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熱帯西太平洋の新生代貝類の古生物研究【第2弾】
ビカリアの多様性を探る

加瀬 友喜

フィリピン、インドネシアとマレーシアに囲まれた熱帯西太平洋の海域には大小さまざまな島があり、それらの周囲には美しいサンゴ礁が発達しています。この海域には、世界で最も多様な生物が生息しています。私の研究室では、フィリピンやインドネシアの新生代の貝類化石から、この海域の多様性の起源を明らかにする研究を進めています。今回は最近得られた成果の1つを紹介します。
ビカリアとは
N.Vicaryがパキスタンで採集した標本
N.Vicaryがパキスタンで採集した標本(大英博物館所蔵)
ビカリア(Vicarya)は、東アジア各地から産出する新生代の巻貝のなかま。日本列島では、およそ1500万年前の地層から産出します。この時代は地球規模の温暖期で、日本列島には熱帯の海が広がり、各地にマングローブ林が茂った内湾がありました。ビカリアは当時のマングローブの干潟に生息していたと考えられています。ビカリアの名前は、イギリスの軍人Nathaniel Vicaryに由来します。

東アジア産のビカリア
東アジア産のビカリア
ビカリアの殻の紋様を復元する
貝類の殻にはさまざまな色紋様がありますが、化石になると紋様はほとんど失われてしまいます。ビカリアの殻には、まれに色紋様の痕跡が保存された標本があります。また、紋様が見えない標本は、紫外線ランプを照射して撮影し、コンピュータで画像処理することで紋様を復元することができます。

色紋様の痕跡が保存されたビカリア標本
色紋様の痕跡が保存されたビカリア標本
紫外線写真撮影による色紋様の復元例
紫外線写真撮影による色紋様の復元例
紫外線写真撮影装置
紫外線写真撮影装置
ビカリアの採集・調査
フィリピン・ルソン島北部のビカリアの産地
フィリピン・ルソン島北部のビカリアの産地
東南アジアの熱帯島嶼の新生代貝類の調査の一環で、フィリピンとインドネシアでビカリアの調査を進め、多くの産地から試料を集めました。フィリピン東部のBatan島の海岸には、路頭から落ちてきたビカリアがあり、ヤドカリに背負われているものもありました。
路頭から掘り出したビカリア
路頭から掘り出したビカリア
フィリピン・Batan島北 San Ramon海岸の珪化したビカリア産地
フィリピン・Batan島北 San Ramon海岸の珪化したビカリア産地
フィリピン・Batan島のヤドカリに背負われたビカリア
フィリピン・Batan島のヤドカリに背負われたビカリア
"ビカリアの海"を復元する
日本館3階北翼の「日本列島の生い立ち」の展示室には、今からおよそ1500万年前のマングローブ干潟を復元したジオラマがあります。このジオラマの中にあるビカリアの模型の殻は、これまでの研究成果を取り入れ、黒褐色のバンドで彩色してあります。日本館3階でこのジオラマをぜひともご覧になってください。

日本館3階の“ビカリアの海”のジオラマ
日本館3階の"ビカリアの海"のジオラマ

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加瀬 友喜(かせ ともき)

加瀬 友喜(かせ ともき)

環境変動研究グループ
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