2010-03-15

チリの大地震と津波警報 (協力:地学研究部 横山一己)


津波発生と到達のメカニズム

 津波の多くは,地震によって海底地殻が変動することで発生します(※1)。
 地震の断層運動によって海底が隆起,或いは沈降すると,その上の海面も一緒に上昇,若しくは下降します。津波はこの海面の変動が波となり,放射状に広がったものです。

 海水面の変動は,水深の深い沖合ではそれほど目立ちません。波長は数十〜100キロメートルにもなるため,一見して波と認識するのは容易ではありません。
 しかしその間にも津波は,沿岸へ向かって確実に進んでいます。津波の伝わる速さは(波の高さ+水深)×重力加速度の平方根で表されますが,太平洋の平均深度を4000メートル,深度と比べて津波の高さは極めて小さいので0メートル,重力加速度を9.8(m/s2)として計算すると秒速は約200メートル,時速に直すと約720キロとなり,ジェット機にも匹敵する(実際の速度は飛行条件によって大きく異なります)驚くべきスピードで進んでいることが判ります。

 沿岸に近づくに連れて,津波のスピードは遅くなります(※2)。これは深度が浅くなるためで,先述の計算式から導くことができます。しかしこれは津波の危険性が小さくなるという意味では全くありません。一般に深度が浅くなるほど,波の高さが高くなるからです。
 波の最初の山が浅瀬に至ってスピードが落ちる時,次の山は最初の山より数百メートルも後ろ,最初の山と比べれば深いところに位置しています。この瞬間のふたつの山の速度を比べれば,最初の山より次の山の方が速く動いていることになります。この結果,後ろの山と前の山との距離が縮まる,言い換えれば波長が短くなります。後ろの波に含まれていた海水は前の波に重なる為,波高は次第に高くなることになります。

 また,リアス式海岸など,陸側に複雑に入り込んだ海岸線では,水が湾の両岸から押される形になって波高が高くなります。1960年に発生したチリ地震では,三陸沿岸などのリアス式海岸で大きな被害が出たことが知られています。 例えば岩手県の宮古湾では,湾の入り口で1.4メートルだった津波が,湾の奥では6メートルと4倍以上高くなっていました(防災科学技術研究所HP)。
 岬の先端付近では,海底がその周囲と比べて浅くなっています。浅い部分では津波の進む速度が遅いため,外側のより深いところを進んでいた波の進路は内向きに曲がります。この波の屈折により,岬の先端では波のエネルギーが集中して波高が高くなります。

 もっと広い視野で考えてみると,津波は必ずしも発生地点から直接やって来るものばかりではありません。発生後放射状に広がった津波は,日本だけでなく他の島や大陸の海岸線にも到達しています。海岸線で反射されたり,島や大陸を回り込んだりして,更には別の進路を辿った複数の波が重なったり打ち消し合ったりと,波の進路は刻一刻と複雑に変化して行きます。

 このような複雑さ故に,津波の高さを予想することは簡単ではありません。最初に到達した波よりも,後で到達する波の方が高くなっていることも多くあります。
 実際,今回の津波についての気象庁の観測情報を全て眺めてみると,第1波を識別することができた全ての観測点で,第1波よりも後で到達した波の方が,観測値が大きくなっていることに気がつきます。最終情報発表までに津波の高さが1メートルを超えたのは岩手県久慈港・高知県須崎港(いずれも1.2メートル)を含めて5ヶ所ですが,それらの場所での第1波は最も高いところでも0.3メートル,微弱あるいは第1波が識別されなかったところもありました。

 最初の波が低かったからもう安心…と避難所から引き上げたり,海に様子を見に行ったりしてしまうことは,時に大きな危険に繋がります。決して自分だけで判断せず,気象庁や地方自治体などの呼び掛けに従って行動するようにしてください。

※1 地震の他に,海底地滑りや海底火山の噴火などの海底地形の変化も津波の原因になります。また,陸上で発生した地震であっても,断層が海底まで続いている場合などには津波が起きる可能性があるため,警戒が必要です。

※2 たとえ遅くなっているとはいえ,例えば水深5メートル,津波の高さが5メートルの時,秒速は約10メートル,時速に直すと36キロで,普通の人間が走って逃げるのはまず無理です。速度だけ見れば自動車ならば逃げ切れるようにも思えますが,多くの人が避難を試みれば車が渋滞し,本来のスピードを出せない可能性が高くなります。
 実際,1993年の北海道南西沖地震地震で津波被害を受けた北海道奥尻町では,渋滞やそれに伴なう混乱のため,車で逃げようとした方の多くが津波に巻き込まれてしまいました(石垣地方気象台HP)。

図:津波の発生と伝播(Wikipedia英語版より翻訳・改変)

より詳しく知りたい方のために
独立行政法人防災科学技術研究所