埋もれた資料に再び光を!

前島 正裕(まえじま まさひろ)
産業技術史資料情報センター
科学・技術は私たちの生活を大きく変えました。これらに関する資料の一部を保存し次世代に伝えることは、その歴史を残していくことでもあります。科学や技術は人が考え作り出してきたものですが、その業績や関係する資料は、長い年月の間に忘れられ、価値観の変化とともに、いつの間にか廃棄されてしまったモノもあります。
歴史の研究は、現代との対話とも言われます。古い資料が残っていれば、問いかけ次第で新しい知見を見いだすこともできます。私の仕事は、日本の近代の歴史にとって意味のある資料の保存と活用のため、これら古い資料を掘り起こし、その意義を問いかけることです。
2017年は、熊本県のエジソンミュージアム「森林館」(休館中)で展示されていたエジソンにかかわる資料を引き受けました(写真1・2)。ここでは長らくエジソンに関する資料や蓄音機などを展示していたのですが、数年前の水害のため継続が困難となり、資料の所有者が引き受け先を探していたのです。確かに蓄音機や電気自動車は、博物館の展示品としては人目を惹きますが、当館が科学技術史資料として受け入れるためには、技術史的な視点からの考証が必要でした。所蔵品を調べたところ、初期の錫箔蓄音機の他に、エジソン社のバッテリーや、エジソンの研究所の配線材料もあることがわかりました。これらは電力の技術の歴史上、とても重要なモノです。
また、大阪大学で保存されていたトムソン・ヒューストン交流発電機も引き受けました(写真3)。これは日本初の高圧交流式の発電所の最初の発電機として、我が国の電力史上のマイルストーンであるだけでなく、電気技術史の教科書に掲載されているほど、世界的にも歴史的意義が高いものです。
1:ミルバーン電気自動車 1920年前後、Milburn Wagon Co.製。自動車の黎明期、ガソリン車が主役となり始める頃の車。
2:蓄音機用蝋管 蝋管用蓄音機の音源。1880 年代後半から製造され、時代や製造者により材質、演奏時間など様々である。初期のワックス製の蝋管の中には、非常に保存が難しい物もある。
3:Thomson Houston Arc Light Dynamo トムソン・ヒューストン・エレクトリック社製、アーク灯用交流発電機。1,200燭光、30燈用。大阪電燈株式会社の最初の火力発電所、西道頓堀発電所で創業の1889年に使用されていた。アーク灯とは、放電が発する強い光を利用した明かりで、明治時代に主に街灯や工場照明などに用いられた。研究者に聞いてみました!

1) 専門は何ですか
科学技術史、特に電気技術史です。
2)研究以外の趣味や熱中していることはあ りますか
手を動かすこと。常に何かを作っているこ と。特に切る、削る、磨くことが好きです。
3)研究する上で一番大事だと思うことは何 ですか
現存する資料は、誰かが意識して保存して きたものです。一見すると埋もれていたと 思われる資料を発見した喜びで忘れがちに なりますが、それまで保存してきた先人の 業績を尊重することを心がけています。
4)座右の銘や本などがあればご紹介ください
自分は早とちりのところがあるので、ドナルド・C・ゴース、ジェラルド・M・ワインバーグ著『ライト、ついてますか』は、課 題の解決を考えるとき、多方向から課題を 考えるきっかけになりました。