動物研究部

貝類 (河村コレクションと櫻井コレクション)
河村コレクション

 河村良介氏(1898-1993)は財界で多大な功績をあげられるかたわら、1930年頃から北洋、銚子沖、相模湾、高知沖、奄美大島、台湾、フィリピンを中心として貝類の収集を続けられ、1万種以上10万点を超える超A級コレクションを作り上げられました。 この膨大なコレクションは氏の生前、1983年に国立科学博物館に寄贈され、これを機に特別展が開催されました。

 種数、点数ともに個人のものとしては国内随一の規模を誇る本コレクションは、その網羅性においても特色をもちます。 多くのコレクションでは特定の美麗なグループに力が集中する傾向があるのに対して、河村コレクションでは海産、陸産を問わずほとんどの科グループに、広範な地域からの収集品があり、多数の微小種まで含んでいます。 また、同一の種でも多数の産地からの標本が備えられています。 収集された標本は、河村氏自身のみならず、元動物研究部長波部忠重博士(現在名誉館員)ら専門の研究者によって詳細に研究され、氏に献名されたものだけでも40種を数える新種が記載されています。 それら新種記載の基になったタイプ標本の大部分もすでに当館に収蔵されています。

 貝類は古来幅広い層の人々から収集の対象として親しまれ、さまざまに特色のあるコレクションがつくられてきました。しかし、せっかく苦労して作り上げられた学術的にも価値の高いコレクションも一代限りで散逸してしまう場合が多いのです。 博物館はそのようなコレクションをまとまった形で永久的に保存し、多くの人々の研究に役立てる役割を果たしています。当館の貝類標本の中にも、一般の収集家の方々からコレクションとして寄贈されたものが含まれています。中でも代表的なものとして河村コレクションと櫻井コレクションがあります。

カワムラハデミナシガイ
カワムラハデミナシガイ
櫻井コレクション

 櫻井欽一博士(1910-1993)は、東京神田で老舗の鳥料理店を経営されるかたわら、鉱物学者としても世界的に著名な業績をあげられ、東京大学から理学博士号を授与されたことで知られています。また、博士は貝類学の分野においても数多く新種の記載を含む論文と、6千種を超える膨大な貝類コレクションを残されています。鉱物標本とともに「櫻井標本室」に手厚く保管されていた貝類標本は、博士のご遺志により1994年に国立科学博物館に寄贈されました。

 櫻井コレクションの特徴は、まず対象地域が日本周辺から台湾までに限定され、その地域内から知られているありとあらゆる種が万遍なく集められていることです。地理的な変異とみられるような型であっても、区別されているものは丹念に集められているし、同じ種でも可能な限り複数の産地から集められています。かつては普通にみられた種が、生息地の環境破壊により、今や貴重な資料となっているものも少なくありません。このコレクションの学術的価値を高めているのは、含まれているタイプ標本の多さです。櫻井博士自身、あるいは波部博士らの研究者によって記載された新(亜)種は62種に及び、それらの模式標本は、現在も海外を含め多くの貝類研究者に頻繁に活用されています。

サクライタカラガイ
サクライタカラガイ