地層に時間軸をあたえる

堤 之恭(つつみ ゆきやす)
理学研究部
鉱物科学研究グループ
通常、地層の年代は含まれる化石から判断されます。しかし、年代決定に有効な化石 (示準化石と呼ぶ )は、比較的広くある程度深い海に棲息していた生物の化石が多いので、浅い海や陸水中で堆積した地層には、微化石を含む示準化石が含まれない場合が多くあります。そのような場合に頼りとなるのが放射年代測定という手法です。
国立極地研究所のSHRIMP(高感度高分解能イオンプローブ:左 )と当館のLA-ICP-MS(レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析計:右 )。共に、ジルコンのウランー鉛年代を測定するのに有用な機器である。私は、主にジルコンという鉱物に含ま れるウランと鉛の存在比を用いた年代測 定法による「示準化石を含まない地層や 岩石」の年代測定を専門としています。
兵庫県中央部に分布する篠山層群と呼ばれる地層は、恐竜を含む多種多様な脊椎動物化石を産することで有名です。さらに、「ササヤマミロス・カワイイ」という初期の哺乳類化石も発見されています。しかしこの地層は、有効な示準化石を含まない上、従来の年代測定では堆積年代は確定できなかったために、これらの化石の生命進化史上の位置づけは不明でした。そこで、堆積年代の決定のために化石含有層直下の凝灰岩に含まれるジルコンを国立極地研究所のSHRIMPで分析し、約112Ma(約1億1200万年:前期白亜紀アルビアン前期 )という結果を得ました。この結果は、「ササヤマミロス・カワイイ」が前期白亜紀のものと決定されただけでなく、他の篠山層群産出化石の学術的価値をも高めるでしょう。
この「成功」に気を良くして (?)、現在、当館で導入されたLA-ICP-MSも用いて、様々な地層の年代測定を試みています。
「化石濃集部 (右図 )」から発見された哺乳類「ササヤマミロス・カワイイ」の顎骨の化石。このほかにもカエルやトカゲ、恐竜の化石も発見されている。
「化石濃集層」直下の凝灰岩の年代が112.1±0.4Ma(約1億 1200万年前 )これは、ほ
ぼ化石濃集層の堆積年代を示す
研究員に聞いてみました!

1)専門は何ですか?
一応、「地球年代学」および「地質学」と自称しています。
2)研究者になろうと思ったきっかけは何ですか?
私自身、研究者になれると思っていなかったので、「なろうと思ったきっかけ」と問われると「ありません」という答えになります。
私が研究を続けられているのは、偶然と幸運の結果だと思っています。
3)最近の研究活動で、最も興味深かった出来事は何ですか?
ここ数年、ロシア極東に出入りしています。日本・ロシアそれぞれの石の年代を分析した結果、日本とロシア極東との地質上でのつながりを再認識したことです。
4)研究者になりたい方に一言アドバイスを !
「研究者になりたい」という気持ちよりも、「~を研究したい」という気持ちを大事にすることも選択肢の一つかもしれません。