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10月30日
ベナン共和国で食用きのこを調べる
Candolleomyces tuberculatus
(2025年8月にベナン中部のEkpa村で村人により採取されたもの)
今年の8月から9月にかけて、西アフリカにあるベナン共和国で菌類の調査を実施しました。現地に発生する野生きのこの多様性と、村人がどんなきのこを食べているのかを調べるのが目的です。野外調査では新種と思われるきのこを含め、多数の野生きのこを採集することができましたが、今回のハイライトは村人への聞き取り調査。7つの集落で合計70名近い村人にインタビューを実施し、
Candolleomyces tuberculatus
というナヨタケ科のきのこに関する非常に興味深い知見を得ることができました。本種もしくは類似する近縁種は、ベナンから遠く離れたカリブ海のハイチ共和国で国民食として親しまれているのですが、ナヨタケ科のきのこは一般的に小型で目立たないので、世界でも人気のある食用きのことは言えません。それがベナンでも主要な食用きのこのひとつとして扱われているという事実は、ナヨタケ食文化がベナンからハイチへ広がった可能性を示唆しているのかもしれないのです。今回の調査結果が、人類の食文化に関する新たな発見につながるかもしれず、非常に有意義な調査となりました。
(植物研究部:保坂健太郎)
10月23日
ミナミテナガエビは小笠原諸島に分布するのか?
19世紀末に小笠原諸島で採集されたヒラテテナガエビの標本
私たちの研究グループでは小笠原諸島の甲殻類相を継続的に調べています。その過程で19世紀末に記録されたミナミテナガエビが、近年の調査では全く記録されていないことに気がつきました。本当にミナミテナガエビは小笠原諸島に分布するのでしょうか?分布の根拠となっているのが、石川千代松・岩川友太郎(編)「帝国博物館天産部動物標本目録」(1891年)です。帝国博物館というのは、現在の東京国立博物館の前身で、その天産部(自然史)標本は1925年に東京博物館(科博の前身)に移管されていることが分かっています。早速台帳と標本庫を調べたところ、その証拠標本(写真)が良好な状態で現存することがわかりました。標本を精査したところ、この標本はミナミテナガエビではなくヒラテテナガエビであることがわかり、ミナミテナガエビは小笠原諸島に分布しないと結論づけられました。標本を残すことの重要性がよくわかる出来事でした。
(動物研究部:小松浩典)
10月16日
イェールピーボディ博物館に里帰り
イェールピーボディ博物館の正面入り口
11月1日から開催する特別展「大絶滅展」の展示標本借用のため、この夏アメリカのイェールピーボディ博物館に行って来ました。私はかつてイェール大学の大学院生として、この博物館の収蔵標本を使って研究をしていました。今回は最後の訪問から7年ぶりに、博物館の研究者として ‘里帰り’できました。また、2年前に一新された展示ホールを見学できたことも大きな収穫でした。ここでは近年発掘された標本が展示される一方で、私の大学院生時代からあったアパトサウルスなどの標本が、近年の知見を反映した姿勢に組み直された状態で展示されていました。昔からある思い出の標本を残しつつ、最新の研究の情報を伝えるという理想的な展示改修で、大変感銘を受けました。
(生命史研究部:對比地孝亘)
10月9日
興味が違うにもほどがある
ここは伊豆半島の有名な海水浴場で、手前に見える緑色の細長い葉は、岩に固着した海草のエビアマモです。海草は海中で生育するにも関わらず、花を咲かせる種子植物です。その多くは波が穏やかな砂地に生育しているため、波が激しく当たるような岩場に生える種は世界でも5種程度と極めて少数です。エビアマモは千葉県より北に分布するスガモとともに、東アジアの岩礁で生育できる唯一の種子植物群なのです。私の研究室では、この2種の分布形成のしくみを解明し、気候変動下での変化を予測する研究を進めています。種内にどのような遺伝グループが存在し、環境に応じて棲み分けているのか?海水温上昇はどのような影響を与えるのか?そもそも、現在どこに生育し、どのような役割を果たしているのか?わからないことだらけなのです。ーそんな研究真っ只中なので、現地では「こんなにすごいエビアマモ群落があるのに、誰も見ていないなんて!」と本気で思っていました。今改めて写真を見返すと、「あの人、なんであんな岩場にいるの?」「このきれいな海でもったいない」と思われていたに違いありません。全く異なる興味が隣り合わせに見える写真で、密かに気に入っています。
(植物研究部:田中法生)
10月2日
科博のチョウコレクションの原点を見なおす
林慶氏のコレクションより、ミヤマモンキチョウ。日本では本州中部の高標高地に分布する。
専門家が博物館に託した標本コレクションは、博物館の研究や展示などで重要な役割を担っています。当館の日本産チョウ類コレクションの基盤となったのは、戦後のチョウ研究を切り拓いた林慶氏(1914年〜1962年)のコレクションです。林氏は在野の研究者として、第二次世界大戦後初めてのチョウ図鑑である「日本蝶類解説」(1951年)、チョウの幼生期を詳細に記述した「日本幼虫図鑑」(1959年、分担執筆)を出版するなど、チョウ研究に多大な貢献をされました。林氏の死後、1万個体を大きく超えるチョウ標本コレクションが、ご遺族によって1973年に当館へ寄贈されました。当時は研究者が手書きの台帳やリストで標本の情報を整理しましたが、半世紀を経た今、私の研究室ではそのデータベース化を進めています。コレクションには、すでに姿を消した地域のチョウも多く含まれ、解析を通じて当時の自然や林氏の足跡を新たに知ることを楽しみにしています。
(動物研究部:神保宇嗣)