湖の珪藻が来た道を探して

生命史
Megumi Saito

齋藤 めぐみ(さいとう めぐみ)
生命史研究部
環境変動史研究グループ

珪藻は単細胞の植物プランクトンの仲間です。細胞を包むガラスの殻が化石になります。ほとんどは大きさ0.1mm以下なので肉眼で見ることはできませんが、顕微鏡で拡大して観察します。

水月湖(福井県)の湖底の地層(ボーリングコア)に含まれる珪藻化石を調べたところ、現在は琵琶湖(滋賀県)にしかいないスズキケイソウが、約2万年前から近世まで、水月湖に生育していたことが明らかになりました。琵琶湖のボーリングコアに含まれる化石記録によって、スズキケイソウは琵琶湖において約12万年前に誕生したと推定されています。つまり、スズキケイソウは琵琶湖から水月湖にまで分布範囲を広げたと考えられるのです。二つの湖の間は直線距離で30kmほどですが、標高千m級の山々が連なる山地によって隔てられています。珪藻は自ら泳ぐことも歩くこともできないので、風や湖沼間を移動する動物によって運ばれたはずです。スズキケイソウは、いつ、どのような経路で、何によって運ばれてきたのでしょう?

移動経路を知るための方法のひとつは、スズキケイソウが通ったかもしれない琵琶湖や水月湖周辺の地層を調査することです。たとえば、水月湖に隣接する三方湖では1991年に100mを超える長さのボーリングコアが掘削されています。この所在を問い合わせたところ、若狭三方縄文博物館に保管されていることが確認されました。掘削当時の研究目的をすでに果たした資料を、その後20年以上も大切に保管してくださった方々に感謝しつつ、わたしも科博も同じ使命を負っていることに身の引き締まる思いです。

水月湖のスズキケイソウ水月湖のスズキケイソウ(化石)の走査型電子顕微鏡写真(直径約0.02mm)若狭三方縄文博物館_ボーリングコア若狭三方縄文博物館に保管されていたボーリングコア

研究者に聞いてみました!

齋藤博士_研究員に聞いてみました
1)専門は何ですか

珪藻化石の形から、生物の進化や環境変化を研究することです。珪藻化石を顕微鏡を 使って観察すると、とてもおもしろい形が見えてきます。その形に魅かれます。

2)これから取り組んでみたい研究は

どうにかして珪藻化石の拡大三次元モデルを作り、それを手で触りながら研究したい です。それを使って、珪藻がなぜそのような形をしているのかを調べる実験をやりた いと思っています。

3)研究以外の趣味や熱中していることはありますか

水泳です。週末は子どもたちと泳いでいます。

4)座右の銘や本などがあればご紹介ください

こころの健康 からだの健康。わたしが通った高校のモットー(座右の銘)です。大 人になってから大切さが分かりました。