神戸北区に隕石落下
……… 2000.3.3 updated ………

 神戸市北区に隕石が落下

 平成11年9月26日午後8時20分過ぎ、神戸市北区筑紫が丘の民家に隕石と思われる岩石が落下しました。隕石である事が確認されると、平成8年1月7日につくば市とその周辺に落下したつくば隕石以来3年8ヶ月ぶり、46番目の日本に落下した隕石となります。
隕石の回収総重量は136グラム、最大の破片は62グラムで、長さが約5センチメートル、幅が3センチメートル程度。2階の子供部屋のスレートぶきの屋根をやぶり、その衝撃で10個あまりの破片に割れて部屋の中に散乱していました。
落下の際の火球も、多くの人々が目撃しています。目撃情報をまとめておられる日本流星研究会・司馬康生氏によると、火球は姫路上空を通過しほぼ真西から東に向かって落下したと考えられるそうです。上空で分裂したとの情報も寄せられていますが、現在のところ、その他の場所への落下は確認されていません。
兵庫県警の依頼を受けて調査を進めている神戸大学・中村昇教授によれば、
始原的な球粒隕石の一種である可能性が高いとのことです。現在、宇宙線によって生成する微弱な放射能の計測などが行われており、近日中に発表される予定になっています。

隕石の画像

(写真提供 兵庫県警察本部科学捜査研究所)

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 続報1 記者発表

 平成11年10月2日、神戸市北区筑紫が丘の民家に落下した隕石について、兵庫県警察本部にて記者発表が行われました。県警科学捜査研究所参事・二宮利男博士から概略の説明と隕石であることが確認されたという報告があり、その後、県警の依頼を受けて調査の中心的な役割を果たされた神戸大学理学部・中村昇教授が、結論に至った理由と隕石の学術的意義についての解説をされました。
さらに、金沢大学理学部・小村和久教授が放射能測定の結果について、姫路工業大学理学部・松井純爾教授がSPring-8放射光X線を用いた元素分布分析の結果について説明されました。要点は以下の通りです。

経過
 平成11年9月26日(日)午後8時23分ごろ、神戸市北区筑紫が丘3丁目会社員宅において、スレート葺屋根及び2階南東6畳洋間の天井板部分に、岩石のようなものによって約10cm角大の穴が開けられました。
回収された破片は大きいものから64.9グラム、32.9グラム、13.6グラムで、これらを含め1グ ラム以上の破片が10個あります。さらに小さなものも含めた総重量は 135.2グラムになりました(上記の第一報と重量が異なりますが、科捜研で改めて測定した値です)。

■岩石の特徴
外側には黒い溶融殻(fusion crust:大気との摩擦で熔けてできた酸化皮膜)が見られ、灰色の内部には球粒(chondrule)と思われるガラス質の丸い粒が見られます。比重は3.44と比較的高く、磁石につきます。
蛍光X線分析装置による定性分析の結果、ケイ素、マグネシウム、アルミニウムといった通常の岩石に含まれる元素に加え、多くの鉄やニッケルを含んでいるらしいことが明らかになりました。これらの特徴はすべて、石質隕石の一種“
球粒隕石(chondrite)”の性質と一致しています。

■放射能測定
 落下後1日も経っていない27日午後5時より、金沢大学理学部附属低レベル放射線実験施設においてガンマ線の測定が開始されました。宇宙空間には宇宙線と呼ばれる高エネルギーの粒子(主に陽子)が飛びかっています。この宇宙線は大気に遮られ、地上にはほとんど届きませんが、隕石は宇宙空間にいる間に宇宙線を浴びています。宇宙線が隕石を構成している原子の原子核に衝突すると、元の原子核より小さないくつかの原子核に砕けてしまいます(核破砕反応)。こうしてできた原子核(宇宙線生成核種)の中には放射性の核種も含まれており、これを検出することによって、確かに隕石であることが証明されます。

 調査の結果、半減期(放射能が半分になる時間)15時間のナトリウム-24から半減期 72万年のアルミニウム-26まで16種類以上もの核種が検出されました。この中にはこれまで検出された報告のない核種、マグネシウム-28(半減期21時間)も含まれています。半減期の短い核種は、落下後しばらく経つと検出することができないほど少なくなるため、この結果は迅速な測定の成果といえるでしょう。逆にこれらの核種が検出されたことで、落下した岩石が、直前まで宇宙空間にいた隕石であることが証明されたわけです。

 なお、隕石に特有のこれらの放射能は非常に微弱で、検出には高感度のガンマ線検出器が必要です。地球上の花崗岩などの岩石には微量のウランやトリウムが含まれており、その放射能は隕石中の宇宙線生成核種による放射能に比べてはるかに高いのが通常です。したがって、隕石のそばにいたり触れたりしても健康に影響はありません。

◆神戸隕石は、その特徴から球粒隕石の中でも始原的な炭素質隕石である可能性が 高く、神戸大学を中心に詳しい分析が進められる予定です。分類が確定すると落下地にちなんで命名され、国際隕石学会に登録されます。

◆「日本流星研究会」の司馬康生氏が、『日本火球ネットワークのページ』で神戸隕石の詳しい落下経路を発表しています。

 

 続報2 「神戸隕石」は日本初の“炭素質球粒隕石

 神戸市北区に落下した隕石は「神戸隕石」と命名され、国際隕石学会に正式に承認されました。神戸大学と国立極地研究所が鉱物学的研究を行いましたが、その結果、「神戸隕石」は炭素質球粒隕石(carbonaceous chondrite)の岩石学的タイプ4に分類されました(略してC4タイプ)。
落下してくる隕石の約87パーセントが球粒隕石ですが、炭素質のものはそのうち5パーセントにもなりません。「神戸隕石」は日本に落下が確認された最初の炭素質隕石になります。

 典型的な炭素質隕石はその名の通り、炭素や有機物、水といった生命に必要な物質を多く含んでおり、太陽系ができた時代の様子を探る貴重な資料です。ただ、C4タイプである「神戸隕石」は、形成された頃に熱による変成を受けており、上述のような物質をあまり多く含んでいないと考えられます。
炭素質隕石はさらにいくつかの種類に分けられます。これを確定し最終的な分類を行うために、詳しい化学組成や同位体組成の研究が、神戸大学を中心に当館や各地の大学等10機関の共同で現在進められています。

.◆神戸隕石は平成11年12月11日から『神戸市立青少年科学館』にて公開展示されています。

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