昆虫とコケが支えるチャルメルソウの仲間の多様性

奥山 雄大(おくやま ゆうだい)
植物研究部
多様性解析・保全グループ
チャルメルソウの仲間の多様性
チャルメルソウの仲間は、ユキノシタやダイモンジソウと同じユキノシタ科の植物で、美しい谷川や滝のすぐそばの、水しぶきのかかる湿った場所に好んで生育します。 日本での多様化が著しい植物のグループで、その美しい生育環境と相まって日本を代表する植物のひとつと言えるでしょう。残念なことに5種が絶滅危惧種に指定されている上、他の種も分布が局地的で、絶滅リスクの高いものがほとんどです。 これまでの研究から、チャルメルソウの仲間の保全を考える際、思わぬ他の生物にまで気を配る必要があることが明らかになってきました。 チャルメルソウの仲間の保全のカギは、その独特の生育環境と、奇妙な花の姿にありました。


チャルメルソウの仲間の花の秘密
チャルメルソウの仲間でまず目を引くのは、その奇妙な花の姿です。ふつう色鮮やかな花には、マルハナバチのような働き者の昆虫に花粉を運んでもらう働きがあります。ではこの奇妙な花ではどうでしょうか?
オオチャルメルソウの花のつくり
ミカワチャルメルソウの花のつくりそこでチャルメルソウの仲間全種で野外調査を行い、どんな昆虫が花にやってくるか調べました。

コチャルメルソウに訪れたキノコバエの一種
チャルメルソウに訪れたミカドシギキノコバエチャルメルソウの仲間はすべて、キノコバエという昆虫を呼び寄せて花粉を運んでもらっていました。さらに調べてゆくと、特にチャルメルソウ、ミカワチャルメルソウ、シコクチャルメルソウ、タキミチャルメルソウの4種は、ミカドシギキノコバエという昆虫一種だけに花粉の受け渡しを頼っていました。
チャルメルソウの仲間の花の秘密
チャルメルソウの仲間にとってなくてはならないパートナー、キノコバエたちはどかからやってくるのでしょうか? さらにキノコバエたちの行動を追いかけると、驚くべきことが明らかになりました。

ミカドシギキノコバエはチャルメルソウの花を訪れるだけでなく、渓流沿いの湿った環境を好むチョウチンゴケ類に卵を産みつけていました。幼虫はチョウチンゴケ類だけを食べて育つことも分かりました。

まとめ
チャルメルソウの仲間を守っていくためには、花粉を媒介するキノコバエの仲間、そしてその餌になるチョウチ ンゴケの仲間も同時に守らなければいけないことが明らかになりました(左の図を参照)。
このことは、これらの生物が安定して生育できる美しい渓流環境そのものを保全しなければ、チャルメルソウ の仲間を守ることは出来ないことを示 しています。
研究員に聞いてみました!

1)専門は何ですか?
植物が花粉を運ぶ昆虫に合わせて様々な花の姿や形を進化させる仕組みについての研究をしています。
2)研究者になろうと思ったきっかけは何ですか?
元々生き物、特に昆虫が大好きで、ファーブルに憧れていました。高校の時、利根川進さんの研究についてのインタビュー「精神と物質」を読んで、生命科学者になろうと最終的に決意しました。
3)最近の研究活動で、最も興味深かった出来事は何ですか?
長年続けてきたチャルメルソウの研究から、植物の種が生まれる秘密に関する大発見をしたことです。詳しいことはもうしばらく内緒ですが、近いうちに報告できる予定です。
4)研究者になりたい方に一言アドバイスを !
生き物の研究者になりたいのなら、まずは生き物をたくさん見て、捕まえて、その驚きをとことんまで感じてください。