続・小笠原でカニを採る

動物
Hironori Komatsu

小松 浩典(こまつ ひろのり)
動物研究部
海生無脊椎動物研究グループ


小笠原諸島は東京から南に約1000kmに位置し、今まで他の大陸と一度も繋がったことのない、孤立した海洋島です。そこにはどのような生き物がいて、どこからやって来たのか。それを知るために国立科学博物館では海洋生物相調査を行っています。

2008年から2010年にかけて行われたドレッジ調査では、水深36~3579mにかけて合計136地点で調査を行い、このうち36~499mの60地点から計20科115種のカニ類を記録しました。その中には、4新種、10日本新記録種、64小笠原新記録種が含まれていました 。この調査で30m以深のカニ類相が大体把握できたことから、次の段階として、30m以浅の海域を対象 としたSCUBA潜水調査が2013年から始まりました。

日本地_黒潮
調査の流れ
中間報告

2013年、14年は父島周辺海域でそれぞれ14、12地点で潜水調査を行い、15年は母島周辺海域で11地点の調査を行うことができました。未だ研究途上ですが、採集されたカニ類は約50種に分類され、いくつか未記載種も含まれていそうです。

今後は、2016年も引き続き母島周 辺海域で、最終年度となる17年は聟島(むこじま)周辺海域で調査を行い、 小笠原諸島全体の カニ類相を明らかにしたいと計画して います。

新種候補
DNAバーコードを使った種判別

DNAバーコードとは、特定の遺伝子領域の短い塩基配列を 用いて生物種の同定を促進するテクニックです。動物では、ミトコンドリアゲノム上のCOI遺伝子の5’端約650塩基長が標準的なバーコード領域とされています。このDNAバーコードを使えば、形態では区別がつかない隠蔽(いんぺい)種を判別することができます。また、種内に色彩変異があるものは、DNAバーコードを使えばそれが本当に種内変異であるかも答えを出す事ができます。形態観察とDNA解析をうまく組み合わせて、小笠原のカニ類相を明らかにしていきたいと考えています。

ルリモンガニルリモンガニには少紋型と多紋型の2型が見られるのですが、DNAバーコードにより種内変異であることが確かめられました

研究者に 聞いてみました!

ダイビング_調査
1)専門は何ですか

甲殻類、特にカニ類の分類をしています。 カニは食用のイメージも強いですが、その ほとんどは1cmにも満たない小型種です。 なりは小さいですが、そのメカニカルで愛 嬌のあるデザインに魅了されています。

2)研究する上での苦労や悩みはありますか

体力の衰え。四十の手習いでSCUBAダイビングを始めましたが、1日2本潜るとぐっ たり。8時には寝てしまう事もあります。 船にも弱くなりました。

3)今の職業に就いていなければ何をしていると思いますか

前職は北の果ての公務員なので、そのまま水産業の発展に携わっていたと思います。

4)座右の銘や本などがあればご紹介ください

「世に生を得るは事を為すにあり」人は皆 一度しかない人生なので、自分のやりたい 事に挑戦して、後悔のないようやりきりま しょう。