研究室コラム・更新履歴

6月1日

いろいろまとめて調べてみよう
当館では、標本や資料のデータを調べたい方のために、様々なデータベースを公開しています。2023年4月に、私が所属するチームで標本・資料統合データべース、タイプ標本データベース、常設展示データベースを更新し、この3つのデータベースをまとめて検索できる「標本・資料・展示物データベースまとめて検索」を追加しました。「あの常設展示と同じ種の標本が、収蔵庫にどれくらい保管されているのだろう?」といった疑問がより調べやすくなりました。どなたでも利用いただけますので、興味のある方はぜひお試しください。
(標本資料センター:神保宇嗣)

5月25日

現在は過去を解く鍵
琵琶湖での採水の様子/調査協力(株)Seed Bank

私は珪藻化石を研究対象としていますが、いま生きている珪藻も調査対象としています。さて、珪藻には増殖が活発となる“旬”の時期がありますが、化石になった珪藻はどの季節に生育したものなのか、その手がかりを得るために、2021年から2年間、琵琶湖で調査を行いました。毎月1回は漁港で、年4回は湖の中央部まで船を出してもらって湖の水を汲み、そのなかの目当ての珪藻を観察しました。いま生きている珪藻の1年を知るにはそれと同じだけ観察の時間がかかります。化石であれば1日に何万年分もの記録(地層)を手にいれることができるのに!当たり前のことですが、気の短い私には長く感じました。
(地学研究部:齋藤めぐみ)

5月18日

牧野富太郎と地衣類
牧野富太郎博士が集めた膨大な標本には、地衣類も千点以上含まれています。地衣類とは藻類と共生する菌類の総称です。博士は著書『植物一日一題』で、木の枝から垂れ下がって生える「サルオガセ(猿麻桛)」の名前の由来を解説しています。サルオガセは、元々は現在知られているヨコワサルオガセ(当時はミヤマサルオガセとも呼ばれていた)のことでしたが、他の植物学者たちは見た目の優雅さから別種のナガサルオガセをもってサルオガセと呼んでおり、牧野博士はこれに苦言を呈しています。当館に収蔵されている約140年経ったこの標本(写真)に、牧野博士の思いを馳せました。
(植物研究部:大村嘉人)

5月11日

自然教育園に侵入したシナヌマエビ種群
在来種のヌカエビ(上)と外来種のシナヌマエビ種群(下)

昨年11月、当館の附属自然教育園で講義用にエビ類を採集したところ、見慣れないヌマエビ科エビ類が見つかりました。写真を撮って後日調べたところ、外来種のシナヌマエビ種群であることがわかりました。シナヌマエビ種群は東アジア原産の外来種で、日本全国で急速に分布を拡大し、旺盛な繁殖力をもって在来のヌマエビ科エビ類を駆逐しつつあるので問題となっています。このままでは園内のヌカエビ(在来種)もシナヌマエビ種群に駆逐されてしまう恐れがあるので、効率的な駆除方法を検討しているところです。
(動物研究部:小松浩典)

5月4日

首里城の復興に思いをよせて その1
厭勝銭(沖縄県立埋蔵文化財センター蔵)

沖縄の青い空のもと、丘の上にそびえる赤い建造物「首里城」が失われたのは、4年前の2019年10月31日夜でした。そのニュース映像は、今も忘れることができません。首里城の整備に伴う発掘調査は30年以上前から行われ、海外、国内各地や沖縄本島内の陶磁器などとともに、金属製品や制作に使用した道具など、膨大な遺物が出土しています。“厭勝銭(えんしょうせん)”と呼ぶ金製品も、首里城内の御嶽(うたき)といわれる拝所から出土しています。私は、継世門北地区から出土した厭勝銭12点を詳細に分析しました。金濃度にばらつきがみえたため、負ミュオンと呼ばれる素粒子を用いて非破壊の深さ方向分析を行ったところ、色付と呼ぶ表面処理が行われていることも明らかとなりました。この技術は日本固有とされていましたが、中世の琉球でこの技術があったとなると、どこから技術が伝わって来たのでしょうか?首里城の復興と文化の継承に、役立てられたらと思います。
(理工学研究部:沓名貴彦)

4月27日

エジプト発掘調査の再開!
北サッカラ遺跡全景 中央の構造物がカタコンベへの入り口

2023年2月末からの2週間、エジプトの「北サッカラ遺跡」の調査に参加しました。この遺跡は約2000年前の地下墓所(カタコンベ)で、未盗掘の状態で2019年に発見されました。発見直後に新型コロナウイルス感染症が世界的に流行し、長らく調査が中断していましたが、今回久しぶりに調査が可能となったのです。カタコンベ内部には30体を超える遺骨やミイラが残っており、また調査が再開され、彼ら古代エジプト人と再会できた喜びを噛みしめながら2週間を過ごしておりました。
(人類研究部:坂上和弘)

4月20日

国立科学博物館モノグラフNo.54を出版
タイ南部から産出した三畳紀前期(約2億4800万年前頃)のアンモナイト26種(1新種を含む)とコノドント32種を記載した論文を先日「国立科学博物館モノグラフ」から出版しました。この地域からは原始的な特徴をもつ魚竜類の化石が発見され、1991年にタイサウルスと命名されました。その正確な時代は長らく不明でしたが、2019年からの当館、筑波大学、大阪市立自然博物館、タイ鉱山資源局による共同研究により地層の時代が明確になり、最古の魚竜類であることが判明しました。本論文は共同研究の成果をまとめたものです。
(地学研究部:重田康成)

4月13日

アジアと中南米の摩訶不思議なつながり
ミャンマーで採集した小型のヒメツチグリ属 Geastrum courtecuissei (直径1センチほど)

僕はどのきのこがどこに分布していて、それはなぜなのか、に興味をもっています。多くの場合、きのこの胞子が風で飛んだとか、大昔(1億年前とか!)の大陸移動などで説明できるのですが、中には不可思議な分布もあります。その最たる例がヒメツチグリ属の一種、Geastrum courtecuissei(和名無し)で、我々の最近の研究により、何とミャンマーと中南米(アルゼンチンとグアドループ)のみに分布することが明らかとなったのです。二つの地域を結ぶ何か共通点があるのでしょうか?謎は尽きません。
(植物研究部:保坂健太郎)

4月6日

アマミノクロウサギ
アマミノクロウサギの仮剥製

僕の研究室で最近たくさんの標本が集まっている種にアマミノクロウサギがあります。奄美大島の野生生物保護センターから交通事故で死亡した個体が送られてきて、作った標本数は800点を超えました。しかしこれだけの標本を作ってきたにも関わらず、僕は生きているアマミノクロウサギを一度も見たことがありませんでした。3月初旬のこと、当館での標本収集などについて講演会をやってほしいとの依頼を受けて奄美大島を訪問しました。夜は僕を招いてくれた奄美博物館の平城さんがドライブに連れ出して下さり、ここで初めてアマミノクロウサギの姿をたくさん拝むことができました。奄美大島では野生化したマングースの駆逐がほぼ完了したといわれ、アマミノクロウサギの個体数は増えているのだとか。交通事故に気を付けてくれよな。
(動物研究部:川田伸一郎)