研究室コラム・更新履歴

9月5日

「天然記念物の調査」
作業を終えた後で無事に原状復帰されたアクリルの保護板。調査結果についてはただいま研究中です。

指導している大学院生の研究に同行し、歌津館崎(宮城県南三陸町)に現地保存されている天然記念物の魚鰭類化石の調査を行いました。この地域には前期三畳紀の大沢層が分布しています。この標本は、本層から報告されている世界最古の魚鰭類(ぎょきるい:よく知られているイクチオサウルスなど魚竜類に加えて、三畳紀のより原始的な種類が含まれる分類群)の一つである、ウタツサウルスである可能性が高いものです。今回は特別に調査許可を取り、普段は保護のため標本を覆っている分厚いアクリル板を外してもらい、詳細な観察や3Dスキャンを行いました。どんな標本でも注意して扱うことに違いはありませんが、無事にアクリル板を付けなおして作業が終了したときはさすがにほっとしました。
(地学研究部:對比地孝亘)

8月29日

伝統野菜の起源を探る
ンジャナの野生系統(左)と栽培系統(右)。同倍率。

当館では野菜や園芸植物などの起源を探るプロジェクトを行っています。沖縄の伝統野菜の1つであるンジャナ(=ホソバワダン)も本プロジェクトの研究対象の1つです。この野菜は琉球王国時代から薬草としても利用され、県内のファーマーズマーケットなどで流通しています。これまでこのンジャナはそれぞれの生産者がそれぞれの地域から採集した野生系統を栽培・販売していると考えられてきました。しかし、研究によって現在流通しているほとんどのンジャナは遺伝的なまとまりがあり、野菜としての系統を確立しつつあることが示唆されました(詳細はこちら )。現在、その起源となった野生集団がどこに存在するのかを追跡する研究を進めているところです。
(植物研究部:國府方 吾郎)

8月22日

小さなガの正体を明かす
1995年に採集されたサザナミタテゲハマキの標本 撮影:鈴木信也

私が研究対象としている小さなガでは、昆虫相の解明が進んでいる日本でさえ正体のわからない種が採集されることがあります。この度、私が20年以上前に採集した不明種の1つの正体を、共同研究をしている学生が突き止め、新種サザナミタテゲハマキとして共同で記載しました。この種が所属するタテゲハマキガ族(族は、亜科と属の間の分類階級)も、これが日本で初めての正式な記録となりました。日本の小さいガの解明は日々進んでいるとはいえ、私たちが把握すら出来ていない種もまだまだ残っていると、改めて感じる研究になりました。
(動物研究部:神保宇嗣)

8月15日

日本都市計画学会賞を受賞した上野公園
完全歩行者空間化された上野駅公園口

パラパラとめくっていた建築雑誌に「都市計画学会賞に上野公園 」という見出しがあるのに目が留まりました。他の学問分野のことはわかりませんが、建設系の学会の賞といえば、研究者の業績のみならず、実際に創られた「モノ」も顕彰の対象で、しかも「学会賞」ともなれば最高位の栄誉です。受賞理由を調べてみますと、「上野公園グランドデザインに基づき、ハード、ソフトにおよぶ様々な主体が多様な事業を継続的にマネジメントしてきた」ことが評価されたようです。例えば「鉄道会社との連携による駅舎改築と合わせた駅前広場の完全歩行者空間化」を実現したことが成果の一つとして取り上げられていました。上野駅公園口のロータリー化にはこんな背景があったのですね。受賞対象者として、公園緑地事務所・学識経験者・地域組織・民間事業者・自治体の名がずらりと並ぶことからもわかるとおり、魅力的なまちづくりには様々な人々の合意形成と、共通の目標へと向かう一体性が欠かせません。実はその受賞者を構成するメンバーの一機関に当館も参画していると知って、それならばと、この栄誉を末席から勝手に寿ぎたいと思いました。ご関係の皆様、まことにおめでとうございます。
(理工学研究部:久保田稔男)

8月8日

幻の北海道石
紫外線でさまざまな色に蛍光するオパール(櫻井コレクション)

昨年、新種の鉱物として、北海道石が承認され話題になりました。当館の研究者は関わっていませんでしたが、この情報を得て当館のコレクションを改めて確認したところ、故櫻井欽一博士のコレクション中 に、同一産地の鉱物(オパール)がありました。北海道石は蛍光性の有機分子が結晶化したもので、他の蛍光性有機分子とも共生し、紫外線を当てると蛍光を発します。早速当館のオパールにも紫外線を当ててみたところ、残念ながら北海道石は含まれないようでした。しかし、上の写真のような美しい蛍光が見られ、この標本が「蛍光性有機分子を含むオパール」であるという新たな学術的価値に気づくことができました。また、そのような希少な標本を網羅的に集めた櫻井博士の蒐集眼の凄さを再認識させられた出来事でした。北海道石と共生する他の蛍光性有機分子については現在も研究が続けられています。
(地学研究部:門馬綱一)

8月1日

新しい標本貼付装置
2024年に完成した新しい標本貼付装置(TB-20)。電熱コテでテープに熱をかけることで標本が台紙に貼付される。

植物標本を台紙に貼付する方法は様々です。1972年に国立科学博物館の金井弘夫が考案した電熱コテを利用してPEラミネートテープで貼付する標本貼付装置は、簡易性と効率性で日本の植物標本室に瞬く間に普及しましたが、昨年3月に生産終了となってしまいました。そこで、東京大田区の中小企業と共同で代替機器の開発を行い、今年初めに新しい貼付装置が出来上がりました。こうして金井が考案した貼付法を受け継ぐことができましたが、博物館での標本整理に使用する用品類は市販品がないことも多く、今後も町工場などと連携して他館でも活用できる標本整理グッズの開発を試みたいと思っています。
(植物研究部:田中伸幸)

7月25日

きれいな鳥 インドクジャク
撮影:青蝠q史

インドクジャクはきれいでカラフルな鳥の代表です。オスは求愛する時にメスの方を向いて尾羽(正確には上尾筒)を広げ、目玉模様の付いた飾り羽を振るわせます。幅3メートル近くもある剥製標本(上の写真)が、11月開幕予定の特別展「鳥展」の入り口で皆さんをお迎えします。ゲノム解析の進展で分類が大きく変化した昨今、これまでの鳥のイメージをゲノム時代にふさわしくアップデートしていただけるようにとの思いで現在準備を進めています。なぜカラフルな鳥が世界には多いのでしょう。それについても鳥展ではいくつかのヒントが得られると思います。
(動物研究部:西海 功)

7月18日

インドネシアの洞窟壁画
ブル・シポン洞窟で4万8千年前に描かれた2頭のアノア(中型のウシ科動物)。左のアノアの前には小さな人々が描かれ、狩猟の場面と考えられています。

昨年、インドネシアの洞窟壁画を見に行きました。洞窟壁画といえばヨーロッパのラスコーやアルタミラが有名ですが、近年、インドネシアのスラウェシ島で世界最古級の壁画が次々と見つかっています。のどかな田園地域に点在する石灰岩の丘のあちこちに、なんと300カ所以上もの壁画洞窟があります。洞窟の灰白色の壁には、無数の手形があり、イノシシやウシ科の動物、時にはそれを狩猟する人々も描かれています。壁画の表面を覆う鍾乳石の年代測定によって、古いものは5万年前まで遡ることがわかりました。これほど多くの手形や壁画を、旧石器人はどうして洞窟に残したのか、興味が広がります。
(人類研究部:藤田祐樹)

7月11日

博物館の知識の恩恵
ついこの間、調査のため石垣島に行ってきました。私は岩石・鉱物の年代測定を研究しています。石垣島は、三畳紀からジュラ紀(約2.5億年前〜1.6億年前)の基盤岩に、古第三紀漸新世頃(約3300万年前)の花崗岩が貫入しており、ごく新しい地層でできた島が多い琉球列島の中では、特異な地質を持っています。また、石垣島は気候も非常に温暖なため、植生も本土とは大きく異なります。写真は、道路沿いで見つけた板根(ばんこん)です。熱帯地域は土壌層が薄いことから、地表に出た根が板状に発達し、樹林を支えているのが写真からお分かりになりますでしょうか。植物に無知な私ですが、地球館1階の常設展示「地球の多様な生き物たち」で知っていたため、これに気付くことができました。博物館で得た知識で世界が広がることもあるのです。
(地学研究部:堤 之恭)

7月4日

企画展終了、そしてその先に
企画展「知られざる海生無脊椎動物の世界」からのメッセージ

当館の上野本館で開催しました企画展「知られざる海生無脊椎動物の世界」 (3月12日〜6月16日)では、最後にメッセージ(上記写真)を掲げました。このメッセージに込めた「世の中には多様な生き方があると知ることが大切」という世界観に共鳴いただいた方も多かったようで、この企画展をやってよかったと思っております。なお、近々当館のホームページにアップされます企画展のVR映像でもこの世界観を感じていただければありがたいです。さらに、この世界観をコンパクトにまとめた巡回展キットもまもなく完成です。近くで巡回展が開催されましたら是非足を運んでいただければと思います。
(動物研究部:並河洋)