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 ジャワ原人調査が教えてくれたこと

馬場 悠男
 私たちは、20年以上にわたって、インドネシアの研究者や地元の人々との良好な人間関係を築く努力をしながら、ジャワ原人化石の調査研究を続けてきました。そして貴重なジャワ原人の頭骨化石が、同じ所から続けて2個も見つかるという信じられない幸運に遭遇しました。ジャワ原人調査が教えてくれたのは、いくら努力をしても幸運がやってくるとはかぎらないしかし地道な努力をしなければ幸運はやってこない、ということでした。

 私たち新人の起源に関しては、世界各地の原人が新人へ進化したという「多地域進化説」と、アフリカで誕生した新人が世界中に拡散して原人の子孫に取って代わったという「新人アフリカ起源説」があります。多地域進化説の根拠の一つは、ジャワ原人とオーストラリア先住民(新人)の頭骨がよく似ていることでした。

 確かに、ジャワ原人とオーストラリア先住民を比べると、似ているようにも見えます。しかし、オーストラリア先住民の直前の時代の後期ジャワ原人には、たとえば眼の上の眼窩上隆起がまっすぐで外側ほど厚みがあるなど、ほかの原人にも新人にも見られない特徴がたくさんあり、進化上の位置づけができませんでした。

 ところが、2001年に中期ジャワ原人の保存良好な頭骨化石が発見され、研究してみると、前期と後期のジャワ原人の中間の特徴をたくさん持つことがわかりました。つまり、ジャワ原人は数十万年以上ものあいだ、ほかの地域から隔離された状態で独自の特徴を持つように進化したことが明らかになりました。したがって、このように特殊化した後期原人が、たかだか10万年間で、新人であるオーストラリア先住民に進化することはあり得ないと考えられます。

 この結果は、多地域進化説の最大の根拠を打ち崩し、新人アフリカ起源説を支持することになりました。現在の世界中の人類集団は、数万年前はみんな同じアフリカ人だったのです。見かけが違っているのは、様々な環境への適応によるものです。お互いに、偏見や差別をなくして、仲良くしたいものですね。

 ジャワ原人化石は、発見された国の機関に所蔵されていますが、一時的に借用し、マイクロCT撮影したデータを国立科学博物館で保管しています。それを研究することとによって実物標本を所蔵するのと同様の価値を生み出しています。いわばVR化石標本です。CTデータは、外から見えない微細構造を調べたり、立体構造を復元したりするのに有効です。
舞台裏: 私はそろそろ定年なので息切れし、最近では、海部陽介研究主幹が調査研究をリードしています。また、河野礼子研究員もCTやCGの分析面で協力しています。年代推定は、地学研究部の横山一己グループ長および佐野貴司研究員と共同作業をしています。東京大学総合研究博物館の諏訪元教授や大学院生にも協力いただいています。調査研究は、なによりも相互理解によるチームワークが大事です。

展示ポスターはこちらから
馬場 悠男(ばばひさお)

馬場 悠男(ばばひさお)

人類研究部部長

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