知られていない絶滅危惧植物を探る

國府方 吾郎(こくぶかた ごろう)
植物研究部
多様性解析・保全グループ
日本では自生植物約 7,500種類のうち、約 1/4の1,779種類が絶滅の危機に瀕しているとされています。しかし、すべての植物が分類学的に解明されているわけではなく、私たちが知らない絶滅危惧植物があると考えられています。私は、琉球列島を中心とした絶滅 危惧植物を探る分類研究を行うとともに、生物多様性について筑波実験植物園から社会に発信しています。
認識されていない絶滅危惧植物の存在
絶滅危惧植物の一つ、オキナワマツバボタンは1951年に沖縄本島産の基準標本を基に記載されました。奄美群島と沖縄群島に分布が知られていますが、個体数が少なく、環境省のリストで絶滅危惧Ⅱ類(危急)カテゴリーの植物です。数年前、奄美大島を訪れた際、オキナワマツバボタンが沖縄島産とは花の色が違うことに気がつきました。それがきっかけとなり、奄美群島と沖縄群島のオキナワマツバボタンについての分類研究が始まりました。

奄美群島と沖縄群島の複数の島で比較調査をしたところ、奄美群島産はレモン色、沖縄群島産は濃黄色でした。また、奄美群島産の茎の色は淡い緑色、沖縄群島産は赤みのある緑色で、さらに形態的な違いがありました。分子系統解析を行ったところ、奄美群島産と沖縄群島産がそれぞれ近縁で、群島間に遺伝的な分化が認められました。
奄美群島産-アマミマツバボタン
沖縄群島産-オキナワマツバボタン貴重な植物の保全
これらの形態的な違いと遺伝的な分化から、奄美群島産を沖縄群島のものから区別し、2013年に新変種「アマミマツバボタン」を記載しました。この種は絶滅が心配されており、記載直後に、奄美大島で特に 保全を必要とする「奄美市指定希少野生植物」に指定されました。また、オキナワマツバボタンも分布が沖縄群島に限られるため、より深刻な絶滅危惧植物であることがわかりました。
これからも、認識されていない絶滅危惧植物を分類学的に実体解明することによって保全に貢献し、また、貴重な植物を皆さまに紹介していくことができればと思いつつ、研究を進めています。
研究員に聞いてみました!

1)専門は何ですか?
琉球列島を中心とした種子植物の系統分類学。
2)研究者になろうと思ったきっかけは何ですか?
琉球の自然に出会い、そこに生きる植物の歴史的な生い立ちを知りたいと思ったこと。
3)最近の研究活動で、最も興味深かった出来事は何ですか?
種子島の低地で温帯植物のスギと熱帯植物のクワズイモが混生していることをみて、 温帯と熱帯のはざまを感じたこと。
4)研究者になりたい方に一言アドバイスを !
自然史研究者を目指すのであれば、野外でたくさんのことを学んで下さい。