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深海底をおおうクモヒトデのじゅうたん

藤田 敏彦
青森県八戸沖で採集された大量のキタクシノハクモヒトデ
青森県八戸沖で採集された
大量のキタクシノハクモヒトデ
研究のスタート「なんでこんなにたくさんいるの?」

研究船に乗って、ビームトロールと呼ばれる底曳の網をひいてみると、生き物が少ないはずの深海底から、場所によってはバケツで何杯ものクモヒトデが採集されます。
「なんで深海にこんなにたくさんのクモヒトデがいるんだろう?」と
疑問に思い研究を始めました。
キタクシノハクモヒトデ Ophiura sarsii Lutken
キタクシノハクモヒトデ
Ophiura sarsii Lutken
クモヒトデ類とは

ヒトデ類と同じ棘皮動物門に属する一つの分類群で、
体は、中央の盤と呼ばれる円形の部分から
5本の細長い腕が伸びています。
ヒトデ類の一種だと思われることがありますが、
ヒトデ類とは骨格の構造が異なる別の動物群です。
潜水調査船「しんかい2000」から撮影した、キタクシノハクモヒトデの高密度ベッド
潜水調査船「しんかい2000」から撮影した、
キタクシノハクモヒトデの高密度ベッド
高密度ベッド

深海底では、クモヒトデ類が、隙間がないほどの
高い生息密度で海底の表面を広く覆っています。
これを「高密度ベッド」と呼んでいます。
クモヒトデの高密度ベッドはどのように作られているのか?-これまでの研究の成果
研究船での調査を重ねることにより、キタクシノハクモヒトデの高密度ベッドは、
水深約200~500mの範囲で、北日本周辺を帯のようにぐるっととりまいていることが分かりました。
深海底の映像から探る 深海底の映像から探る

どのくらいの密度で生息しているのか?最も正確に密度を測定できるのはカメラによる映像です。それによって1㎡あたり100個体以上の密度であることが判明しました。また、映像観察によって、キタクシノハクモヒトデが意外な物を食べていることがわかりました。ハダカイワシやオキアミなどの中層性の動物を食べているのです(写真左)。
高密度のクモヒトデの餌はそれによってまかなわれていたのです。
標本から探る 標本から探る

何千個体もの体長を測定することにより、体長組成がわかると、成長や寿命を推定することができます。キタクシノハクモヒトデは10年以上生き、その個体群は大人が優占しているため、海底面を自分たちのニッチとして安定しておおうことができます。また、腕に残る再生の痕に注目すると(写真右)、捕食者からの攻撃の頻度を推定でき、このクモヒトデはあまり他の動物からは狙われていないことがわかりました。
化石から探る 化石から探る

キタクシノハクモヒトデは化石でも出現します(写真左)。最も古いとされている化石は、北海道の稚内層という約一千万年前の地層から出現しています。化石でもやはり現生と同様に高密度であったと推定されています。化石記録をたどると、本種の高密度ベッドの分布は徐々に北から南へと広がってきたことがわかりました。
これまで、キタクシノハクモヒトデの高密度ベッドが、どのようにできてどのように維持されているのかについて、色々な角度から研究してきましたが、まだまだわからないことだらけです。今後は、分子解析などの新しい技術をつかった個体群の遺伝的構造の分析や、全く未知の幼生の分散についてなど、さらに研究を続けていきます。
展示ポスターはこちらから
藤田 敏彦(ふじた としひこ)

藤田 敏彦(ふじた としひこ)

海生無脊椎動物研究グループ

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