南米チリで裂頭条虫を調べる

動物
Toshiaki Kuramochi(8080)

倉持 利明(くらもち としあき)
動物研究部
名誉研究員


裂頭条虫とは、サナダムシのあるグループの総称 で、哺乳類や鳥類の小腸にすむ寄生虫です。南米のチリでは、1950年以降、裂頭条虫によるヒトの病気が報告されており、その原因となる寄生虫は広節裂頭条虫という種であるとされてきました。 この広節裂頭条虫はヨーロッパやロシアに分布する種で、南米には入植した人々によって移入されたと考えられています。さらに、広節裂頭条虫の幼虫は、 チリの湖にすむサケ科の魚にみられ、それらの魚がヒトへの感染源だと考えられてきました。

サケ科の魚は北半球に分布するもので、本来は南米にはいません。チリでは養殖のために持ち込まれたものが逃げ出して野生化しています。寄生虫も中間宿主(図参照)も外来種という、奇妙な生活史ができあがっているように見えます。しかも、広節裂頭条虫の原産地では、サケ科サケ属の魚は生活史に関与しておらず、淡水産のスズキ科の魚が中間宿主になっています。

これら「聞き捨てならぬ」情報が、これまで問題視されなかったのが不思議です。私たちは、人の病気にも自然史研究が必要と考え、遺伝子による幼虫の種の同定を武器に調査を開始しました。

1754297882146裂頭条虫の生活史
排泄された虫卵①は水中で孵化し②、ケンミジンコなどの第1中間宿主③の体内で幼虫(プロセルコイド)になる。やがて、魚類など第2中間宿主④に取り込まれると次の幼虫(プレロセルコイド)になり、最終的に終宿主⑤の小腸で成虫になる。
ニジマス_裂頭条虫ニジマスの内蔵表面に寄生する裂頭条虫の幼虫。形態で種を決めるのは困
難で、後にDNAの塩基配列で広節裂頭条虫と同定した。

研究者に 聞いてみました!

倉持博士
1)専門は何ですか?

寄生虫と呼ばれる動物(扁形動物の吸虫類 や条虫類、線形動物の線虫類、輪形動物の鉤頭虫類など)の分類や動物地理の研 究をしています。

2)研究者になろうと思ったきっかけは?

研究を目指すきっかけと言えば、就職先の水族館でイルカの飼育係になったことでしょうか。後には仕事を辞めて再び大学へ行くのですが、自分が思うままにやりたいようにやっていたら、もはや後戻りができなくなっている自分がいました。

3)最近の研究活動で、最も興味深かった出来事は何ですか?

南米チリでの裂頭条虫調査では、チリに本当に広節裂頭条虫がいること、サケ科の魚が生活史に関わっていること、ヒトへの感染源になっている可能性があることが確認されましたが、さらに不可解なことに気付きました。ヒトだけが終宿主であるとすると、報告されている患者の数に比べて魚からとれる幼虫の数が多すぎるのです。ヒト以外に、広節裂頭条虫の終宿主が存在する可能性が出てきました。

4)研究者になりたい方に一言アドバイスを!

顕微鏡のようなミクロで緻密な眼をもつことは重要ですが、それだけでなく広角レン ズや魚眼レンズのような、世界を広く眺められる眼も必要だと思います。そのための訓練を心がけてください。