研究室コラム・更新履歴

5月16日

ヴィーチャズ号(Vityaz)
Vityaz St. 6666(大和堆水深510 m)から1972年に採集された巻貝の一部。

私は10年ほど前から様々なプロジェクトと並行して、日本海の深海の巻貝について調べています。深海から生物標本を得ることは、一般的になかなか難しいのですが、以前モスクワの海洋研究所を訪れた際に、調査船Vityazによってソ連時代に日本海から採取された大量の標本が未整理のまま保存されているのを見出しました。これらを詳しく調べることも含め、科研費の助成を受けて本格的に研究の準備を整えたところで、あのような事態となってしまいました。とりあえずは以前訪問した際に取っておいたデータと、当館を含め国内外の研究施設に保存されている標本などで研究を継続していますが、平和であることの大切さを、また別の面からも実感しています。
(動物研究部:長谷川和範)

5月9日

上野公園開園150年を迎えて
『大日本東京上野公園内国勧業博覧会場之図(部分)』(明治10年の第1回内国勧業博覧会の様子を描いた石版画。中央の博覧会会場は現在の東京国立博物館、左の東京藝術大学の場所に当館の前身である教育博物館)

昨年は、上野公園開園150年のメモリアルイヤーでした。正確には公園設置の太政官布告から150年であり、東京では上野公園の他に芝公園や飛鳥山公園なども当てはまります。上野公園は、江戸時代から物見遊山の地として江戸の人々に親しまれましたが、明治以降も多彩なイベントで人々の集まる場所として今日に至っています。その大きな要因が、上野公園で数多く開催された博覧会でした。明治政府は、近代化による殖産興業の成果を国民に啓蒙するため、内国勧業博覧会を計画します。開催地に上野公園が選ばれ、第1回から第3回が開催されました。それが契機となり、太平洋戦争の開戦前まで大小の各種博覧会が、上野公園で50回以上開催されました。博覧会では、産業発展などの展示以上にさまざまに趣向を凝らした娯楽を人びとは楽しみました。現在の上野公園は、東博や科博 、西美、都美、動物園や文化会館といった数々の文化施設が集まる地ですが、ルーツには博覧会があったといえるでしょう。
(理工学研究部:沓名貴彦)

5月2日

「この顔にピンときたら・・・」
当館筑波研究施設の自然史標本棟に収蔵されていた人類研究部の標本は、2024年の2月から3月にかけて、新しく建てられた標本・資料棟に引っ越しました。通常の引っ越しでも予想外の物が出てくることはありますが、標本の引っ越しでも思いもかけない物を再発見する機会が多くありました。写真の復顔像は戸棚の奥に収納されており、科博の登録番号がありません。従って情報がほぼ失われている復顔像と言えます。髪型や骨格から、縄文時代人の男女を復顔したものと考えられますし、顔の造形や作り方からかなり古いものであることは推測されます。もしこのコラムをお読みの方で、彼らの情報をご存じの方は当館までご一報いただければ幸いです。
(人類研究部:坂上和弘)

4月25日

小型アンモナイトの研究、34年目の結果
Tetragonites minimus(左)とTetragonites nanus(右)、いずれも成体殻

私は、1989年に北海道の白亜紀の地層から新種の小型アンモナイトを発見し、Tetragonites minimusとして記載しました。その際、産出する時代により、成体殻のサイズや形態が異なることを指摘しましたが、形態差は同種の時代的な変化なのか、別種なのかを議論するには標本数が十分ではなく、同一種として記載しました。その後、数百個の標本を採集し、成体殻のサイズや殻の成長様式を詳細に調べた結果、1)中間形が見られない、2)成長のかなり早い段階から形態が異なる、ことから、2種に区別できることが判明し、2023年に一方を新種Tetragonites nanus として記載しました。1989年に指摘した形態の違いは、同種内の時代的な変化や雄雌差などではなく、別種の存在を意味していたことが34年目にして明らかになりました。
(地学研究部:重田康成)

4月18日

外来種?それとも自然分布?
南北アメリカに自生する水草Najas guadalupensisが沖縄本島の一部に生育していることがわかりました。人が運び込んだ外来種と考えるのが普通ですが、渡り鳥などによって運ばれた可能性もゼロではありません。むしろ、水草は長距離散布が起こりやすいというのが、当館らの研究グループの成果でもあるため、外来種と決めつけるのは自己矛盾なのかもしれません。外来種なのか自然分布なのか?それが生態系に与える影響としてどこに違いがあるのか?なかなか深い問題です。
(植物研究部:田中法生)

4月11日

日本の魚類図鑑
「北海道水族寫生図」(立花宇一、1897年 当館所蔵)のカレイ類(博物画原図)

魚類図鑑といえば綺麗な標本写真が印刷されているのが現在の主流ですが、私が子供のころは絵の多い図鑑、それ以前は全てが絵の図鑑が出版されていました。さらに時代をさかのぼると、魚類図鑑の絵は江戸〜明治時代の精密な博物画につながります。さて、日本人の多くが魚に親しみを感じるのは、それが大切な食料である以外に、日本で良質な図鑑が出版されたことも大きいと感じています。古い時代に描かれた博物画の生物学的な意味での精度を調べることで、魚類図鑑の原点のほか、日本人と魚類の関わりについての新たな側面を明らかにできると考えています。
(動物研究部:篠原現人)

4月4日

不思議なヒゲクジラ:発見から70年!
当館所蔵のハーペトケトゥス・センダイクスの全身骨格化石(NMNS-PV 19540)の復元レプリカ

当館には、ハーペトケトゥス・センダイクスという名を持つ全長わずか3mちょっとの異次元の小ささを誇る500万年前のヒゲクジラの全身骨格化石が保管されています。現代に生息しているヒゲクジラで最も小さい南半球のコセミクジラでも6mはあるのに、何故こんなにも小さいのか、実はこれまで解明されていませんでした。この標本は、1954(昭和29)年に現在の岩手県奥州市から発見され、今年でちょうど70周年という記念すべき年を迎えました。70年目にしてようやくその大きな謎を解き明かせそうです。
(地学研究部:甲能直樹)