2008-02-15

鳥たちにも「流行」がある!? つがい相手選びと性選択 (協力:動物研究部 西海功)


カタジロクロシトドの柔軟な配偶者選択とその影響

 カタジロクロシトドの繁殖・子育ては,オスがメスを誘うための縄張りを草原につくるところから始まります。
 オスは縄張りを訪れたメスとつがいとなって繁殖しますが,縄張りをつくることのできたもののうち多いときには45%ものオスがメスの獲得に失敗することもあります。その一方で,自分の縄張りも持ちながら,産卵前のメスがいる他所のつがいに数羽のオスのグループをつくってついて回り,交尾に成功するオスもいます。つがいのオスはそのような他所者オスの集団をしぶしぶ受け入れており,明確な攻撃を向けることはほとんできないのです。この結果,1羽のメスからはしばしば,「つがいのオスの子」と「つがい以外の子」の両方のヒナが生まれることになり,多くの子を残せるオスとほとんど子を残せないオスができることになります。どのようなオスが子を多く残すかはメスの好みと関連があると思われます。

 今回の調査は1999年から2003年の5年間,コロラド州東部のポーニー国立草原で行なわれました。48ヘクタール(最後の2年間は80ヘクタール)の調査区域内でカタジロクロシトドの成鳥を捕獲し,識別用の足環をつけて放しました。
捕獲は年間を通して行なわれ,縄張りの成立から子育ての終わりまでの期間のオスの行動が調査されました。
 オスがメスとつがいになったかどうかは,卵が生まれたかどうかやヒナに餌を運ぶ姿が見られるかどうかで判断できますが,それ以前に以下の4つの条件のうち,3つ以上を満たす行動がみられた時もつがいになったとみなしています。1)何日もの間特定のメスとだけ親密に過ごしている。2)2羽の間で自発的な交尾が見られる。3)オスが縄張り内でのほかのメスへのアピールを止めてしまう。4)メスに近づく他のオスに対して,オスがはっきりとメスを守ろうとする態度を見せる。
また,成鳥と巣内にいる巣立ち直前のヒナから血液を採集し,DNAによる親子鑑定も行なっています。

 オスの外見の特徴のうち,羽について5項目(色,尾の部分の羽毛の黒と茶色の比率,尾以外の部分の羽毛の黒と茶色の比率,斑模様の大きさ,斑模様の色合い),大きさについて3項目(身体の大きさ,嘴の大きさ,体重)に注目し,どの特徴を持つオスがより多くのヒナを巣立たせることができたのか,つまり繁殖に成功したのかを比較しました。
 すると1999年には嘴がほどほどに大きいオスが繁殖に成功していたのに対し,2000年には斑模様の大きいオスが好まれ,2001年には尾の部分の黒い羽が茶色の羽に対して多いオスが,2002年にはまた嘴の大きいオスが,2003年には全身の羽の黒いオスが,というように,多くの子孫を残せるオスの特徴が年々変化していることがわかりました。
 同じくどのような特徴のオスが,つがいの相手を得ることができているかについても調べたところ,こちらもほとんど同じ傾向が見られました。
 特徴ごとにつがい相手としてメスに選ばれたかどうかを見てみると,例えば全身の羽の黒さでは,1999年から2001年ではメスの選択にほとんど関わってきませんが,2002年にやや重要になり,2003年には最も重要な基準にまでなっています。また斑模様の大きさでは,2000年には大きいオスが好まれていますが,2002年には逆に小さいオスが好まれ,他の年には選択の基準になっていません。

 縄張りを持っているオスについては,オスの外見そのものが気に入られてメスに選ばれたのであり,縄張りの環境的条件のためではなかったことを確認しました。
 また1度子を巣立たせることに成功したメスも,翌年には全く違うタイプのオスを相手として選んでいることも判りました。自分の経験から学んだはずの,前の年以前に繁殖・子育てに向いていたオスよりも,その年流行りの外見のオスを選択しているようなのです。

 多くの子を育て上げることのできるオスの外見的特徴は,毎年変化していますが,メスたちはそのような特徴を持つオスを巧く見分けてつがい相手に選んでいたのです。

 このようなメスの柔軟な相手選びは,カタジロクロシトドという生物種全体にとってどのような意味を持つのでしょうか?メスが様々なオスを選択した結果,様々な特徴を持つオスの遺伝子が保存されることになります。種の中の遺伝子多様度が維持され,何らかの極端な特徴だけが残されることはなくなります。クジャクなどではメスの好みが偏るあまり,オスの外見的特徴は目立つ以外の役に立たず,生きる為には却って不利なほど極端になってしまうこともあります。メスの好みが変わることで,このような「行き過ぎ」が防がれているのかもしれません。
 逆に言えば,メスが様々な特徴のオスを選ぶおかげで,オスの多様な外見的特徴が保たれ,また進化したということもできるのです。