人類研究分野 研究基盤計画

人類の進化と集団形成史の研究

目標

人類の起源・進化過程ならびに日本人とその関連諸地域集団の起源・小進化・移住拡散過程を解明することを目指す。

背景

  1. 日本の自然人類学に関わる大学・研究機関は欧米に比べて極めて少なく、当該分野における科博人類研究部の負う役割は極めて大きい。そのため、自然人類学の主軸ともいうべき人類の起源・進化、日本人の起源・進化に関する研究については、常に率先して行なわなければならない立場にある。
  2. 科博のミッションの三本柱である①調査・研究、②コレクション構築、③展示・学習支援のうち、調査・研究・コレクション構築は基盤研究・総合研究によって推進しているが、人類学分野で集められる人骨資料は望んだ時に常に集められる類のものではないので、特にコレクションの構築には息の長い基盤研究が必要である。そのように蓄積された資料に基づく研究の成果は、国の行政の一翼を担う機関として、当然、学界・一般社会に還元しなければならない。
  3. 前期中期計画の総合研究(「東アジアにおけるホモ・サピエンスの移動・拡散と変異に関する調査研究」)ならびに当該期間での外部資金研究(日本学術振興会科学研究費補助金基盤研究(S))「更新世から縄文・弥生期にかけての日本人の変遷に関する総合的研究」)により、縄文時代人と更新世人類である沖縄の港川人との系統関係などに見直しを迫るような研究成果が得られたが、日本列島を含む東アジア地域の集団形成史についてはまだまだ未解決の問題が多い。
  4. 人類関係のコレクションの現状
    • 人類関係の資料は古人骨、化石レプリカ、指掌紋印象などであるが、とくに古人骨コレクションは地域・時代によって収集数は様々である(参考資料1、2、3)。
    • コレクションのデータベース化は、コレクションの整理・研究の度合いによって、進捗状況が異なる。

研究計画

共通の方針

人類の進化および日本人とその関連諸地域集団の小進化・移住拡散などに関する標本・資料を収集しつつ、今期はおもに更新世後期から縄文時代にかけての日本列島集団形成史の再構築に力を注ぐ。

個々の分類群の計画概要(中期5年の計画)

更新世人類
日本で発見されている更新世人骨の形態学的・分子人類学的再検討を行ない、アジア諸地域の更新世人類や日本の縄文時代人との系統関係を推測・復元し直す。
完新世人類
出土標本数が極めて少ないために不分明な縄文時代早・前期人の実像を、最近発見された、あるいは、分析不十分な大量の早・前期人骨を重点的に調査・研究することにより、明らかにする。

人類研究部コレクション収集方針

  1. 古人骨
     古人骨資料については、こちらから出向いて収集するということは事実上ほとんど不可能な状況であり、原則的に、行政発掘等により回収された資料を先方の依頼により引き取るという形である。このため、積極的な収集の方針は立てようがないが、現状としてはある程度着実に依頼があり、それをできるだけ引き受ける、との基本方針のもとで、資料を増やしてきている。今後も同様の方針を継続し、古人骨資料の収集を進めたいと考えている。
  2. 化石等レプリカ
     化石等レプリカに関しては、購入可能なものもあれば、先方研究者との信頼関係があって始めて交換などにより入手が可能なケースもある。購入可能なものはこれまでに相当収集を進めているが、不十分な部分についても充実させていく予定である。また、購入できない資料についても、地道に交換などの交渉を進めていく予定である。
  3. その他
     人類研究に関連する古人骨や化石レプリカ、あるいは人体ミイラなどの資料が、学部や講座の変遷や研究者の異動にともない、保管できなくなるケースが近年目立って増えてきている。人類研究部では、こうした貴重な資料が散逸する(あるいはともすれば廃棄される)ような事態を避けるため、セーフティーネットとしての役割を果たすことも常に視野に入れている。特に古人骨など、今日現在では新規の入手は必ずしも簡単でない中で、資料を増やすという意味でも重要である。実際に平成19年以来、そうした趣旨の標本引き受けを進めている(立教大学人類研究室の化石レプリカコレクション、順天堂大学解剖学教室の近現代人頭蓋骨コレクションなど)。  
     現在のところ、指掌紋印象を積極的に収集する計画はないが、将来、また同じような寄贈申し入れなどがあれば、受け入れる予定である。

人類研究部の古人骨コレクション

時代遺跡数個体数
登録標本
縄文12遺跡36個体
弥生1遺跡4個体
古墳42遺跡311個体
古代5遺跡12個体
中世31遺跡389個体
近世96遺跡3395個体
その他14遺跡207個体
東大由来標本
縄文4遺跡56個体
中世6遺跡774個体

全国の大学・研究機関の所蔵する人骨標本の概数

縄文1836個体(早・前期:121個体 = 6.6%)
弥生
2783個体
古墳2011個体
中世3516個体
江戸10863個体
現代1308個体