プランクトンと微化石

放散虫

我々ヒトをはじめ、貝類やサンゴなど、様々な生物が固い骨格を持っています。体を支えるため、天敵から身を守るためなど理由は様々ですが、骨格の多くはカルシウムでできています。 ところが、海綿や小さな藻類の仲間の中には、二酸化ケイ素と言うガラスと似た成分で骨格を作る生物がいます。放散虫もまた、ガラスの骨格を持っている生物です。 とても小さな単細胞の生物で、アメーバ状の体の中に、1mmの約1/10から1/20程度の大きさのガラスの骨格があります。もちろん、観察には顕微鏡が必要です。 放散虫は、こうした小さな体で海の中を漂いながら生活する、動物プランクトンです。

放散虫の骨格は化石になりやすく、世界中で化石が見つかっています。化石記録によれば放散虫は約5億年前に初めて出現しました。 その後、様々な種が出現・絶滅を繰り返しつつ、現在に至っています。この長い歴史の中で、放散虫の骨格は様々な形態に進化してきました。 細長い塔のような形の種、平たい笠のような形の種、ディスク状の種、球状の種など、実に様々です。

放散虫化石を調べることで、様々なことが分かります。たとえば、放散虫のある種がいつ出現していつ絶滅したのか調べることで、地層が堆積した年代をきめることができます。 また、その地層から産出する放散虫の種類を詳しく調べることで、その地層が堆積した環境を知ることができます。

放散虫化石は美しく、繊細なガラス細工のようです。この美しさに魅せられ、進化学者として名高いエルンスト=ヘッケルは、何枚もの放散虫のスケッチを残しました。 また、日本でも作家の荒俣宏や澁澤龍彦が著作の中で放散虫について書いています。

それでは、放散虫はなぜガラスの骨格を持っているのでしょうか?実は、まだよく分かっていません。 放散虫は飼育することがとても難しいため、どうやって骨格を作っているのか、どのように骨格を使って生きているのか、ほとんど分かっていないのです。 こればかりでなく、何を食べているのか、どうやって増えているのか、そうした生物にとって基本的なことすら謎のままです。今後の研究が望まれます。
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放散虫・ナセラリア(Pterocoryszancleum Muller)。
笠のような形の放散虫。円錐形の網目模様になっている部分が
骨格。骨格の周りの糸状の部分が細胞。
放散虫・スプメラリア(Spongodisidaegen. et sp. indet)。
平たいタイプの放散虫。同心円状になっている部分が骨格。
骨格から放射状に延びているのが細胞。
放散虫・スプメラリア(Hexacontiumsp.)。
球状タイプの放散虫の化石。
放散虫・コロダリア(Collosphaeratuberosa Haeckel)。
凹凸のある球状のタイプの放散虫化石。
放散虫・スプメラリア(Euchitoniaelegans(Ehrenberg))。
平たい三角形のタイプの放散虫化石。
放散虫・ナセラリア(Pterocoryshertwigi(Haeckel))。
釣鐘型のタイプの放散虫の化石。
放散虫・スプメラリア(Didymocyrtisprismatica(Haeckel))。
放散虫化石の電子顕微鏡写真。
放散虫・ナセラリア(Lithopera baccaEhrenberg)。
放散虫化石の電子顕微鏡写真。
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