日本の蛾類相解明を目指して

標本資料
Utsugi Jimbo

神保 宇嗣(じんぼ うつぎ)
標本資料センター

南北に細長い日本列島には、多様な環境に暮らすたくさんの生物が知られています。蛾類は、昆虫の中でも種数の多いグループで、これまでに6,000種以上が知られていますが、未解明のものもまだまだ存在します。そこで、小型の蛾類を中心に、国内外の各地で野外調査を行って標本コレクションを構築しつつ、未知の種類を解明したり、これまでに知られている種を調べ直したりするなどの研究を行っています。最近では、DNAバーコー ディングと言われる、 DNAを用いて種を識別する手法を活用し、かたちだけではわかりにくい種内変異もあわせて調べて います。

蛾類の野外調査は、夜に灯りをつけて 行う灯火採集がもっとも一般的ですが、 昼間、植物を丹念に見て幼虫の探索を行 うことも大切です。最近では、植物で固有の分類群が多く知られている屋久島およびその周辺と、都市緑地である国立科学博物館附属自然教育園(東京都港区白金 台)での調査をおもに行ってきました。前 者では新たな固有要素や屋久島新記録種の存在が、後者では近年における南方系種の進出が、それぞれわかってきました。 今後も調査研究を進め、一歩でも蛾類相の解明を目指していきたいと思います。

灯火採集セット灯火採集セット。白い布を張り、発電機を使って灯りをつけ、虫をおびき寄せます。
アカトビハマキ屋久島のアカトビハマキ。本来は左のように斜めのしま模様がある種ですが、屋久島にはしま模様がまったくない個体(右参照)がしばしばみられます。両者は混生していて、斑紋以外の形態やDNAでは区別できないことから、屋久島固有の斑紋変異と思われます。
新種_屋久島産新種と思われるが名前のわからない屋久島産の種(未同定種)。よく似たまだ名前のついていない種が本州の数カ所から知られており、詳細を検討しているところです。

研究者に聞いてみました!

神保博士_研究員に聞いてみました
1)専門は何ですか

小さな蛾のなかまの分類学です。新種の記載から情報発信まで幅広く研究しています。

2)自身の研究内容と社会、一般との接点は

野外での調査から新種の記載まで、研究によって明らかになった生き物の情報は、生物の保全を行う上での基礎として不可欠です。また、研究の中で見つかったおもしろい生き物の話によって、多くの方が自然に関心を持ってくれたらいいなと思っています。

3)今の職業に就いていなければ何をしていると思いますか

以前は、昆虫調査をする傍らでプログラミングなどにも携わっていましたので、コンピューター関係の仕事に就いていたかもしれません。情報学的な研究も行っているので、今の仕事とも無関係ではありません。

4)研究する上で一番大事だと思うことは何ですか

一つと言われると難しいですが、地道にコツコツと作業を積み上げていくことと、幅広く視野を持つことをバランスよく行うことだと思います。