花の香りが多様な植物を生んだ

植物
Yudai Okuyama

奥山 雄大(おくやま ゆうだい)
植物研究部
多様性解析・保全グループ


現在、地球上には30万種を越える植物が生きていますが、このうち9割以上を被子植物(花を咲かせる植物)が占めています。なぜ花を咲かせる植物で際立ってたくさんの種が生まれたのか?この疑問は、「進化論の父」ダーウィンをはじめとして、多くの生物学者を悩ませた問題でした。 その謎を解く鍵のひとつは、昆虫をはじめとする花粉を運ぶ動物(送粉者)との関係にあると考えられています。 なぜなら花は、植物が決まった送粉者に花粉を運んでもらい、繁殖を成功させるために獲得した特有の器官だから です。僕は、日本列島でたくさんの種を生じた興味深い植物「チャルメルソウ」の仲間に着目し、花の香りが進化することで送粉者の変化が起こり、新しい植物の種が誕生する仕組みを解明しました。

チャメルソウの仲間の系統

明らかになったチャルメルソウの仲間の新しい種が生まれる仕組み。花の香りに含まれる成分「ライラックアルデヒド」を持つ祖先種の中から、ライラックアルデヒドを持たないものが生じると、ライラックアルデヒドを好む送粉者は訪れなくなるため、祖先種との交配が起きません(右)。このような進化は、チャルメルソウの仲間で5回繰り返し起き、それぞれ新しい種が生まれるきっかけになったと考えられます(左)。

今回の発見は、あくまで「チャルメルソウの仲間」という限られた植物だけでのものでしたが、同様のことは他の植物でも起きている可能性が高く、現在、類似の現象を調査中です。また、進化が起きたきっかけを解明するために 「香りの変化を引き起こす遺伝子」の解明も進めており、さらなるすごい発見が生まれてきています。

研究員に聞いてみました!

1)専門は何ですか

進化生物学、すなわち生物進化の謎を解明する分野です。生き物がとにかく好きなの で、地球上の生き物がどうして今のような姿かたち、生き様になったかに興味があります。最近はさまざまな花の香りがどのように進化したかという謎を化学分析や遺伝 子解析から解明する研究に打ち込んでいま す。 

2)これから取り組んでみたい研究は

これまでは花の研究が中心でしたが、果物 が好きなので果実の研究もしてみたいです。 現在、花と果実の香りの関係に注目したア イデアをあたためています。

3)自身の研究内容と社会、一般との接点は

僕の研究が直接何かに役に立ったりするこ とはありません。ふだん相手にしているのは、多くの人が気にもしないような生き物 です。でも、その生き物の知られざる一面を発見して、ひとりでも多くの人に生き物 の面白さ、かけがえのなさを実感してもらうきっかけを作ることを目指しています。そうやって、これまで無かった、あるいは顧みられていなかった自然と社会との接点をつくっていくのが大きな目標です。 

4)研究する上で一番大事だと思うことは何ですか

まずは自分に嘘をつかず、自分が本当に面白いと思うことを常に自問自答し、突き詰めることです。その上で、何が面白いかを 一から他人に説明できるようにすることで、 自分の興味と一般の興味の接点を意識することもとても大切だと思っています。