>> 理工学研究部「私の研究」一覧へ戻る

博物館での化学研究

若林 文高

触媒の作用機構を探る
(1) 触媒とは?

化学反応で反応分子どおしを混合しただけではなかなか進行しないときに少量加えるだけで反応をスムーズに進行させ、しかもそれ自身はほとんど変化せず、くり返して使用できる物質。反応後の分離の容易さから固体触媒が注目される。

(2) どのような研究が行われているか?

(a) 実用に近い条件下での研究
実用触媒として重要なゼオライト触媒は、硫酸と同じような強酸性をもつ固体酸として作用する。その酸性質を、プローブ分子を吸着させて透過赤外分光法により調べている。窒素や希ガスなど塩基性が非常に弱い気体分子が新しいプローブ分子として利用できることを提唱するとともに、論争があった酸性ゼオライトへの水分子の吸着構造で、1分子吸着ではプロトン化型でなく、水素結合型で吸着することを実験的に示した。これらの研究は国際学術誌に多数引用されている。
酸型ゼオライトへの水吸着

(b) 超高真空条件下での研究
触媒の反応機構を理想的な状態で調べるためには、宇宙空間と同じような真空状態(超高真空)にして非常にきれいな表面を作りだし、表面での気体分子の吸着や反応を原子・分子レベルで調べる必要がある。原子レベルで清浄にした表面すれすれに赤外線をあて、反射してきた赤外線を分析して表面に存在する吸着種の状態を調べる装置で研究を行っている。 左:好感度赤外反射測定装置、右この装置で表面に吸着したギ酸イオンの挙動を測定した例

化学史資料の収集・保管・調査
(1) 科博における化学史資料

ノーベル化学賞を受賞した日本人が5名いることからもわかるように、日本の化学研究は世界的レベルにある。その歴史をみると、幕末に開国してからわずか2、30年で欧米にひけを取らない研究が行われていることがわかる。そうした日本の化学の発展の歴史を示す資料の収集と保管に努めている。

(2) 科博所蔵の化学史資料の例

(a) 櫻井錠二資料
日本の近代的化学研究の基盤を築いた櫻井錠二博士の資料を収集保管している。最近、ご家族から辞令、写真、原稿類が多数寄贈された。アインシュタイン来日時の写真、伊藤博文ら長州藩士5名の英国留学時の写真なども含まれる。 櫻井錠二資料

(b) 池田菊苗資料
「うま味」の発見で知られる池田菊苗博士の資料では、最近、委員として参加している日本化学会の「化学遺産委員会」活動で東大理学部化学教室に残されていたことが確認され、薬品類が当館に、文献類が化学会に収蔵された。 池田菊苗資料

(c) 鈴木梅太郎資料
ビタミンを実質的に世界で初めて発見した鈴木梅太郎博士の資料が、理化学研究所が駒込から現在の和光市に移転する際に寄贈された。博士の研究室で米糠や酵母などから抽出・分離された標本資料や、蔵書・論文類など2千点を超える資料がある。現在、薬品資料の整理・調査を進めている。 鈴木梅太郎資料

>> 理工学研究部「私の研究」一覧へ戻る

若林 文高 (わかばやし ふみたか)

若林 文高 (わかばやし ふみたか)

理化学グループ
展示ポスターはこちらから
このサイトの著作権は国立科学博物館が有します。記載内容を許可なく複製、使用することを禁じます。Copyright(c) 2009 National Museum of Nature Science, Tokyo. All Rights Reserved.