日本の植物のタイプ標本

秋山 忍 (あきやま しのぶ)
植物研究部
名誉研究員
分類学の父、リンネは日本の植物に最初に学名をつけた学者でもあります。江戸時代の1753年です。その後もオランダ商館の医師として来日したツュンベリーらにより、日本の植物の分類が進められます。明治時代になり日本での植物研究が始まりますが、欧米の学者が日本から記載した植物の正体は、該当する標本が日本にはなくわからないものもありました。
欧米の植物標本室を訪ね、それらの植物の正体が次第に明らかにされていくのですが、問題も残りました。そのひとつが、シーボルトらが記載した新種でした。彼らの活躍していた当時、新種として発表する学名に今日の国際上の命名規約では必須である、タイプの指定は要求されていなかったのです。どんな生物でも、種には変異性があり、同じ種に属するといってもタイプが決まっていなければ、種の厳密な定義は不可能です。
リンネの学名のタイプを決める研究を皮切りに、古い時代に記 載された学名のタイプを決める国際的な研究が盛んに行われるようになり、私はシーボルトらが命名した植物について、オランダ、ドイツ、日本の学者らと研究を進めています。
シーボルトが名付けたChloranthus japonicusは長らくヒトリシズカだと考えられてきましたが、タイプと認められる標本はフタリシズカでした。上記の学名はヒトリシズカには使用できず、新しい学名がヒトリシズカには必要になりました。
植物標本室での標本調査
ナチュラリス生物多様性センター植物標本室で、タイセ氏と。
Chloranthus japonicusのレクトタイプ標本
(オランダ、ナチュラリス生物多様性センター所蔵)
シーボルトが収集した標本で、Chloranthus japonicusと名付けられています(属名は葉の下になり写真では見えません)。標本を研究した結果、これは同じ属のフタリシズカであることがわかりました。
研究者に 聞いてみました!
1) 専門は何ですか
種子植物の分類学的研究です。特に、ヒマラヤ地域で多様化し多数の種が知られているツリフネソウ属やユキノシタ属を研究テーマにしています。
2)自身の研究内容と社会、一般との接点は
すべての植物に名前がつけられていますが、その名前が示す植物が、人により、場所により異なっていては共通の理解が保てません。同一の植物の世界中での共通した理解のためには学名が必要です。その学名の基礎になっているのがタイプ標本です。
3)研究する上での苦労や悩みなどはありますか
読みたい文献が入手できないこと。分類学は 歴史の長い学問ですので、18世紀あるいはそれ以前の古い文献を見る必要もあります。 最近はインターネットで公開されている文献も増えましたが、見たい巻のみが公開されていないこともあり、なかなか大変です。植物を調べるために世界の標本室を訪ねるための経費を得るのも悩みのひとつです。
4)研究者になるために一番大事だと思うこと は何ですか
研究することが好きなこと。