深海魚を深く探る

篠原 現人(しのはら げんと)
動物研究部
脊椎動物研究グループ
深海魚の種数は魚類の全種数の11%ほどしか占めません。しかし形の面白さは他を圧倒しています。暗黒、寒冷、高圧 といった極端な環境が深海魚の特徴(専門的には形質といいます)を長い進化の中で際立たせたわけです。
深海魚の新種はもう見つからないのでしょうか? 答えはノーです。ただし淡水魚や浅海魚に比べると新種は少ないと 考えられています。その理由としては、深海では他の水圏に比べて環境の変化が乏しいため、種分化が起こりにくいと考 えられているからです。
私は海溝などに生息する深海魚を研究しています。数千メートルの深海底から引き揚げられる前に魚体が壊れてしまう こともありますが、良い研究をするには良い標本をつくり、たくさん集めることが大切で、その目的のために調査船にも 乗ることがあります。
新種を見つけることは深海魚の形態研究のごく一部にすぎません。すでに知られている種でも走査電子顕微鏡(SEM) などの最新機器を使って調べ直し、これまで知られなかった特徴を明らかにしていきたいと考えています。

研究員に聞いてみました
千島海溝の調査のためにゾンネ号に集まった研究者と大学院生。無脊椎動物の分類学、地学、化学など専門もさまざまだ。
1)自身の研究内容と社会、一般との接点は?
私の研究は魚類の多様な姿を社会に発信することです。バイオミメティクス(生物模倣工学)にも参加し、人間に役立つものを見つけることも意識しています。
2)研究する上で一番大事だと思うことは何ですか?
研究は仮説を立てることで前に進みます。新種も仮説なので、後の研究で消えることもあります。良い仮説を立てつづけるためには慎重かつ大胆な思考ができる柔軟性と気持ちの余裕が大切です。
3)今の職業に就いていなければ何をしていると思いますか?
小学生の頃から海に関する仕事をしたいと思っていましたので、やはり研究者になっていたと思います。水産にも興味があったので魚類の増養殖をしていたかもしれません。
4)座右の銘や本などがあればご紹介ください
影響を受けた本は高校生の時に出会った内田恵太郎先生の「稚魚を求めて―ある研究自叙伝」です。