‘植物界の異端児’水草-なぜ水中を生きるのか?

植物
Norio Tanaka

田中 法生(たなか のりお)
植物研究部
多様性解析・保全グループ


植物はおよそ12億年前に水中で誕生し、5億年前に陸上へ進出しました。その後、花を咲かせる植物が誕生し、陸上のありとあらゆる環境に適応し、繁栄するようになりました。しかし、その住み慣れた陸上から、再び水中へ進出した異端の植物が水草です。

植物にとって、陸上と水中は別世界と言ってもよいほど異なる環境です。ですから、水草の祖先が水中へ進出するときには、さまざまな形や性質を水中モードに進化させる必要があったは ずです。それでは、世界中に3000種ほどが知られる水草は、 どのような進化の道のりを経て、水中で生きられるようになったのでしょうか。最低限水中で生きるための能力はもちろん必要ですが、水中で子孫を残すために何が必要だったのか? 点々と存在する湿地の間を水草はどのように移動したのか? 私の研究の興味は、まさにこれらの疑問を解くことにあります。

その中で、たくさんの驚くような発見をすることができました。そして、この数年、特に興味のあることは、水草はどのくらい移動しているのか? ということです。最初の発見は、オーストラリアの南に生育するカワツルモという水草の一種が、(おそら く渡り鳥によって)日本の佐渡島やロシアへ移動して生育しているという衝撃的なものでした。しかもさらに研究していくと、今まで気づかなかっただけで、このような移動は他の水草種でも起こっていそうなのです。もし本当にそうならば、水草の現在の分布と種の誕生に関して、これまでの既成概念を変えることになるかもしれません。

シギ類とカワツルモシギ類とカワツルモ
進化論で有名なダーウィンも、水草がどのように移動しているのかについて、 興味を持っていました。この2つの生物の関わりから何が発見されるのか、 しばらく目が離せません。
様々な水草の花とクロモ花粉さまざまな水草の花とクロモ花粉
トチカガミ科という水草グループでは、実にさまざまな受粉方法が科内に見られます。これらの進化過程をDNA情報から推定したところ、トチカガミ科の祖 先は虫が花粉を運ぶという一般的な虫媒受粉でしたが、そこから水中で花粉を受粉させるもの、水面に花粉を流して受粉するものが進化してきたことが わかりました。しかも、花の形はもちろん、花粉の表面の数ミクロンという小さな突起すらも受粉方法に合わせて形を進化させていることがわかりました。

研究員に聞いてみました!

田中博士_川中
1)専門は何ですか?

水草の進化が専門です。水草はさまざまな陸上植物から水中へ進出した植物群で す。水中で生活するために形や生態をどのように進化させたのか?どのように世界 中に点々と存在する水辺に広がったのか?ということを研究しています。

2)研究者になろうと思ったきっかけは何ですか?

高校生の時に、生物学が面白くて農学系の研究室へ。その後、ブラジルで多様な野 生の植物を調査して、野生の植物の面白さに魅せられ、現在の分野で研究者になろうと思いました。水草はもともとは単なる趣味でした。

3)最近の研究活動で、最も興味深かった出来事は何ですか?

驚くほどの長距離を移動することが、さまざまな水草で見つかってきたことです。

4)研究者になりたい方に一言アドバイスを !

ここは世界で一番詳しいと言える、オリジナルな分野を持つことが大切です。