugiei(石川、富山)を書き(ERJ 52: 1-7)、短翅4新種、autumnalis(徳島)、haginoi(尾瀬)、puthziellus(早池峰山)、silvaticulus(福島・栃木)を記載した(JSE 3: 15-23)。また、S. comma種群を整理すると共に近縁のDianous属に2新種、moritai(奄美)とviridicatus(大台)を記載している(NE 46: 1-7)。
 柴田泰利はロシア沿海州から記載されたオオキバハネカクシの美麗種、Pseudoxyporus cyanipennis(ルリバネ)を北海道から記録、再記載した(EL 25: 509-514)。
 渡辺泰明はLathrobiumナガハネカクシ属ヒメコバネナガ種群について綿密な検討を行い、石川県から4新種、sugieiスギエヒメ、notoenseノトヒメ、shiritakanumシリタカヒメ、nabetanienseナベタニヒメを記載した(EL 25: 135-146)。さらに、オオコバネナガ種群をまとめ、5新種、tanakaiタナカ(護摩壇山)、ohdaienseオオダイ(大台ヶ原)、hikosanenseヒコサン(英彦山)、daisensanumダイセンサン(香川大川山)、moritaiモリタ(山口寂地山)を書いた(EL 26: 85-98)。また、台湾大雪山系の同属2新種を記載した(EL 26: 303-311)。また、肖寧年と共著で中国雲南省から同属の6新種を記載し(EL 25: 493-508)、Nazeris属4新種を書いた(EDA 58: 1-11)。さらに、静岡市安倍峠からXylostiba tahiraiホソヨツメを記載した(JJE 65: 760-763)。また、渡辺は下甑島(EL 26: 313-314)、大隅諸島黒島(EL 25: 508)、沖永良部島(EL 26: 140)、沖縄久米島(EL 26: 98)のハネカクシリストを報じ、小野田繁と共著で与論島新記録の4種を報告している(EL 26: 262)。趙梅君と酒井雅博は琉球のAstenusをまとめ、ohbayashii(奄美大島)、spinosus(石垣島)の2種を記載した(JSE 3: 85-89)。
 A. Bordoniは日本のXantholininiナガハネカクシ族研究の1として数種を再記載し、所属の整理をすると共に、Hypnogyra tenebrosaを横浜から記載した(JSE 3: 167-179)。
 A. Smetanaは東アジアのQuediusツヤムネ属を精力的に調査し、北ベトナムから2新種を記載した(EL 25: 123-128)。また、中国雲南から2新種、中国新記録1種、雲南省新記録1種を報じた(EL 25: 129-134)。さらに中国産Microsaurus亜属について、陜西省から2新種、雲南省から4新種を記載し(EL 25: 451-473)、四川省から6新種、甘粛省から1新種、福建省から1中国新記録種を報じた(BSM 23: 51-68)。四川省及び陜西省からもRaphirus亜属の5新種を記載した(EL 26: 99-113)。アムール、キルギスタン、日本のいくつかの種についても分類学的な整理を行っている(EL 26: 115-128)。Distochalius亜属についても中国各地から4新種、1新記録種を報じた(El 26: 315-332)。林靖彦はオオハネカクシ属のタイプ属(中南米産)について調査を行った(EL 25: 475-492)。また、ハイイロ属群の研究を引き続き行い、ハイイロ属にハイイロハネカクシをタイプ種とした新亜属Pareucibdelusを設立し、新種ishigakiensisを記載してそれをタイプ種とする新亜属Nudeucibdelusを創設した(ERJ 52: 25-37)。しかしこの後の亜属を自ら原名亜属のシノニムとし、新種orientalis(インド、タイ、ラオス)をタイプ種とする新亜属Neocibdelusを設立した(ERJ 52: 103-110)。また、中国雲南と台湾からEucibdelus2新種を記載し(ERJ 53: 33-42)、マレー半島からRhynchocheilus1新種を書いた(ERJ 53: 87-90)。さらに台湾からPhilonthus属3種を新たに記録している(ERJ 52: 38)。
 シリホソハネカクシ亜科では、直海と丸山宗利が日本産Sepedophilus属を検討し、以下の2種群をまとめ、新タクサを記載した(ERJ 52: 61-71)。glabratus(本州、九州)、g. okinawanis(奄美、沖縄本島)(以上、glabratus種群) 、exiguus(石垣島、台湾)、elegantissimus(沖縄本島)(以上、exiguus種群)。また、armatus種群をまとめて、以下の新種を記載した。subarmatus(本州、口之永良部島)、quadrifurcatus(奄美大島・沖縄本島)、apicalis(沖縄本島)、iriomotensis(石垣・西表島)(JSE 3: 239-257)。また同じくpedicularius種群をまとめ、次の8新種1新亜種を書いた。facilis(本州、九州)、f. tsushimanis(対馬)、hirsutus(本州、九州)、insulicola(沖縄本島)、nomurai(本州、四国)、ishiiellus(北海道、本州)、satoshii(福岡)、apterus(本州、四国)、consimilis(九州)。台湾からも3新種を書いている(Nat. Hist. Res., Chiba 5: 43-51)。李利珍と酒井は日本新記録属の新種、Bryophacis yasudaiを北海道大雪山から記載した(JSE 3: 91-94)。また、日本のBolitobius属をまとめ、2新種、okamotoi(愛媛)、longicornis(石鎚山)を記載した(JSE 4: 77-88)。李は大林と共著で対馬からLordithon aitaiズグロキノコを記載した(JSE 3: 95-98)。さらにCarphacis属の1新種kawanabeiを皿が嶺から書いた(JSE 4: 89-91)。
 ヒゲブトハネカクシではC. MausがAleochara属Coprochara亜属について日本産1種を含む30種についてまとめ、♂交尾器の構造と♀受精嚢の形態の対応について論じた(KR 68: 81-100)。岸本年郎は日本産Tetrabothrus属2種について記し、新種septentrionalisキタコンボウヒゲブト(北海道)を記載し、コンボウヒゲブトを琉球から新たに記録した(EL 25: 445-450)。岸本はまた、小笠原のハネカクシ約60種を検討し、固有種は5種としている(昆58会:60)。丸山はクサアリ亜属の蟻と共生するハネカクシ類を、独創的なトラップを使って採集し、北海道、本州から好蟻性の22種を記録した。また、シナノセスジエンマムシや新種と思われる大形のエンマムシを採集したという(鞘11会:3)。
 アリヅカムシではハネカクシ型の微小なグループであるMayetia属が千葉市内から発見され、発見者にちなんでishiianaイシイツチアリヅカと命名された(Nomura & Naomi, 1997: JJE 65: 556-561)。筆者らはMayetiini族のアジアからの最初の記録と報じたが、ネパールからヤ95年に1種報告されていることが後にわかった。野村は代表的な好蟻性甲虫であるヒゲブトアリヅカ類を研究しており、ヤマトヒゲブト属をまとめて5種とし、日本から1新種、中国雲南から1新種を書いた。また、コヤマトヒゲブトを7亜種に分類し、4新亜種を記載した(ESA (37): 77-110)。そしてこの中で韓国亜種としたdentipesを愛媛県津島町から記録した(EL 26: 153-154)。また、台湾と日本産Triartiger ミフシヒゲブト属をまとめ、対馬から1新種を記載した(EL 25: 435-444)。さらに、琉球、台湾からMicrelytrigerコバネヒゲブト属を創設し、日本産2新種、台湾産1新種を書いた(BSM 23: 115-126)。また、アトキリ族のBarbiera palpalis アシベアリヅカを本州、四国、九州から初めて記録した(EL 26: 129-130)。I. L喘l・S. A. Kurbatov・野村はマルムネ属をまとめ、中国、台湾、ベトナム、日本から12新種(日本産3種)を書いた(BSM 24: 69-105)。さらに日本のオノヒゲ属を検討してJeannelが分けた3亜属を廃し、21新種を追加して34種とした(Species Diversity 3: 219-269)。実はこれでもこの属はまだ半分以下が解明されたに過ぎない。以上の詳細については「ハネカクシ談話会ニュース」に随時報告しているので、そちらの方も参照されたい。
 ダルマガムシは日本ではあまり盛り上がっていないが、ヨーロッパでは大論文が続々発表されている、堂々たる人気甲虫である。M. A. J劃hは大きな属の一つであるOchthebiusをまとめつつあるが、知床林道から新種hokkaidensisを記載した(KR 68: 175-187)。Perkins(1997)も大きな論文を書いている(Annals Cabegie Mus. 66(2): 89-207)。松井英司とJ. A. Delgadoは鹿児島県日の神から新種の海浜性ダルマガムシ、Ochthebius yumiae シオダマリセスジダルマを記載するとともに、日本産本属の検索表を作成した。(ESA (37): 71-76)。ムクゲキノコは最近話題に乏しいが、澤田義弘がMicado属の分類学的位置について検討している(昆58会:63)。

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