注目を浴びる産業遺産

鈴木 一義(すずき かずよし)
産業技術史資料情報センター
名誉研究員
日本の世界遺産に3件の産業遺産
近年、日本の世界遺産に「石見銀山遺跡とその文化的景観」や「富岡製糸場と絹産業遺産群」「明治日本の産業革命遺産」など、産業遺産と呼ばれる分野の登録が相次いでいる。現在日本には、文化遺産16、自然遺産4、計20の世界遺産があるが、暫定リストにはさらに「金を中心 とする佐渡鉱山の遺産群」が産業遺産として掲載されており、今日工業力において世界有数を自他共に認める日本が、どの様に近代化、工業化を達成してきたかが、世界的に発信され、関心を集めているといえよう。
産業遺産の価値をどう保存するか?
この登録された世界遺産は、継続的にその価値や意義について調査し、保存管理、整備計画などを策定して実行し、報告する義務があるのだが、産業遺産には一筋縄では行かない課題が多い。当初から産業遺産の世界遺産登録に関わってきたが、特にこれまで保存や修復が行われてきた文化財史資料は、歴史的な建造物や絵画や美術品などのように、その修理や修復、復元や複製が価値を損な わない手段として蓄積され、行われてきた経緯がある。しかし産業遺産は、
| 「産業遺産は、歴史的、技術的、社会的、建築学的、あるいは科学的価値のある産業文化の遺物から成る。これらの遺物は建物、機械、工房、工場及び製造所、炭坑及び処理精製場、倉庫や貯蔵庫、エネルギーを製造し、伝達し、消費する場所、輸送とその全てのインフラ、そして住宅、宗教礼拝、教育など産業に関わる社会活動のために使用される場所から成る。」 〈国際産業遺産保存委員会(TICCIH)〉 |
と定義されるように、その対象が極めて広範であり、また産業遺産としての歴史的、技術的価値などが生まれる中で、大半の産業遺産には改良、更新が行われており、すべてを保存することはもちろん、遺産として何をどう保存すべきか、その評価法も蓄積も世界的にほとんどないのが 現状なのである。
現在、産業技術史資料情報センターでは、このような産 業遺産に関わる分野の系統化調査を実施したいと考えて いる。保存や活用についての試行錯誤も含め、一つ一つの 事例を蓄積していくことが、産業遺産だけでなく、実は博物館にとっても有用な蓄積になると考えている。
左:石見銀山構内調査(1999年) 右:大間港に残るトラス橋と護岸(佐渡金山) 明治25年に完成した大間港には、往時からの護岸やクレーン台座やトラス橋が残っており、その保存方法が検討されている。
軍艦島(長崎・「明治日本の産業革命遺産」) 長崎にある端島(軍艦島)には、大正5年建設の日本最古の鉄筋コンクリート建造物など数十棟が現存するが、種々の施設機能も含めてその保存方法は確立していない。研究者に聞いてみました!
1) 専門は何ですか
江戸時代から宇宙ロケットまで、日本における技術、モノづくり発展の状況を研究しています。現在の技術やモノづくりについ て、その原点や発展の要因を調べていたら、 いつの間にか幅広くなっていました。
2) これから取り組んでみたい研究は
日本の近代化以前、江戸時代のモノづくりについてもっと調べてみたいです。そこが日本のモノづくりの原点だと考えています。
3) 自身の研究内容と社会、一般との接点は
世界遺産などもそうですが、日本のモノづくりに社会的な関心が高まっていると感じ ています。社会や多くの人が知りたいと思っていることを、博物館の展示などを通して、分かりやすく伝えられればと思っています。
4) 研究する上での苦労や悩みなどはありますか
技術分野は日進月歩が激しく、また専門分化しているので、博物館のような俯瞰的な視点で技術を見る場合に、いろいろな方々の協力や資料を参考にするのですが、それがどんどん難しくなっていて、これからは一人ではなく、チームのような形が好ましいと思っています。今、その方法を思案中です。