木の上で生きる植物フガクスズムシソウの進化を探る

堤 千絵(つつみ ちえ)
植物研究部
多様性解析・保全グループ
木の上などで生きる植物を着生植物といいます。陸上植物の1割以上が着生種であることが知られています。木の上は、光は豊富な反面、土壌との接点がなく、水や養分が不足しがち。そんなところでたくましく生きる植物たちの、形態や系統の進化を研究しています。着生種はさまざまなグループの植物で見ら れることから、着生植物の進化は何度もおこり、その進化のカギも、 さまざまと考えられます。この謎を少しずつでも解き明かし、多種多様な植物が生まれた秘密にせまりたいと考えています。
着生種フガクスズムシソウは、日本でのみ見られる着生ランです。ブナやイタヤカエデなどの大木の、苔むした幹の上でくらします。遺伝子の情報をもとに系統関係を調べたところ、フガクスズムシソウは、地 上でくらすクモキリソウの仲間から、樹上へと進化した種と推定されてきました。
フガクスズムシソウとクモキリソウは、生活場所が異なる以外は、非常によく似た特徴をもっています。 これらの植物を徹底的に比較して、違いを探してきました。なぜならこれらで異なる形質が、木の上でのくらしに重要で、植物の木登り進化のカギを握る可能性があるからです。
これまで、着生種フガクスズムシソウは、種子の中にある胚が大きく、強い光の下でも低温でもよく発芽すること、そして共生する菌がク モキリソウとはやや異なることなど が明らかになってきました。とくに菌の違いは重要で、菌を入れ変えて植物の種子と菌を一緒に育てると、 異なる菌とでは植物が十分生育できないことがわかってきました。そのため、共生する菌が変わったことが、フガクスズムシソウの木登り進化のカギの1つではと考えています。
今は他の植物をつかって、同じように共生菌に違があるかを調べています。
木の上でくらすフガクスズムシソウ
地上でくらすクモキリソウ
研究者に聞いてみました!

1)専門は何ですか?
木の上で暮らす植物などを対象に、系統分類や進化に関する研究をしています。
2)研究者になろうと思ったきっかけは?
大学生のときに、世界のさまざまな場所に植物がいて、暮らし方も多種多様であることを知り、植物は面白い、植物の生き方をもっと知りたいと思ったのがきっかけでした。気がついたら研究から離れられなくなっていました。
3)最近の研究活動で、最も興味深かった出 来事は何ですか?
遺伝子の情報を使えば系統関係が明らかになると思っていましたが、今研究しているゼ ンマイとレガリスゼンマイは、解析領域、解析手法を変えても、系統関係がわからなかったです。くやしい気もしますが、それだけ複雑な歴史を持っているということなので、やっぱり面白いです。
4)研究者になりたい方に一言アドバイスを!
学校の勉強だけにとらわれず、興味のあるものをとことん突き詰めていくことは、研 究者になるかは別として、生きる力になると思います。