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6月28日
ひとかけらの化石から植物の来し方を知る
日本館の展示でも紹介しているように、約1600万年前、日本付近はとても温暖な環境となり、熱帯—亜熱帯のマングローブを特徴付ける動植物が本州最北端にまで広がりました。この時期に見つかるマツ属の化石種について、昨年、金沢大学(当時)の山田敏弘さんの研究グループは、現生のクロマツやリュウキュウマツにつながる系統であることを明らかにしました。特に後者は、その後の寒冷化に伴って南下したものとされ、こうした地質時代の“事件”が日本の植物の多様性をもたらしたというのです。私は現在、この温暖期に見つかった写真のマメ莢(さや)化石の研究に取り組んでいます。おそらく南方からやってきたこのマメが現在のどのようなグループに繋がるのか、乞うご期待です。
(地学研究部:矢部 淳)
6月21日
上野公園の仮設建築
絵はがき『平和記念東京博覧会原色写真版』のうち「(平和記念東京博覧会)(其五)交通館(其六)航空館 林業館」(当館蔵)
上野公園の広場では、仮設テントを設置し様々な催しが開催されます。公園内で仮設の施設を設置して催しが行われた例は、1877年(明治10年)に開催された第一回内国勧業博覧会にさかのぼります。仮設のパビリオンが設置され、会期終了と共に撤去されました。1922年(大正11年)に開催された平和記念東京博覧会では、若手建築家がパビリオンの設計を担い、新たな建築表現を実現した博覧会として記録されています。こうした博覧会の様子は、文献や絵はがきに記録され、今でもその様子を知ることができます。仮設ゆえ、実物を見ることができない建築設計の冒険的な取り組みについて、当時の絵はがきを眺めながら思いをはせています。
(理工学研究部:久保田稔男)
6月14日
無花粉スギでシダが危機に?
無花粉スギへの植替えのために伐採されてしまったシムライノデ自生地
「唯一の自生地の林が伐採されてシムライノデが危ない。」 そんな報がもたらされたのは今年1月のことでした。シムライノデは静岡県で発見されたシダ植物です。現存する確実な産地は東京都西部の1箇所のみで、環境省のレッドリストでは上から2番目に絶滅の危険性が高いIB類と判定されています。急遽確認をとった結果、無花粉スギへの植替え事業に伴い、自生地のごく狭い一部分を除いて現在のスギ植林は皆伐(かいばつ)予定であることが判明しました。2月に現地を訪問すると、伐採済み区画ではシムライノデは既に跡形もない状態でした。伐採寸前の林下に残っていた数十株は、許可を得た上で筑波実験植物園と東京都植物多様性センターに待避させ、今後の対応を検討しているところです。期待の大きい「花粉症ゼロ」政策の思わぬ副作用と言える出来事でした。
(植物研究部:海老原 淳)
6月7日
アシダカグモ
アシダカグモは、脚を伸ばすと手のひらほどの大きさのクモで、しばしば風呂場やトイレに出没して人を驚かす。しかし性格はおとなしく、毒性も強くないので、私の知り合いの一家は「クモのアシダさん」と呼んでかわいがっている。実はこのクモ、すでに江戸時代には日本に定着していた東南アジア原産の外来生物だ。かつてアシダカグモ科を研究したことがあるが、この種だけが人類の生活に密着して世界中に拡散し、ほかは森の中でひっそりと暮らしている。「蜘蛛の子を散らす」とは、一説には、このクモの母親が抱えている卵嚢(らんのう)を人が破ったときに、無数の卵が飛び散ることに由来するという。
(動物研究部:小野展嗣)
5月31日
本番の実験航海はいよいよ来年
本番で予定している航路
「3万年前の航海 徹底再現プロジェクト」
の最終目標は、来年に予定している台湾→与那国島の航海です。「当時の舟は草か、竹か、木か」など、まだ多くの謎が残っていますが、私たちはさらに研究と実験を重ね、3万年前についての最高の仮説を用意して、この本番に臨みます。7月8日(日)には、
NHKスペシャル
で紹介され、そして本番のための最後のクラウドファンディングがスタートします。皆様どうぞ最後まで応援ください!
(人類研究部:海部陽介)
5月24日
思わぬ幸運
2017年8月21日カナダにて撮影
2017年8月に、アメリカの一部で皆既日食が観測されましたが、その時私は調査のためカナダにいました。日食の時間、折よく適度な厚さの雲がかかったために裸眼で直視できる程度の明るさになり、(部分)日食の様子をつぶさに観察することができました。写真は手持ちのコンパクトデジカメの最大望遠20倍(光学5倍×デジタル4倍)で撮影したものですが、案外良く撮れるものですね。
(地学研究部:堤 之恭)
5月17日
つくばで見られるか!?「ヒマラヤの青いケシ」
少し早目に咲かせた花が5月上旬に白馬五竜高山植物園で展示された
5月19日(土)から筑波実験植物園で、企画展「高山植物〜かけがえのない高嶺の花たち〜」を開催します。会期中は当園の高山植物コレクションを公開します。さらに今回は、日本では栽培が難しくなかなか見ることができない「ヒマラヤの青いケシ」として有名なメコノプシス属植物の展示を画策しています。企画展にあわせて開花させるのもかなり難しいのですが、協力団体で展示実績のある白馬五竜高山植物園で準備が進んでいます。
(植物研究部:村井良徳)
5月10日
2匹のオスがついたビワアンコウのメス
全長123 cmのメスとその胸鰭と腹についたオス。オスの唇は完全にメスの皮ふと癒合している。
ビワアンコウのメスは全長1.2mになりますが、オスは15cmにしかなりません。これを矮小オスと呼びます。深海ではオスとメスが出会う機会が少ないので、オスがメスの体に寄生するという方法が発達しました。2年前に開催した特別展「海のハンター展―恵み豊かな地球の未来―」では1匹のオスが寄生したメスの標本を展示しましたが、当館所蔵のものではありませんでした。この寄生の状態を生鮮標本で観察したいと願っていたところ、根室沖産で2匹のオスがついた立派なメスのビワアンコウを最近譲ってもらうことができました。標本を綺麗に作り、今後展示等でお見せしたいと考えています。
(動物研究部:篠原現人)
5月3日
隕石から作られた刀「流星刀」
東京博物館に展示されていた流星刀と白萩隕鉄(1925年頃)
鉄隕石(隕鉄)は全体がほぼ金属でできた隕石です。明治政府で大臣を歴任した榎本武揚は白萩隕鉄を使って日本刀を作らせました。「流星刀」と名付けられた刀は長刀2刀、短刀3刀が作られ、長刀1刀が皇太子(後の大正天皇)に献上されました。その他の流星刀は榎本家に伝えられ、一時当館の前身である東京博物館にも展示されていました。残りの隕石は寄贈され、現在も当館で展示されています。
最近各地に流星刀が所蔵されるようになり、富山市科学博物館などの協力を得て調査を始めました。流星刀の表面には普通の日本刀とは違いはっきりした模様が見られ、東京博物館の短刀はこの模様の違いにより別の刀であることが分かりました。今後X線CTなどを行い、それぞれの流星刀の由来を明らかにしていきたいと考えています。
(理工学研究部:米田成一)
4月26日
北海道からプラビトセラスの追加標本発見
北海道産のプラビトセラス
(Pravitoceras sigmoidale)
プラビトセラスは、殻が平面螺旋形から成長後期にS字状によじれるという特殊な巻き方を示す白亜紀後期(約7250万年前)の異常巻きアンモナイトです。鳴門市(香川県)や淡路島(兵庫県)から産出するため、西日本に固有のアンモナイトと考えられていました。私たちは2008年に北海道・日高地域からプラビトセラス1標本を報告し、北海道にも分布していたことを示しました。そして、2018年3月、北海道から新たにプラビトセラス2標本を報告しました
(Shigeta & Izukura, 2018)
。プラビトセラスが含まれる地層や共産化石の研究はまだ十分に進んでいませんが、一つずつ解明していきたいと思っています。
(地学研究部:重田康成)
4月19日
サクラ
自然雑種と推定されるヤママメザクラ(ミノブザクラ)[2018年3月28日房総半島]
サクラといえば栽培されているソメイヨシノが取り上げられることが多いですが、日本には山野に自生する野生のサクラがあります。東京の上野公園でソメイヨシノが満開に近いころ、房総半島では野生のサクラが花盛りでした。その中でもマメザクラはヤマザクラよりやや小ぶりの花をつけ、花序あたりの花数も2個前後と少な目で、遠目に見ても違いがわかります。また、自然雑種と推定されるヤママメザクラ(ミノブザクラ)はヤマザクラでもなくマメザクラでもなく、ちょっと変わったものに見えます。東京周辺ではこれからカスミザクラの花が咲きます。野生のサクラの花をじっくり見てみませんか。自然雑種が見つかるかもしれません。
(植物研究部:秋山 忍)
4月12日
100人力の助っ人
丸木舟を漕ぐモーケンの人
一昨年度から始まった総合研究「ミャンマーを中心とする東南アジアの生物インベントリー」では海洋生物の調査も行っています。私はミャンマー南部にあるランピ国立海洋公園内の島々での調査に参加しましたが、そこでは海洋民族として知られる「モーケン」の人たちに調査協力していただきました。かつては生涯を海上で過ごしたといわれるモーケンの人たちは、現在でも海に関する多くの知識や、優れた潜水能力をもっています。持参した海産無脊椎動物の標本や写真を見せて、このようなものを集めてほしいと依頼したところ、とても小さな種類や、一見、同じなかまとは思えない種類まで、たちどころに集めてくれたことには大変驚きました。
(動物研究部:齋藤 寛)
4月5日
東大寺修二会(お水取り)と時香盤(香時計)
籠松明への点火
東大寺二月堂の修二会(しゅにえ)は天平勝宝4(752)年に始まり、以来途切れることなく続く由緒ある行事で、今年で1267回目になる。3月1日から2週間、行を勤める11人の練行衆(れんぎょうしゅう)は1日6回決まった時間に法要を行う。その時間の管理は、今でも時香盤(じこうばん)が儀式中で使われ、一度見たいと思っていたところ、今年3月12日のお水取りに参加する機会を頂いた。人々の見守る中、「時香の案内」のかけ声で松明が点され二月堂に上がるのを聞き、時間の重要性はこうして広まったのだと納得し、1200年余の時の長さも改めて実感した夜だった。
(産業技術史資料情報センター:鈴木一義)