研究室コラム・更新履歴

12月2日

高山植物の多様性を守るための取り組み
今年の秋に、日本百名山の一つ白馬岳の周辺で、希少な高山植物のモニタリング調査をしてきました。絶滅の危機に瀕しているタカネキンポウゲ(写真)などが調査対象で、途中悪天候にも見舞われましたが、環境省の職員をはじめ、白馬五竜高山植物園や長野県環境保全研究所の共同研究者と共に、自生地での生育や開花状況についての調査を行いました。2年前の調査時と比べて周辺の環境に異なる点などもあり、今後も定期的な調査が必要だと実感しました。また現在、筑波実験植物園においても、栽培・増殖方法についての研究などを進めています。
(植物研究部:村井良徳)

11月25日

ある巻貝の絶滅パターン
極東ロシア産の三畳紀前期ベレロフォン類(巻貝)の化石

ベレロフォン類は、左右対称の平巻きの殻を持つ化石巻貝で、古生代の海で大繁栄し、ペルム紀末(約2億5190万年前)の大絶滅事件を生き延び、続く三畳紀に絶滅しました。私たちはこの巻貝の時代分布や生息場を詳しく調べました(Shigeta et al., 2021)。この巻貝は、三畳紀最前期(約2億5100万年前)には世界中の浅海に生息していましたが、低緯度地域から徐々に姿を消し、三畳紀前期の中頃(約2億4900万年前)には絶滅しました。このような段階的な消滅は、三畳紀前期に進行した地球温暖化とそれに関連する出来事がこの巻貝の生息に深刻な影響を及ぼした可能性が高いことを示唆しています。
(地学研究部:重田康成)

11月18日

魚類標本に秘められた小宇宙
トガリムネエソの液浸標本(上)とCT画像(下)

今年は新型コロナウィルス感染症拡大がありましたので、研究室や自宅で研究データを見直す時間ができました。その中であらためて感心したのは、魚類の骨格の美しさです。骨格構造が判明している魚種は全体のほんの一握りしかありません。通常、骨の染色や皮膚・筋肉の透明化をしてから解剖を始めますので、準備だけでも数週間〜数ケ月かかってしまうのが理由のひとつでしょう。私は当館の魚類液浸標本を使って内部骨格をマイクロCTで調べています。今は特に深海魚の内部骨格の観察と比較に心を弾ませています。
(動物研究部:篠原現人)

11月11日

日本の自動車産業とメートル法
『自動車製図に関する諸表類集』(大正13年、陸軍技術本部)仏・独に学んだ陸軍はメートル、海軍はヤードで、民間は尺で標準化は遅れた。しかし航空機だけは陸海軍メートルに統一。

1923年の関東大震災により、東京市は1,000台のトラック・シャーシをフォード社に発注し、製造された市営バスは復興に活躍しました。その後、フォード社、GM社が日本に進出し、多くの自動車が生産されるようになります。国産自動車メーカーである日産やトヨタも1935年前後に設立され、生産を開始しました。ところが、国内メーカー育成を推進した陸軍はメートル法が基準であるため、ヤード系の米国や、従来の尺貫法による工場設備の変更にはとても苦労しました。ちなみにメートル法への完全移行は1958年の事になります。
(産業技術史資料情報センター:鈴木一義)

11月4日

本州にも巨大なヒグマがいた!
本州に生息していたヒグマの化石(群馬県上野村教育委員会所蔵)

ヒグマは、現在の日本国内では北海道だけに生息していますが、かつては本州にも広く分布していました。先日、私たちは群馬県で発見された3万2,500年前のヒグマの化石から古代DNAを抽出することに成功し、本州のヒグマが14万年前に北海道から津軽海峡を越えて渡来したことを初めて明らかにしました。ヒグマは巨大な肉食動物なので、向かうところ敵なしの存在に思えますが、本州からは何故か2万年前に姿を消してしまいました。
(地学研究部:甲能直樹)

10月28日

秋の虫干しの頃
(左)おし葉標本の収蔵状況 (右)江戸時代の本草学者飯沼慾齋(1782−1865)が作製したマイヅルソウのおし葉標本

虫干しといえば正倉院が有名です。書画が描かれた和紙も虫害に遭います。和紙は植物から作られており、その原料であるコウゾやミツマタなどのおし葉標本、トリカブトのような有毒植物のおし葉標本も虫害に遭います。120万点以上のおし葉標本を収蔵する当館植物標本室では、書画や着物のように標本1点1点の虫干しは現実的ではありません。また、標本室は、研究等に頻繁に利用されるため、完全密室にはできません。そのため、殺虫・防虫のための定期的な燻蒸や虫が成長しないための冷房が、おし葉標本を虫害から護るために不可欠です。
(植物研究部:秋山 忍)

10月21日

かたちで区別できる?
磯でよく見かける“ヒザラガイ”この種も学名と和名が確定していない

日本のヒザラガイ類の分類は、近年DNAを用いた研究が増えており、従来単一の種だとさていたものが複数の種に分けられたという例も増えています。一方、従来区別されていなかったわけですから、分けられた種を形態で区別することは難しく、さらに学名の基になったタイプ標本のDNAを調べることも標本を痛める観察が原則的に禁止されていることや、標本が古いことなどから困難なことが多いため、学名のつけられた種を特定できないといった問題も出てきています。日本に分布するヒザラガイ類は東アジアの大陸沿岸にも分布するとされている種が多いことから、現在、中国、韓国、ロシア、アメリカの研究者と共同でこのような問題を解決するための研究を行っています。
(動物研究部:齋藤 寛)

10月14日

習志野隕石の密度
習志野隕石1号の3Dモデル(3軸方向と斜めからの投影図)

隕石は重いと思われているようですが、実際はどうなのでしょうか?同じ大きさの地球の岩石と密度を比べてみると分かります。現在では、3Dスキャナを使って精密な3Dモデルを作ることができるようになりました(写真)。これから体積が計算でき、重量を天秤で測れば密度が求められます。Hグループに属する 習志野隕石の密度は3.18-3.23g/cm3で、同グループの普通球粒隕石の平均約3.35g/cm3よりも小さくなりました。これは隕石を作っている鉱物が軽いのではなく、鉱物の間に隙間があるところが多いためです。地球の岩石の密度は花崗岩など通常の岩石は2.5-2.8g/cm3程度のものが多く、かんらん岩だと3.3g/cm3程度あります。したがって、習志野隕石は地球の普通の岩石より少し重い(密度が大きい)ですが、全ての岩石より重いとは言えません。「はやぶさ2」がサンプルを持ち帰った小惑星リュウグウに似ていると言われる炭素質球粒隕石のCIグループでは密度が小さく、2g/cm3以下のものもあります。
(理工学研究部:米田成一)

10月7日

太平洋に沈む超大火山
太平洋に分布する巨大海台

太平洋下の海底は平坦ではなく、「巨大海台」と呼ばれる台地が分布しています。それらの多くは1億年以上前に噴火した巨大火山です。これらのうち、オントンジャワ、マニヒキ、ヒクランギは、かつては1つの超大火山を形成しており、その後に3つに分かれたという仮説が提案され始めました。私自身、この仮説には懐疑的ではありますが、これを確かめるために巨大海台を掘削する計画が進行中です。詳しくは最近「地学雑誌」に掲載された論文をご覧下さい。
(地学研究部:佐野貴司)