私の研究 -国立科学博物館の研究者紹介-

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 鳥の生態の「なぜ?」を探る

濱尾 章二
私の研究
鳥の行動や生態を見て、「なぜ、こうなっているのだろう?」と思ったことはありませんか。その答えを求めて調査や実験をしてみると、鳥が環境に適応し進化してきたことを知ることができます。私のウグイスの研究を紹介しましょう。ヘビなどの捕食者、餌となる虫、そして托卵するホトトギスなど他の生物との関係の中で、ウグイスの生態が形づくられてきたことがわかります。
なぜ、ウグイスはさえずり続けるの?
多くの鳥のオスがさえずります。さえずりのはたらきのひとつはメスを引きつけることです。ですから、一般的には、つがいになるとさえずりが急に不活発になります。しかし、ウグイスのオスは早春から真夏まで繁殖期を通じて活発にさえずり続けます。

ウグイス
活発にさえずり続けたため、
のどの皮膚がのびてしまった
夏のウグイス

ウグイスの生態を形づくる他の生物との関係

絵:篠原裕美子

調べてみると、ウグイスのオスは一夫多妻になることがわかりました。一夫六妻のオスもいました。ウグイスではメスが頻繁に離婚・再婚を行なうためにオスが一夫多妻になれるのです。離婚の原因は捕食によって卵やヒナを失うことでした。やぶの中に作られる巣はヘビや哺乳動物に襲われることが多く、巣立ちにいたるのはわずか27%でした。捕食者が原因で再婚を求めるメスが生じ、オスは多くのメスを獲得するために、さえずり続けていたのです。
ウグイスとホトトギスの卵
なぜ、ウグイスはホトトギスの托卵を防げないの?
ホトトギスはウグイスの巣に卵を産み込む托卵鳥です。ウグイスは自分の卵と同じ色で見分けがつかないのか、ホトトギスの卵を暖めてしまいます。托卵に何の対抗手段ももたないように見えます。
しかし、野外実験で托卵への対抗手段をもつことがわかりました。ホトトギスの剥製をウグイスの巣の前に置いてみると、メス親がやって来て激しく鳴いたり、つついたりしました。しかも、このような攻撃が激しい巣では托卵が起こりにくかったのです。ウグイスは托卵に来たホトトギスを追い払うことで、ある程度托卵を避けることができるのです。
ホトトギスを追い払おうとするウグイス
ホトトギスはく製

実験に使ったホトトギスの剥製はボロボロに

ダイトウウグイス(メス)

ダイトウウグイス(メス)
個体を特定して観察できるよう色足環を装着してある。

なぜ、ダイトウウグイスはさえずりが単純なの?
ダイトウウグイスは奄美諸島から琉球列島に生息しているウグイスの一亜種です。絶滅したと考えられていましたが、近年再発見され、2008年私が初めて巣卵を発見し、撮影しました。
ダイトウウグイスは本州のウグイスよりも簡単な節回しでさえずります。なぜでしょう?これは私がいま取り組んでいる疑問の一つです。植生に対応して遠くに届きやすい声になっている、オスの競争が激しくないなどが考えられます。

ダイトウウグイスのさえずり

ダイトウウグイスのさえずりのソナグラム(声紋)

展示ポスターはこちらから
濱尾 章二(はまお しょうじ)

濱尾 章二(はまお しょうじ)

動物研究部