高山植物のこれまでとこれから

村井 良徳(むらい よしのり)
植物研究部
多様性解析・保全グループ
日本の高山帯などには、高山植物と呼ばれる多種多様な植物が生育しており、高嶺に咲き誇る花々は、その美しさで私たちを魅了します。それらの多くは、北方の寒冷な地域に起源を もつと考えられています。大陸との共通種もあれば、日本列島の環境下で種分化をとげた日本固有とされる種も存在します。
高山植物のなかには、これまでにたどってきた道のりが詳細に検証されていないものが多いため、分類学的な取り扱いが混乱している分類群などを中心に調査を進めています。またこれまで知見が非常に乏しかった化学成分の多様性についても研究を行っています。特に紫外線防御や抗酸化などの機能性をもつ化学成分は、生育環境によりその含有量が変動することも分かりはじめており、現在詳しく解析を進めています。
高山植物を取り巻く状況は決してよいとは言えません。そもそも分布や個体数が限られる種が多いほか、温暖化による影響を受けやすいことや、人間による盗掘、シカをはじめとする動物による食害などでも個体数が大きく減少してしまい、絶滅の危機に瀕している植物が多いのも特徴です。高山植物の多様性を後世に残すため、市民団体や行政などによる自生地で の保全活動(生息域内保全)が行われている一方で、植物園では生息域外保全に関する研究も進んでいます。またセミナーや 企画展などにおいては、高山植物の素晴らしい多様性と共に危機的な状況についても積極的に情報発信を行っています。今後もさらに高山植物のこれからを見据えた活動を推進していきたいと思います。
日本に分布する多種多様な高山植物の例
植物園で栽培されている高山植物研究者に聞いてみました!

1) これから取り組んでみたい研究は
高山植物の開花に関する研究。栽培条件下ではなかなか花が咲かない植物があります が、生息域外保全においては、解決すべき重要な問題です。
2)自身の研究内容と社会、一般との接点は
植物園でのセミナーや企画展をはじめ館内外での講演などで、たくさんの方とお話をする機会があり、皆さん熱心に高山植物の話を聞いてくださいます。また、自然科学に関心をもたれる方も年々多くなっているように感じます。
3)やりがいを感じるのはどのような時ですか
研究成果を説明した際に、研究者はもちろん一般の方からも面白いと言ってもらえたとき。また自分の発表した論文が引用され、 さらに新しい研究につながったとき。
4)研究以外の趣味や熱中していることはありますか
子供と一緒に遊ぶことです。遊びの中にたくさんの学びがあります。また、子供の素朴な疑問にできるだけ分かりやすく答えるのも、なかなか勉強になります。