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DNAと形態から鳥類の集団を研究し分類学につなげる

西海 功

近年はゲノム生物学や生物多様性が注目され、その方面の研究も進んでいますが、DNAの技術を自然史研究の中でどのように利用し、位置づけていくのかはまだまだ模索中といえます。国立科学博物館でも「分子生物多様性研究資料センター」を設置し、形態標本とDNAをセットで保管していくことで、DNAの研究と分類学とを融合させて効率よく研究を進める体制を整えつつあります。私がこれまでおこなってきた自然史研究の中でDNAを利用した集団構造の研究の代表例を以下に紹介すると共に、現在進行中の研究プロジェクトについてご紹介します。
シマセンニュウ上種の集団構造の研究
・これまで種内多型が知られていなかったウチヤマセンニュウに2タイプあることがわかった。
・近縁種のシマセンニュウの2亜種と併せて分子系統を調べると大陸のシマセンニュウから残りの3集団が最近100万年以内に分かれ たことがわかった。
・ウチヤマセンニュウの2タイプの集団はそれぞれ過去の分断と継続的な分布拡大の歴史を経てきたことがわかった。
DNAバーコーディング― DNAによる種の同定
・一つの遺伝子領域の塩基配列を読むことですべての生物種を同定できるようにしようという国際プロジェクトが始まっている。
図4. 動物のDNAバーコード(Barcoding Life, Illustrated, Consortium for the Barcode of Lifeより)
ミトコンドリアDNAのCOI領域648bpの塩基配列について4種類の塩基に色を付けて示すと種ごとに異なるパターンが見られる。このパターンを商品のバーコードのように見立てて「DNAバーコード」と呼ぶ。商店でバーコードを読めば商品が識別できるのと同様に、塩基配列を読めば種を同定できるようにすることが、「DNAバーコーディング」の目的といえる。そのためには世界の動物種の塩基配列を読んで登録しなければならない。
・鳥類では2010年中に全世界約1万種のDNA配列を登録することを目指している。著者は東北アジア地域でバーコーディングを進めているが、この地域の鳥類の特徴として、同種内でもDNAが大きく異なる種がいたり、逆に別種でも最近種分化したためにDNAがほんの少ししか違わない種がいたりすることがわかってきた。

北アメリカの鳥類の研究では、種間の遺伝的差異は大きく2%以上で、亜種間の差異は2%未満であることが報告されているが、東アジアの鳥類では、表1に示すとおり亜種間にも関わらず遺伝的差異が大きい種(青色)もいれば、種間でも差異が小さい種(赤色)もいることがわかった。
・このプロジェクトでは、仮剥製をDNAの証拠標本として残すことで、誤同定を検証しデータの質を高めるとともに、標本に立ち返って形態学的・分類学的研究にも繋げることを目指している。東アジアの鳥類の分類学に大きな刺激を与えると共に、これからの鳥類分類学の土台となっていくことが期待できる。日本では鳥類のバーコーディングは科博と山階鳥類研究所が中心となって進められている。

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西海 功(にしうみ いさお)

西海 功(にしうみ いさお)

脊椎動物研究グループ
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