研究室コラム・更新履歴

6月30日

東京湾でニタリクジラが・・・
ニタリクジラ(メス)の調査風景

GW中の4月30日、我々は東京湾で13mのニタリクジラを解剖していました。近年、大型貨物船の舳先に乗り上げたクジラが、湾奥深くで見つかるケースが増えています。ニタリクジラは、頭部背側の三本リッジが特徴ですがこの個体にもその特徴がありました。腐敗が高度で死因解明はできませんでしたが、胃内にアイスクリームの蓋を連想させる海洋ゴミが認められました。海洋ゴミ問題を含み、海洋生物に起きている現状を把握するためにも、これからもストランディング調査を行っていきたいと思います。
(動物研究部:田島木綿子)

6月23日

地下を6mも動かす自然の脅威
根尾谷断層(岐阜県本巣市根尾水鳥)。地震後(1891年)と今(2022年)の様子。

1891年10月28日、美濃・尾張地方をマグニチュード8の地震が襲い(濃尾地震)、この地震を起こしたメインの根尾谷断層では、上下方向に最大6mのずれが地表に現れました(水平には最大で7〜8m動きました)。この断層は国指定の特別天然記念物で、根尾谷地震断層観察館で保存されています。先日、その断層を見に行ってきました。地震によってずれた痕跡がまだあちこちに残っていて、改めて自然の威力のすさまじさを感じました。
(理工学研究部:室谷智子)

6月16日

野菜は「自然からの賜物」
ホソバワダンの野生系統(左)と栽培系統(右)

当館では、昨年度より文化を自然科学的アプローチから探る研究プロジェクトを開始しました。その一つとして、私は沖縄特有の食文化である伝統野菜ホソバワダンを研究しています。その栽培系統は沖縄に自生する野生系統と比べると、より大きい葉を持つことが知られています。その違いは、人類が葉の大きい特性をもつ野生系統をたまたま見つけ、それを選抜して栽培したことでもたらされたと考えられています。現在、筑波実験植物園の圃場でその両系統を栽培しています。それらを見るたびに、野菜は人類が授かった「自然からの賜物」であることを改めて感じています。
(植物研究部:國府方吾郎)

6月9日

珪藻の浮かぶ工夫を再現する
洗濯のりを満たした水槽に樹脂製の拡大模型を沈降させている様子

プランクトンとして暮らす珪藻にとって、水の中で栄養と光を得られる場所に留まり続けることが重要です。珪藻は、ガラス質の殻をもっていて重いので、浮力を得るために、より表面積の大きい扁平あるいは細長い形状になり、さまざまな修飾的な構造を持つと考えられてきました。先日から拡大模型を作って、形状による浮遊効果がどのくらいであるのかを調べるための実験を始めました。ワクワクしながらも実験は試行錯誤の連続です。
(地学研究部:齋藤めぐみ)

6月2日

標本も集める、データも集める
新しくなったサイエンスミュージアムネットのトップページ

日本国内の博物館の標本データを集めて公開している、サイエンスミュージアムネットのシステムが新しくなりました。博物館は標本を研究や展示のために集めていますが、標本がいつどこで採集されたのか、あるいはどの種の標本がどこの博物館が持っているのか、といったデータも研究には重要です。多くの博物館の力を借りつつ、これからも着実にデータ収集を進めていきたいと思います。
(標本資料センター:神保宇嗣)

5月26日

海外とのオンライン地衣類実習
2021年12月に日本、アメリカ、カナダの間で、地衣類に含まれる化学成分を抽出して結晶化させるという実習をオンラインで行いました。顕微鏡をお持ちの方が参加条件で、事前に同じ材料を送付しておき、当日はこちらが用意した動画を見た後で実習、という流れでした。オンラインなので費用もほとんどかからず、わずか2時間後にはテキストだけでは難しい「コツ」を含めた結晶観察の手法について、国をまたいで習得してもらえたのでした。オンライン学習の可能性はまだまだ広がりそうです。動画はこちら(英語)。
(植物研究部:大村嘉人)

5月19日

4月の沖縄のトンボ
オキナワサナエの羽化

昆虫たちの活動がだんだん活発になってきた4月に、沖縄へ赴き、トンボたちの分布調査を行ってきました。すでにたくさんのトンボの成虫たちが出現しており、オキナワサラサヤンマ、オキナワサナエ、オキナワトゲオトンボ、リュウキュウトンボなどを見つけることができました。一番の成果としては、生息環境の減少が深刻であると指摘されているトビイロヤンマの新たな生息地を見つけることができたことが挙げられます。沖縄のトンボたちは脆弱な陸水環境に依存して生息しているため、今後も継続してモニタリング調査をしていく必要があります。
(動物研究部:清 拓哉)

5月12日

長い航海、一瞬の観測
昨年8月に噴火した福徳岡ノ場火山の噴火後初となる調査航海を4月に実施しました。この噴火では大量の軽石が放出されて、南西諸島の島々に漂着しました。噴火では軽石と一緒に火山灰も放出されていたはずなのですが、まだ誰も採取できていませんでした。航海前に発生した季節外れの台風が直撃したために、2週間の航海中にたった15時間しか観測することができませんでしたが、乗船者全員で協力して、その僅かな時間のうちに噴火堆積物を採取することに成功しました。今後の分析が楽しみです。
(地学研究部:谷 健一郎)

5月5日

5月4日は植物園の日!
植物園は憩いの場所でもありますが、植物を守り、伝える場所でもあります。今はちょうど花盛りの時期、この機会にお近くの植物園を訪れてみてはいかがでしょう。
最近嬉しいニュースがありました。筑波実験植物園では圃場や培養室で希少なシダ植物の増殖に取り組んでいますが、その取り組みが評価され、日本植物園協会から保全・栽培技術賞をいただくこととなりました。増殖したシダの一部は成熟して胞子をつけはじめています。希少な植物を守るため、栽培や増殖法を確立していくことも植物園の大事な使命と考えています。
(植物研究部:堤 千絵)

4月28日

技術の系統化調査
ミシン:工業化の時代(通称・産業革命)では糸や布の大量生産が先行した。衣服製作(縫製)を効率化したミシンは、人々の大量消費への要請に応えた。

今年の「技術の系統化調査報告書(第31集)」ができました。ミシン、海氷工学、大型映像装置、複写機、航空機用アルミニウム合金の5つの技術分野です。実際の開発現場に携わった技術者OB等が各分野を俯瞰して、社会・文化・経済等との関わりを含めた技術開発の歴史を系統的に調査・研究してまとめ、今回で125の分野となりました。報告書は各地の県立図書館等で、PDF版も7月頃には産業技術史資料情報センターのページからご覧いただけます。一見硬い論文調ですが、「産業革命の失敗作」と揶揄されることもあったミシンが、女性の経済的基盤の創出、社会進出の促進、地位や権利の確立にも大きく貢献した技術であったことなど読み物としても楽しめるかと思います。人や社会に影響を残しながら速いテンポで変わる産業技術。これからも調査・研究して人の歩みの記録として継承していきます。
(産業技術史資料情報センター:亀井 修)

4月21日

白鳳丸KH-72-1航海の標本
新種記載されたLysirude goekei(ビワガニ科)

当館の甲殻類コレクションには現在3万本以上の液浸標本瓶に収められた登録標本があります。その一方でまだ研究されていない未登録標本が、登録標本と同じくらいあります。白鳳丸KH-72-1航海の標本も1972年に採集されて以来、未登録のまま長らく標本庫に保管されてきました。本航海はフィリピン、インドネシアなど東南アジアを3ヶ月かけて巡る大航海で、若き日の故今島実・元動物研究部長が乗船し、専門の多毛類だけでなく甲殻類標本も採集したものです。現在、館内外の研究者と協力して分類学的研究を進め、約50年の時を経て順次公表しているところです(Part 1, Part 2)。外国産標本を収集することは近年難しくなっており、これらの標本は当館にとって非常に貴重なコレクションとなります。
(動物研究部:小松浩典)

4月14日

縁は異なもの
ミイラ化した御遺体が納められていた甕棺

先日、「大英博物館 ミイラ展」巡回展の監修者として神戸市立博物館にお邪魔した時、博物館の先生から「そういえば神戸市にも即身仏があるんですよ」と教えて頂きました。日本の即身仏は主に東北地方に多く、恥ずかしながら「神戸の即身仏」は聞いたことがありません。後日、驚きと期待を持ってその「即身仏」を調査したところ、老年男性のミイラ化した御遺体で、副葬品などから生前は「僧侶」であられたことが判明しました。今後はCT撮影などを行い、より詳細に分析する予定です。思いもしなかった経緯で貴重な存在に会うことが出来た、単に自分が無知だっただけかもしれませんが、不思議なご縁があるものだと感じました。
(人類研究部:坂上和弘)

4月7日

ひさしぶりのフィールドワーク@沖縄
まだまだコロナ禍で遠方での調査は厳しい状況ですが、先日久しぶりに沖縄で野外調査をしてきました。もちろんきのこ調査の一環ですが、山に行ったわけではなく、海岸に大量に打ち寄せられた軽石が今回のターゲット。小笠原沖の海底火山「福徳岡ノ場」が噴火したのは2021年8月ですが、沖縄の海岸ではいまだに大量の軽石が見られます。いつもは青い海も、場所によっては砂浜と勘違いするほどの大量の軽石が。この軽石の中に、きのこの胞子や菌糸が閉じ込められているかもしれません。陸上の生物が軽石に乗って長距離移動をしているかもしれない。なんだか壮大な地球のロマンを感じませんか?
(植物研究部:保坂健太郎)