荒野林は生物学的に「不毛の地」なのか?

國府方 吾郎(こくぶかた ごろう)
植物研究部
多様性解析・保全グループ
「荒野林」とは、貧栄養・酸性の土壌に成立する天然林でボルネオ島など東南アジア熱帯に広く点在しています。この荒野林はほとんどの植物にとって生存することが困難な環境であるため、ウツボカズラなど限られた僅かな植物しか生育できません。そのため荒野林は殺伐とした裸地状態となり、 ボルネオ島の現地では「不毛の地(ケランガ)」と呼ばれています。
日本の琉球列島でも、荒野林が複数の島に点在 し(写真1)、そこにはイトスナヅル(写真2)やシンチクヒメハギ(写真3)(2種とも環境省絶滅危惧IA類)など多くの絶滅危惧植物が生きています。また、ノボタン(写真4)など荒野林の特殊環境に適応したと考えられる植物も知られています。しかし、 ボルネオ島同様にその殺伐とした外観から「不毛の地」と誤認されてしまうことが多く、開発によって多くの荒野林が消滅してしまっています。
いま私は琉球列島の荒野 林にはどのような植物が生育しているのか、それらの植物がどのような環境適応を起こしたのかを研究しています。その研究から荒野林の保全生物学的・進化生物学的な価値が見い出され、その研究成果を発信することにより、荒野林が「不毛の地」ではないことを多くの方にご理解いただくことで、荒野林とそこに生きる植物の保全につなげることができればと願っています。
写真1 琉球列島伊是名島の荒野林
写真2 イトスナヅル(クス
ノキ科):半 寄 生 植 物。オーストラリアとの共通種とされていたが、私の研究によって琉 球固有種Cassytha pergracilisであることが示
された。
写真3 シンチクヒメハギ(ヒ
メハギ 科):多くの 研究者 が
Polygala chinensisとして取り扱っていたが、私の共同研 究によってPolygala polifolia とする見解がより正しいことが 示された。
写真4 ノボタン (ノボタン 科):酸性土壌で起こるアルミニウム障害に対し、体内にアルミイオンを集積する適応進化を起こしている可能性がある。研究者に聞いてみました!

1) 専門は何ですか
植物地理・分類学です。
2)これから取り組んでみたい研究は
植物の熱帯アジアから日本、特に琉球列島 に進入した時空的プロセスを追跡したいです。
3)自身の研究内容と社会、一般との接点は
皆さんに植物の生物学的な大切さを理解し ていただくとともに、興味を持ってもらうこ とで保全のための強固な社会基盤をつくり たいです。
4)やりがいを感じるのはどのような時ですか
現地調査で目的とする植物を見つけること ができたとき。