理工学研究分野 研究基盤計画

理工学研究分野では、理工学研究部と産業技術史資料情報センターが連携し、次の2つの基盤研究を行う。

実物資料に基づいた科学技術史および宇宙地球史の研究

本基盤研究では、主として人類の知的活動の所産として社会生活に影響を与えた重要な科学技術史および宇宙地球史の実物資料に基づいた調査研究を行い、その発展の歴史の解明を行う。その研究対象は、一部は江戸時代を含みながら、主として我が国近代化の始まりから現代に至る科学技術史の全体とする。
本基盤研究は、主に理工学研究部が実施する。

産業技術史資料調査に基づく技術の系統化研究

本基盤研究では、日本の産業技術の発達を示す実物資料(産業技術史資料)が、どこにどのように残されているかを調査する。調査によって明らかにされた産業技術史資料について、その技術分野の発達過程などを解明することによって、残された資料の価値を評価する。また、これによって見いだされた産業技術史資料は、当館が行う重要科学技術史資料登録の候補とするために、その技術史上の価値をより詳細に明らかにする。
本基盤研究は、主に産業技術史資料情報センターが実施する。

実物資料に基づいた科学技術史および宇宙地球史の研究

背景

理工学研究分野の研究範囲のうち、範囲を限定して重点的に実施する総合研究「近代日本黎明期の科学技術史の発展史の研究」(後述の「参考」)として実施する対象についてはそちらで行い、基盤研究ではそこに含まれないものを広く対象とするとともに、科博のコレクション構築につながるよう心がける。

理工学研究分野においては、人類の科学技術上の活動の所産である史資料が保存困難なものとして散逸あるいは廃棄される場合が少なくない。その際に、史資料の価値を正しく評価し、保存すべきものについては科博での収集も含めた保存・活用への努力をすることも科博の活動として重要であり、そのための史資料に関する調査研究も基盤研究として着実に実施する必要がある。

研究計画

明治時代以降の近代化についての調査・研究では、世界遺産として暫定候補(2010年現在)に挙がっている「九州・山口の近代化産業遺産群」や「金と銀の島、佐渡」について、両地域においてそれぞれ設置されている調査委員会において委員として協力、連携した形で、製鉄史、鉱山史などの調査や研究を行う。

現代の日本におけるモノづくりの状況に関しては、自動車技術や航空宇宙技術、その他の技術に関して、経産省や関係各省庁、機関の委員などとして協力、連携する形で資料・情報収集、調査を行い、報告書の作成と共に展示による成果の公開を行う。
電気技術分野では、電力、通信、エレクトロニクス、情報技術分野において、我国における技術導入、発達過程の研究及び、現在の技術の発達、変遷や産業空洞化により急速に失われつつある資料の継続的かつ効果的な収集、保存、活用方法などの調査研究を行う。
化学分野では、科博所蔵資料を中心に日本の近代以降の化学および化学工業の発展過程を示す資料について、実物資料を中心に文献その他の資料を含めて所在調査と研究を行う。また日本化学会化学遺産委員会活動に参画するとともにその過程で収集された資料の保管・保存について検討する。

建築学分野では、我が国の諸産業の発展に大きく貢献した鉄道関連の技術として、駅舎に代表される各種施設の建設に必要な建築技術について、設計思想や技術の伝搬過程を明らかにする。

科学史の分野では、地球物理学の発展過程を地震・測地資料を含む実物資料に基づいて調査研究するとともに、天文学史について、近世の暦学・天文学知識の一般的な流布・普及について、また近代以降でも天文学の普及と日本独自ともいえるアマチュア天文家の隆盛について、主に文献等により調査研究をおこなう。

博物館の実物資料に基づく宇宙地球史の研究として、科博が所蔵する1940年代から半世紀にわたる太陽黒点観測記録を解析可能な形として整理・提供するとともにその分析により太陽の活動性に関する新たな知見を得る。また球粒隕石の同位体組成を詳しく調べることにより、太陽系形成初期の環境条件やその年代を明らかにすることを目指す。

参考資料

総合研究「近代日本黎明期の科学技術の発展史の研究」

近代日本の黎明期を中心とした科学技術の発展史について、電気工学、化学、天文学、地球物理学、建築学、医薬学その他の分野について、文献や実物資料に基づいて系統的に解明するとともに、分野間の相互依存による発展の関係を明らかにすることを行う。

平成23年度については計画の開始年度であり、近代日本の黎明期を中心とした科学技術の発展史について、電気工学、化学、天文学、地球物理学、建築学、医薬学を中心に広く資料の所在を調査しその内容を分析し、これら分野の発展史の系統的な解明に着手する。具体的には、明治初期のお雇い外国人や明治・大正期の日本人科学技術者に関する調査研究、また明治期を中心に科学技術分野で使われた諸器具・機械・装置の導入や製作についての調査研究を行う。

産業技術史資料調査に基づく技術の系統化研究

背景

戦後、日本がめざましい経済発展を遂げた背景に、明治以降脈々と形成されてきたもの作りの技術がある。このような産業を培ってきた先人たちの足跡を物語る様々な事物は、産業構造の変化、生産現場の海外移転、戦後技術を支えてきた人たちの高齢化などにより、急激に失われつつある。

本研究は、我が国の産業技術の発展を示す貴重な事物の所在を確認し、その保存と活用を図ることを最終的な目的として実施するものである。研究遂行にあたっては、関連する工業会・学術団体・行政などと連携して行い、全国に残る産業技術史資料の所在把握、資料情報の蓄積と公開、技術発達と社会・文化・経済との相互関係の研究、を柱として実施する。所在の明らかになった産業技術史資料の中から、特に次世代に継承していく必要のあるものを「重要科学技術史資料」として選出し、失われつつある国民的な財産の保存を行う。

内容

本研究では主として次のことを行う。

  1. 産業技術史資料の所在調査
    日本の産業技術の発展を示す資料(産業技術史資料)が、どこにどのように残されているかを明らかにする。調査は、技術分野ごとに関連する工業会・学会などと協力して実施する。調査結果はデータベースに蓄積し、インターネット上に公開する。
  2. 技術の系統化研究
    所在の明らかになった産業技術史資料について、技術分野ごとに産業技術の発達と、社会・文化・経済との相互関係について明らかにし、技術の歴史の集大成・体系化を目指す。また、残された産業技術史資料の価値を評価する。なお系統化はそれぞれの技術分野に造詣の深い識者と協力して行う。
  3. 重要科学技術史資料候補の選出と台帳登録
    系統化して価値づけられた産業技術史資料を、重要科学技術史資料登録のための候補として選出し、登録が認められた資料について、「重要科学技術史資料台帳」にその情報を記載し継続して資料の現状を把握することで、失われつつある国民的な財産の保存につとめる。

平成23年度計画

  1. 産業技術史資料の所在調査
    建設機械技術、光学測定器技術などおよそ50の技術分野について、それぞれの分野を束ねる工業会等の中から調査協力が得られる団体10団体程度を選出し、協力して所在調査を行う。調査の結果はデータベース化し、インターネットで公開する。
  2. 技術の系統化研究
    ガスエンジン・情報記録紙、銀塩写真フイルム、テープレコーダー、構造接着剤、ワイヤロープの6つの技術分野について、それぞれの技術分野に造詣の深い識者の協力を得、技術の系統化研究を行う予定である。研究の成果は報告書としてまとめ刊行する。
  3. 重要科学技術史資料候補の選出と台帳登録
    系統化研究によって評価された産業技術史資料について、重要科学技術史資料候補として選出する。また、過去に候補として選出した資料についてより詳細な調査研究を行い、20件程度の資料を重要科学技術史資料として認定し、「重要科学技術史資料登録台帳」に情報を登録することによって、重要科学技術史資料の継続的な現状把握に努める。