恐竜の夢を見て、ネズミを発見?!

生命史
Yuri Kimura

木村 由莉(きむら ゆり)
生命史研究部
進化古生物研究グループ

90年以上前、アメリカ自然史博物館は中央アジア探検 隊を組織し、大掛かりな化石発掘調査をゴビ砂漠とその周辺で行いました。恐竜の卵の化石を発見したことで世界的な注目を集め、この探検隊を率いた古脊椎動物学者のオズボーン博士と探検家のアンドリュースの物語は、今でも世界中の化石ハンターや恐竜ファンを魅了し続けています。 私もその一人です。ただし、恐竜学者になることを夢見ながら、アンドリュースも眺めたであろう内モンゴルの大草原で発見したのは、ルーペでやっと見られるほどのとても小さな「生きている化石」でした。

この化石は、オナガネズミ(Sicista属)という現在も生息するグループの化石種で、約1700万年前の地層から見つかりました。オナガネズミはヤマネのような姿で、後ろ肢がやや長いという特徴を持ちます。化石はバラバラになった歯で、 頭骨や体の骨は発見されませんでしたが、歯に見られる特徴的な形態からオナガネズミの一種で間違いないと断定されました。そして、全ての現生種・化石種と比較 した結果、非常に原始的な新種であるとわかり、2011年 にSicista primusと名付けました。その発見まで、オナガネズミの最古の化石は約800万年前の堆積物から見つかっ たものとされており、Sicista primusのおかげでSicista属の生存期間が倍以上に伸びたことになります。齧歯類は哺 乳類全体の半分近くを占めますが、1700万年以上から生息していた属はオナガネズミで8例目というほどまれです。 そして、真のネズミのグループである「ネズミ下目」の中だけで比べると、ダントツで長命です。恐竜転じて鼠となる。 小型哺乳類化石もなかなか面白いのです。

講談社「きょうりゅうのたまごをさがせ」私の原点
©たかしよいち・吉川豊(1989)『きょうりゅうのたまごをさがせ』理論社
Sicista Primus イラスト中国の朋友チーガオ君が描いてくれたSicista primus
Sicista primus 歯Sicista primus の歯Sicista primus 歯のスケッチスケッチに挑戦

研究者に 聞いてみました!

1)専門は何ですか

古脊椎動物学です。小型哺乳類化石の中でも齧歯類が専門ですが、ウサギとコウモリも勉強中です。少しずつ守備範囲を広げられたら良いと思っています。

 2)これから取り組んでみたい研究は 

いつか恐竜時代の哺乳類も研究してみたいです。

3)研究者になるために一番大事だと思うことは何ですか

時には、他の研究者から、自分の仮説や導いた結論を反対されることもあります。だから、簡単には折れない心、自分を信じる心が大事です。 そして、自身にそう思わせるくらいのたくさんのデータと証拠を集めることが一番大事だと思っています。

4)今の職業に就いていなければ何をしている と思いますか

7歳の時に連れて行ってもらった大恐竜博で化石に興味を持ちました。その後、小学 生高学年で読んだ「きょうりゅうのたまごをさがせ」がきっかけで、科博で恐竜を研究するという具体的な夢ができました。科博の研究者になり、少し違う形で、20年来の夢が叶いましたが、それまでにたくさんの分岐点に立ちました。今の職業に就いていなかったとしても、その時々の過去の自分に「よくがんばりましたね」と伝えたいです。だから、タイムマシン開発者になりたいです。