「地球を食べる」動物たち

 「地球を食べる」生物群集は,通常の深海底に棲むものとは異なる独自の種類の生物で構成されている.中にはハオリムシ(チューブワーム)のように,この群集の中からしか知られていないグループもある.そのほとんどは,深海潜水調査船が直接訪れて採集することが可能になったごく最近発見されたもので,まだ学名の付けられていないものも多い.群集の中にもバクテリアを共生させたり,あるいは集めて食べたりするものや,それを襲って食べるものなど,小規模ながらも食う食われるの関係がある.

イソギンチャク類の一種 Marianactis bythios  マリアナ背弧海盆

 熱水噴出孔から少し離れた周辺の溶岩や活動を停止したチムニー(煙突のように突き出した熱水の出口)に付着していて,まわりに漂うバクテリアや有機物を食べている.栄養がよいためか大型の個体が高い密度で生息している.(提供:海洋科学技術センター)


サツマハオリムシ Lamellibrachia satsuma  鹿児島湾

 ハオリムシは「地球を食べる」生物群集を代表する動物である.口や消化器官を持たず,代わりに体の中に化学合成バクテリアをぎっしりとため込んでいる.すなわち,この動物は食べることをやめて,体の中に共生するバクテリアのつくりだす栄養で生きている.(提供:海洋科学技術センター)


アルビンガイ Alviniconcha hessleri  マリアナ背弧海盆

   アルビンガイとそれに近い種類は,太平洋西側のマリアナからフィージー沖にかけて飛び飛びに連なる深海熱水域におびただしく群生する.毛の生えた丸い巻き貝で,内臓の大部分を占めている鰓に化学合成バクテリアを共生させている.殻は石灰質に乏しく,乾燥させるとばらばらに割れてしまう.(提供:海洋科学技術センター)


マリアナシンカイコシオリエビ Munidopsis marianica  マリアナ背弧海盆

   体は真っ白で,頭が大きくとげとげしいのが特徴.エビと名前がつくが,エビとカニの中間,ヤドカリに近い仲間である.「地球を食べる」生物群集の中心部に広く分布している.深海調査船で近づくと,尾で一掻き,水中に跳ね上がり,落下傘のようにふわふわと再び海底に降りてくる.食性や繁殖など生態については不明である.(提供:海洋科学技術センター)


コエビ類の一種 Chorocaris vandoverae  マリアナ背弧海盆

   全長3cm程度の小型のエビで,熱水噴出孔のすぐそばにせわしなく泳ぎながら群れをなす.食性など詳しいことは知られていないが,海水中のバクテリアや有機物を集めて食べていると思われる.(提供:海洋科学技術センター)


ユノハナガニ(節足動物,甲殻綱) 小笠原,海形海山

   熱水噴出域周辺に生息し,体は白色で丸みを帯び,目が退化している変わったカニである.その名は温泉に舞う「湯の華」に由来する.肉食で,魚や貝類を餌にトラップをかけるとわれさきにと集まってくる.船上に引き揚げても活発に動き回り,飼育も容易である.(提供:海洋科学技術センター)


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