共生菌からみたマヤランの不思議な暮らし

筑波実験植物園
Tomohisa Yukawa

遊川 知久(ゆかわ ともひさ)
筑波実験植物園

マヤランはシンビジウムの仲間

マヤラン(Cymbidium macrorhizon) はラン科シュンラン属に分類される植物で、里山に生えるシュンランや、花屋で売られているシンビジウムの仲間です(写真1)。マヤランは葉と根を持たないとても変わった植物です。普段は地下茎が地中に潜っているだけ(写真2)。地上に姿を現すのは花だけなのです。

マヤラン写真1 マヤラン(Cymbidium macrorhizon)
マヤランの地下茎写真2 マヤランの地下茎
地下茎の断面写真3 地下茎の断面
根も葉もなくてどうやって生きているのだろう

植物は葉で光合成を行ってデンプンを作り、それによって生きるためのエネルギーを得ています。けれども葉のないマヤランは、光合成できません。どうやって生きているのでしょうか?マヤランの地下茎を切って見ると、写真3のように細胞の中にたくさんの菌がいることが分かります。自力でデンプンを作り、水を吸収する代わりに、共生する菌から栄養と水をもらって大きくなります。

マヤランの共生菌写真4 マヤランの共生菌
マヤランの共生菌

マヤランの共生菌は一体どんな菌なのか気になります。あちこちのマヤランの自生地から地下茎を採集し、共生菌のDNA を調べました。その結果、マヤランの共生菌は、担子菌のベニタケ科(Russulaceae写真4)、イボタケ科(Thelephoraceae)、シロキクラゲ科(Sebacinaceae)であることがわかりました。平たく言えばキノコの仲間です。

これらのキノコは特定の種類の樹木の根としか共生しないため、共生関係にある木の種類が生えていなければ死んでしまいます。3者の関係を整理すると、「マヤランは、ベニタケ科などのキノコなしでは生きていけない」、「ベニタケ科などのキノコは、特定の種類の木なしでは生きていけない」ということです。つまり「マヤランは、特定の種類の木なしでは生きていけない」ということでもあります。では、マヤランの命を支えている木はどんな種類でしょう?これは今から調べるテーマです。

マヤランは絶滅のおそれのある種です。マヤランを絶滅から救うためにも、マヤランと共生菌、さらには周囲の樹木の関係を詳しく理解する必要があるのです。