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日本の科学者技術者展シリーズ第4回
南方熊楠 −森羅万象の探求者−
 南方熊楠は、民俗学の分野における近代日本の先駆者的存在であると同時に、植物学、特に「隠花植物」と呼ばれていた蘚苔類・藻類・地衣類・菌類・変形菌類(粘菌類)の日本における初期の代表的な研究者です。
 熊楠は、19歳の時に米国に渡り、10数年に及ぶ海外での学問的経験を経て33歳のときに帰国します。帰国後は和歌山県の熊野からほとんど離れることなく過ごし、ライフワークの菌類と変形菌を中心とした自然史的研究を行いながら、読書や執筆活動も精力的に行い、その中で独特の思想を展開します。後の高野山管長土宜法龍と交わした書簡には、熊楠が那智の森で思考した仏教的世界観を視覚的に表現した「南方マンダラ」が描かれています。
  一方、当時明治政府が強力に押し進めていた神社合祀政策によって神社周辺の森林(鎮守の森)が伐採されていく状況に憤り、神社合祀反対のために活動するなど、激しい一面もありました。 熊楠の研究フィールドであった熊野の森は、今日では熊野古道の名所となっており、世界遺産に登録されています(「紀伊山地の霊場と参詣道」)。
  当時の多くの科学者が大学などの研究教育機関で研究を行って専門領域を究めていくのに比べ、熊楠はあくまでも「在野」にこだわり続けながらも、単なる植物学者ではなく、自然科学から人文科学まで有りとあらゆる事象を研究の対象とする「一風変わった」研究者でした。本企画展では、熊楠の植物学者としての業績に加え、多方面に渡る研究領域や思想、さまざまな人々との関わり、最近の研究により明らかになってきた熊楠の実像等を紹介します。一つの分野にとらわれず、常に「世の中のすべて−森羅万象―」を知ろうとした熊楠の生き方をとおして、現代の青少年が自然への興味と関心を抱くきっかけとなればと願っています。
 
南方熊楠略年譜
西暦(年号) 年 令 事 項
1867年(慶応3) 0歳 5月18日(旧暦4月15日)、父・弥兵衛、母・すみの次男として和歌山城下橋丁に生まれる。
1875年(明治8) 8歳 『和漢三才図会』(105巻)の筆写に励む。
この前後に『本草綱目』、『諸国名所図会』、『大和本草』なども筆写。
1884年(明治17) 17歳 9月、大学予備門に入学。同級生に夏目漱石、正岡子規ら。
1886年(明治19) 19歳 2月、予備門を退学、渡米(12月)
1887年(明治20) 20歳 1月、サンフランシスコに上陸、同地のパシフィック・ビジネス・カレッジ、のちランシングの州立農学校へ入学、同時に植物調査を行う。
1891年(明治24) 24歳 4月、フロリダ、キューバなど各地で植物を調査。
キューバで採集した地衣類の一種は新種と認定された。
1892年(明治25) 25歳 9月、ニューヨークからロンドンへ渡る。
1893年(明治26) 26歳 9月、大英博物館への出入りを許され、東洋関係の文物の整理をしながら読書と抄写に励む。
10月、週刊科学誌『Nature』に「東洋の星座」を発表。
ロンドン訪問の土宜法龍と会い親交を結ぶ。
1895年(明治28) 28歳 4月、大英博物館の図書館に通い、民俗学、博物学、旅行記などの筆写を開始し、筆写ノート「ロンドン抜書」は帰国までに52冊となる。
1897年(明治30) 30歳 3月、大英博物館東洋図書部長 R・ダグラスの紹介で孫文と会う。
1900年(明治33) 33歳 生活の窮迫から9月1日、帰国の途につく。
10月15日、神戸に上陸、弟・常楠に迎えられ和歌山市に帰る。
1901年(明治34) 34歳 10月、熊野入り、那智山周辺の隠花植物を調査。
1904年(明治37) 37歳 9月、那智での研究生活を打ち切り、田辺へ(10月)。
1906年(明治39) 39歳 7月、田辺闘鷄社宮司の四女田村松枝(27歳)と結婚。
1909年(明治42) 42歳 9月、神社の合祀と森林伐採に反対する意見を「牟婁新報」に発表。
1911年(明治44) 44歳 3月、柳田国男より来信、以後文通を重ねる。
9月、松村任三宛書簡二通が柳田により「南方二書」として刊行され、識者に配布される。
1921年(大正10) 54歳 1月、自宅の柿の木より発見した変形菌を新属新種ミナカテルラ・ロンギフィラと命名したとの知らせをG・リスターより受ける。
1926年(大正15) 59歳 11月、門人小畔四郎らと協力して変形菌標本90点を摂政宮(後の昭和天皇)に進献。
1929年(昭和4) 62歳 6月、南紀行幸の昭和天皇に進講し、変形菌標本110点を進献。
1935年(昭和10) 68歳 12月、神島が文部省より史蹟名勝天然記念物に指定される。
1941年(昭和16) 74歳 12月に入ると萎縮腎で臥し、やがて黄疸を併発する。
29日午前6時30分永眠。
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