研究室コラム・更新履歴

6月22日

地球で人類が大繁栄!
写真:都市の夜景。夜の闇に輝く人工の光は宇宙からも見える。

「技術」を人の生存に必要な技や知識の総体として捉える技術史を研究しています。高度成長期の日本の産業を技術者視点で追究する研究や、人の活動と地球環境を総合的に考える「アントロポシーン(人の時代)」などの研究で、科博は世界のトップランナーの一角を担っています(次回開催の国際会議)。「アントロポシーン」は問題を把握するための概念として提案されましたが、地球科学の正式な学術用語への動きも進んでいます。昨年の国際層序委員会では、1951年頃の新たな時代区分の検討が話題となりました。この時期が世界や日本の成長期と重なることは偶然ではないと考えます。
(産業技術史資料情報センター:亀井 修)

6月15日

イリオモテヤマネコのタイプ標本
今年は西表島に分布するベンガルヤマネコの亜種イリオモテヤマネコが新種として記載されて50周年です。動物文学作家の戸川幸夫が1965年に入手した最初の標本は、当時の日本哺乳動物学会(現:日本哺乳類学会)で紹介され、僕の大大大先輩にあたる当館の哺乳類研究者、今泉吉典により研究されることになりました。今泉先生は2年間にわたりさまざまなネコ科の種と比較し、 1967年5月13日に出版された『哺乳動物学雑誌』で新属新種として発表されました。記載に用いられたタイプ標本は当館筑波研究施設の収蔵庫に保管されています。
(動物研究部:川田伸一郎)

6月8日

縄文時代の事故?
今回紹介する標本は、岩手県宮野貝塚から出土した縄文時代中期の人骨です。骨の形状から、身長160cm台後半の大柄で壮健な中年男性であったことが読み取れます。彼の骨盤には石製の鏃(やじり)が突き刺さっていましたが、傷は治癒しており、骨が鏃を包みこんでいます。つまり、矢でお尻を撃たれた後、ほとんど動けない重症だったにもかかわらず、治癒するまで、少なくとも2カ月は生きていたのです。とどめを刺されていないので、闘争などの事件というよりは、狩りの途中に間違って撃たれた事故だったと考えられます。当人には大変な事だったと思いますが、筋骨逞しい中年男性のお尻に矢が突き刺さっている姿には、不謹慎にも可笑しみを感じてしまいました。
(人類研究部:坂上和弘)

6月1日

南半球から北半球へ
キタミソウという水草は、北半球の温帯から亜寒帯地域に広く分布しますが、同じ属の他の数種はそれぞれが南半球の大陸ごとに分かれて分布しています。これは、キタミソウが、各大陸で南に移動し、そこで各種に分かれたものと私は推測していました。ところが、DNA解析の結果、事実はむしろ逆で、キタミソウはこの属の中で最後の方に出現した種であり、南半球から北半球に移動したものがキタミソウとして北半球に広く分布するようになった可能性が高いことがわかったのです(参考)。近年、水辺で小さな種子をつくる水草が渡り鳥などによって長距離を移動することが明らかになってきましたが、また1つ新たな証拠が見つかったことになります。
なお、水草の進化や生態の不思議を紹介する企画展「水草展2017〜まもろう!野生の水草〜」(8月11日〜8月20日)を、筑波実験植物園で開催いたします。こちらも是非ご覧ください。
(植物研究部:田中法生)

5月25日

マイクロX線CT
ノコギリクワガタ(♂)背面から見る飛翔筋(A:縦走筋;B:背腹筋)のマイクロX線CT像

マイクロX線CTは、人体に用いられるCTスキャン装置と同じ原理で、微小なサンプルにX線を照射して断層撮影を行い、それをコンピューター上で集積して、3D画像を作ることのできる装置です。この機械を使うと、昆虫内部の筋肉やさまざまな器官の構造を非破壊的に観察することができます。これにより、ノコギリクワガタの飛翔筋をつぶさに観察することができました。2組の飛翔筋が直交する様子が大変印象的でした。
(動物研究部:野村周平)

5月18日

平和記念東京博覧会の絵はがき
写真:『平和記念東京博覧会原色写真版』から、「(平和記念東京博覧会)(其五) 交通館 (其六) 航空館 林業館」(当館蔵)

1922(大正11)年に、上野公園を会場として平和記念東京博覧会が開催されました。会場では「文化村」として実験住宅が展示され、日本の住宅設計に影響を与えました。また、日本初の建築運動として知られる「分離派建築会」のメンバーが、一部のパビリオンを設計し、過去の建築様式にとらわれない新たな建築デザインのあり方を提言しました。当時の絵はがきが多数残されており、その画題を分析することで、人々が博覧会をどのような勘考をもって受けとめたのか知ることができるのではないかと考え、日々絵はがきを眺めています。
(産業技術史資料情報センター:久保田稔男)

5月11日

木製の結晶模型
最近、都内のある私立大学で教育用に使われていた鉱物標本を科博で引き取りました。その中に、古い鉱物標本に混じって木製の結晶形態模型がありました。木製の結晶形態模型は、ドイツの鉱物標本商であるクランツ商会が19世紀後半に販売したものが日本でも輸入され、一部の大学では今でも教育に用いられています。今回寄贈を受けた模型は日本国内で製作されたもので、クランツ商会の模型をお手本に作られたようです。結晶形態を学ぶことは鉱物学の原点ですが、自然界では四周完全で理想的な形の結晶には、なかなかお目にかかれませんから、精巧に作られた模型は教育に欠かせない貴重なものです。
(地学研究部:門馬綱一)

5月4日

琵琶湖北湖で外来種の緑藻が
大量発生!
写真:琵琶湖で見つかったミクラステリアス(Micrasterias hardyi)(細胞の長さ 0.2mm)

今年の1月末に、滋賀県立大学の協力を得て琵琶湖北湖(北部)の採集調査を行いました。今回は湖の雰囲気がいつもと違い、船上から湖水がうっすらと緑色に見えました。違和感を抱き、プランクトンネットを下ろすと今度はネットが緑色に染まります。研究室に持ち帰り、検鏡すると緑藻のミクラステリアスが大量に発生していました。北湖の沖帯で緑色に着色する現象(緑水)は、私が琵琶湖に関わり始めてから初めての経験ですし、過去に報告もされていません。論文を調べると南半球の種類のようです。違う種類かもと思い、遺伝子を調べたところ、南半球のものと一致しました。また、一つ新たな外来種が入ってきたことだけでなく、冬季の琵琶湖でこのような大形緑藻が異常増殖可能な環境になったことに驚きました。
(植物研究部:辻 彰洋)

4月27日

科博と発生生物学
写真:バフンウニの受精。右写真は、左写真の赤枠内を拡大したもの(丸囲みは卵に進入中の精子)。卵の直径は0.1mm程度。

この春の科博を語るキーワードの一つは「発生生物学」です。開催中の企画展「卵からはじまる形づくり」(〜6月11日)や3月発行の『milsil(ミルシル)56号』の特集は、この学問分野の「今」を紹介したものです。特に高校生や大学生、そして生物を教える教師の皆さんには、この分野をより深く知る絶好の機会となるでしょう。発生生物学が私自身の研究生活の原点であり、現在進めている自然史研究に欠かせない分野でもあることから、これらに関わっています。「発生生物学」が、生物の進化を語る上でも重要な分野のため、今後も科博を語るキーワードであり続けるように力を尽くしたいと思っています。
(動物研究部:並河 洋)

4月20日

展示中の珪藻化石が新種として
記載されました!
写真:アクツイの走査型電子顕微鏡写真

地球館地下2階に、縞縞の地層(塩原湖成層)とそこに含まれる珪藻Stephanodiscus sp.が展示されています。塩原湖成層は、今から30万年前ごろ塩原温泉の辺りにあった湖の底にたまった地層で、温泉街を流れる箒川わきの崖などで観察できます。木の葉や昆虫などの化石が見つかることで有名で、珪藻化石については宇都宮大学で教鞭を執られた故阿久津純博士によって1960年代にその概要が報告されていました。昨年、茨城大学と国立科学博物館の共同研究で、もっともたくさん産出する珪藻種が新種であることが分かり、
Stephanodiscus akutsui(アクツイ)として公表されました(参考)。展示中の珪藻に、ようやく名前がつきました。
(地学研究部:齋藤めぐみ)

4月13日

ヒメオニヤブソテツとムニンオニヤブソテツ
写真キャプション:Thunberg(ツンベルク)が長崎で採集したオニヤブソテツのタイプ標本(ウプサラ大学所蔵)。同大学との二国間事業の際、この標本の胞子を検討できたことが、今回の亜種正式記載を後押しした。

オニヤブソテツは、海岸から山地、都市部まで幅広い環境に見られるシダ植物です。松本定名誉研究員の研究の結果、この種の中には生育する環境や倍数性が異なる複数の系統が含まれることが明らかになり、それらは「ヒメオニヤブソテツ」「ムニンオニヤブソテツ」「ナガバヤブソテツ」と呼ばれるようになりました。このうち前2者は学名が正式につけられていない状態でしたが、このたび新亜種としての正式な記載が行われ、20数年の時を経てようやく「一人前」になりました。[Ebihara et al. (2017). 国立科学博物館研究報告B類:植物学 43(1): 19-25] 私たちがよく知っている生物の種でも、訳あって正式な学名を持っていないものが、意外とまだあったりします。
(植物研究部:海老原 淳)

4月6日

高山で越冬する鳥ライチョウ
2月末に、鳥の越冬地調査で長野県の白馬乗鞍岳へ出かけました。高山で繁殖する鳥は何種類かいますが、冬の間も高山で過ごすのはライチョウだけです。標高2,000m前後の亜高山帯のダケカンバ林とオオシラビソ林が接する場所に、数羽の群れがいました。10mほど近づいても気にする様子もなく、ダケカンバの冬芽をついばんだり、雪に半分埋もれて休んだりしていました。高山は地球温暖化に脆弱な生態系とされますが、何とか生き延びてほしいものです。
(動物研究部:西海 功)