ハネカクシ談話会ニュース No. 7
The Newsletter of the Staphylinidological Society of Japan, No. 7

1999年2月13日発行

The Newsletter of the Staphylinidological Society of Japan
ハネカクシ談話会ニュース No. 7     

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ヤ98年度採集会の報告
(1998年10月24(土)〜25日(日)千葉県君津市、木更津市周辺)
 土曜日は時折本降りの雨となるあいにくの天気で、集まりがどうなるか心配されましたが、遠く金沢から中田氏、静岡県函南町から田添氏が参加して下さり、無事に落ち合うことができました。日中は全く採集にはなりませんでしたが、夕刻、宿へ集合してからは食事を前に話が弾みました。野村は最近研究しているアラメヒゲナガアリヅカムシ属や、ベトナムの珍奇なハネカクシ類はじめ諸々の小甲虫の話題を提供しました。
 翌日曜日は昨日とは打って変わって朝から好天となり、まず、直海さんおすすめの高宕山へ行って採集を始めました。林道に沿って落ち葉をふるって行く内にアリヅカムシの密度が異様に高い一角があることが判り、皆でヒゲブトムネトゲ、アナバラ、オオトゲなどのアリヅカムシを多数採集しました。午後からは木更津市の小櫃川河口へ行きました。ここは東京湾岸では唯一残された自然河口で、絶滅危惧種のキイロホソゴミムシが生息することで有名です。ここの状況に詳しい豊田さんの案内で、ゴミムシを探したり、ススキ原のハネカクシ・アリヅカムシ類を採集したりしました。夕刻、最後に記念写真を撮って解散となりました。今回ご参加いただいた皆様には大変ご苦労さまでした。来年は埼玉方面でできるかどうか、小田さん、豊田さんらにお願いしております。次回またたくさんのご参加をお待ちしております。
参加者(順不同):田添京二、上田康之、中田勝之、豊田浩二、新井志保、小田博、 渡辺崇、直海俊一郎、野村周平.(野村 記)

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事務局連絡:会員異動(新入会)
木村正明:〒900-0012  沖縄県那覇市泊 1-35-5
Kee-Jeong Ahn: Department of Biology, College of Natural Sciences, Chungnam National University, Daejeon 305-764 KOREA

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Hervert FRANTZ博士とコケムシの研究動向

 ウィーン甲虫学会(Wiener Coleopterologenverein)が発刊しているKoleopterologische Rundshauはドイツ、オーストリア並びに東欧諸国の中では老舗の甲虫学雑誌であるが、その68号(1998)はコケムシの世界的権威、Hervert FRANTZ博士の90歳を記念する特別号として配布された。この号の表紙は博士の肖像写真によって飾られている。
 冒頭には博士の経歴と439編におよぶ業績目録(Manfred A. JCH博士編集)が掲げられ、いくつかの論文がそれに続いた後、S. T. OヤKEEFE氏がコケムシの世界的な研究動向と、コケムシ学におけるFRANTZ博士の貢献のレビューを寄稿している。このレビューによると博士は1952年からヤ97年までの間に144編の、延べにして何と4,400ページ以上に及ぶコケムシに関する論文を発表された。コケムシ科は現在約4,500種が知られているが、そのうち約3,000種は彼の手によって記載されたものである。彼のコケムシに関する業績は全世界におよんでおり、地域ごとのコケムシ研究動向がOユKEEFEによって整理されているが、東アジアのコケムシ研究動向の部分を訳してみると次の通りである。
 “東アジアのコケムシ相に関する彼の業績は2,3の比較的短い論文からなる。その中では約12種ほどの新種が、韓国(FRANTZ, 1995a)、日本(FRANTZ, 1976)、中国(FRANTZ, 1968, 1988)、及び台湾(FRANTZ, 1985)から記載されている。”
 このように東アジアにおけるコケムシ研究は、FRANTZ博士の偉大な業績をもってしてもわずかばかりが解明されたに過ぎない。論文数の上でも、種数の上でも極めて低い比率にとどまっていることが、OユKEEFE論文で円グラフによって示されている。
 さらにA. F. NEWTON & H. FRANTZによって「世界のコケムシの属カタログ」(文献)が著された。これによって全世界のコケムシの学名が一気に整理され、本科は2亜科11族81属の少なくとも4,672種の現生種から構成され、それに加えて15属(10絶滅属を含む)に分類される22絶滅種(白亜紀から第三紀中期の琥珀から発見された)が知られることになる。日本に産する属の記述を引用すると、次のようになる。
Family SCYDMAENIDAE コケムシ科/Subfamily SCYDMAENINAE
  Tribe Eutheiini
Eutheia Stephens, 1830(Euthia Agassiz, 1847はシノニム): 33種,全北区、東洋区.
Euthiconus Reitter, 1881: 5種,西ヨーロッパ,ロシア,日本,新北区東部.
Veraphis Casey, 1897: 12種,新北区,スウェーデン,ロシア東部,モンゴル,日本.
  Tribe Chephenniini
Cephennium M殕ler et Kunze, 1822: 124種,旧北区西部,新北区.
Cephennodes Reitter, 1884: 11種,ロシア東部,日本,東洋区,タンザニア,ハワイ.
  Tribe Cyrtoscydmini
Euconnus Thomson, 1859: 2,457種,全世界.
  Tribe Scydmaenini
Scydmaenus Latreille, 1802: 730種,全世界.
 この記念号は博士の業績ばかりでなく、Croissindeauのモノグラフ以降のコケムシ研究を総括する上で最も重要な文献であることは論を待たない。日本ではまだコケムシ専門の研究者は登場していないが、アジアのコケムシ相は極めてわずかしか解明されておらず、甲虫分類学の分野としては最後に残された黄金郷であるかもしれない。しかしながら、Euconnusの2,457種という数は、片手間にコケムシをやってみたいという我々の助平心を萎縮させてしまうに十分だろう。この黄金郷、もしくは泥沼かもしれない世界を探検してみる勇気を持った若きファイターの出現を私は心待ちにしている。

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ハネカクシ群(Staphyliniformia)のホームページ公開!

 昨年のニュース4号でハネカクシ研究に役立つ(かもしれない)インターネット情報を掲載しましたが、昨秋、何とStaphyliniformiaを対象としたホームページ(というかWEB site)がベルギーのD. Drugmand博士によって作成、公開の運びとなりました。これにはハネカクシの研究を進める上で有益な情報が満載されています。以下にそのURLと内容の一部を紹介しますので、インターネット環境を取得している人は是非、アクセスしてみて下さい。URLは以下の通り。
http://www.umh.acbe/zoologie/staphyliniformia/staphyliniformia.htm
1)冒頭ページ(メニュー)
 中央にハネカクシの画。左側にメニューが配置され、それぞれの項目(以下に示す)をクリックするとそのコーナーへ行ける。
2)Announcement:学会の開催などのアナウンスが寄せられている。我々にはあまり関係がない。
3)List of specialist:世界中のハネカクシ研究者の住所、電話、FAX番号、E-mail Address、研究分野、業績目録が掲載されている。まめに書き込んでいる人もいるが、書き込んでいない人の情報は1991年の“Year-book of the world specialists in Coleoptera Staphylinoidea”に掲載されたそのまんまだと思う。若い人は積極的に情報を送るべし。
4)Interesting sites:ハネカクシ研究に役立つWEBサイトが紹介されている。Cartography, Ecology, IUCN, Journals, Methods, Museums, Phylogeny, Softwares, Sytematicsの各コーナーがある。ソフトウェアの情報が多い。
5)Job oppotunities:ハネカクシ研究者を雇用可能な機関の求人情報。1999年1月現在12件。
6)Job request:研究職を希望する学生などが、自らの学位、学歴、業績などをアピールする場。ベルギーの情報が1件あった。日本とのシステムの違いがにじみ出ている。
7)Main:本サイトの紹介。
8)Information on Staphyliniformia:ハネカクシ研究に必要なWEB上の情報へ直行できるスグレモノ。Catalogs, Databases, Ecology, Imagesの各コーナーがあるが、Catalogというのは出版物ではなく、あくまでWEB上で公開されているカタログのサイトである。「カナダおよびアラスカのハネカクシチェックリスト」や「ニュージーランド節足動物コレクション」(ニュージーランド産全節足動物の属名が検索できる)へ直行できる。DatabasesのコーナーではBishop Museumの節足動物データベースへ行ける。Imagesは4号で紹介したヒゲブトハネカクシの画像データベースにリンクしている。
9)Types:Fagelのタイプ標本のデータベース。一部工事中だが、各亜科ごとに種名、タイプの種類と数、ラベル記載事項(産地など)が列記してある。北海道産のEudectus japonicus Zercheのホロタイプなんかがあったりした。
10)Forum:工事中。 11)Thanks:謝辞。
※以上に関する問い合わせ先はD. Drugmand: drugmand@d5100.kbinirsnb.be

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アリヅカムシ近況報告ヤ98

1.マルムネアリヅカムシ属の分類
 マルムネアリヅカムシ属Triomicrusは、日本を含む東アジアに広く分布するオノヒゲアリヅカムシ上族の1群で、従来、8種が知られていました。L喘l, Kurbatov & Nomura(1998a)は、この属の分類学的再検討を行い、日本から書かれたT. galloisi Jeannel, 1958、セイシェル諸島から書かれたT. seichellensis Raffray, 1913を疑問種とし、12新種を追加して18種としました。日本から書かれた新種は以下の通りです。hamifer コザマルムネ(沖縄本島南部)、melini オキナワマルムネ(沖縄与那城)、sternalis トガリマルムネ(本州、四国、九州)。特に最後の種は広く分布するので要注意です。野村の手元にはさらに4〜5種の新種があり、まだまだという感じです。
 本属はまた、族の所属がはっきりせず、JeannelはTanypleurini(現在はInyochiphini、Natypleurina亜族)に分類しましたが、田野口(1985)、Ohishi(1986)、及び本論文ではBrachyglutiniとの類似が指摘されています。これもまだ未解決の問題です。

2.日本のオノヒゲアリヅカムシ
 L喘l, Kurbatov & Nomura(1998b)は日本のBryaxis オノヒゲアリヅカムシ属をまとめました。従来Jeannelが3亜属12種に分類していたものを、亜属の分類を撤廃し、21新種を加えて34種としました。野村が1995年に記載し、わずかの間でしたが皆様に親しんでいただいたB. kintaro kintaroとB. k. odaiensisはウスリーオノヒゲアリヅカB. koltzei (Reitter)のシノニムとして消えてしまいました。新種記載されたのは以下の通りです。なお、和名語尾の「〜オノヒゲアリヅカムシ」は略。heian ヘイアン(日光);kofun コフン(清澄山);jomon ジョウモン(碓氷峠);kamakura カマクラ(嬬恋);platalea ヘラ(石鎚山);sawadai サワダ(奈良公園);peckorum ペック(面河渓);samurai サムライ(嬬恋);katana カタナ(石鎚山);hoko ホコ(志賀高原);naginata ナギナタ(岐阜県下呂);tanto タントウ(奥鬼怒);karate カラテ(京都);yari ヤリ(京都);taradakensis タラダケ(長崎多良岳);hisamatsui ヒサマツ(石鎚山);mayumi マユミ(碓氷峠);bushido ブシドウ(石鎚山);sumo スモウ(志賀高原);tetralobus カク(岩手川井村);iriomotensis イリオモテ(西表島)。

3.シチリアのアリヅカムシ
 イタリアのGiorgio Sabella博士が今年になって、大冊のアリヅカ本「Pselafidi di Sicilia(シチリアのアリヅカムシ)」を送ってこられました。内容は30属82種のシチリア産アリヅカムシの検索と分布図を掲載しています。日本のファウナ研究にはあまり役に立ちませんが、念のため注文先を書いておきます。
Museo Regionale di Scienze Naturali: Via Giolitti, 36-10123 Torino, ITALY; Fax (011) 4323331(売価140,000リラ+送料)

4.アシベアリヅカムシ
 Nomura, 1998(Elytra, 26: 129-130)はL喘l博士が北朝鮮から書いたBarbiera palpalisを日本各地から記録し、アシベアリヅカという和名を付けました。本種は河口のヨシ原に高い密度で生息し、灯火にも良く飛来します。 L喘l博士からの情報では本種は台湾から記載されたProsthecarthron sauteri Raffrayのシノニムになるらしいとのこと。

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微小甲虫採集・標本作製“べからず”集

 アリヅカムシなどの微小甲虫を採集、研究する人は年々増えており、野村のところへは多数の人から同定依頼や標本の寄贈が寄せられます。何の見返りも必要とせずに寄贈いただける方にはただただ有り難いのですが、同定を依頼される方の場合、一寸この標本の作り方では困りますよ、と思われるのが少なくありません。そこで、微小甲虫の初心者の方を対象に、標本の採集法、作成法を書こうと思い立ちましたが、紙面が限られている上、全てにわたって書きつづって行く時間がありません。そこで、同定依頼の標本では、「これだけはやって欲しくない」という要点だけを「べからず集」という形で以下に述べておきたく思います。寄贈いただく標本の場合もこれに準じていただけますと誠に幸いです。
其ノ壱「ツバでひっつけるべからず」:アリヅカムシなど採集時に、吸虫管がないからと、指先にツバを付けて虫をくっつけ、それを毒瓶の中に放り込む人が少なからず見られます。微小甲虫でも体表は微毛に覆われていますから、ツバがこびりつくと微毛が寝てしまって同定や整形ができなくなってしまいます。これは絶対にやめて下さい!
其ノ弐「脱脂綿は使うべからず」:甲虫屋さんはタトウによく脱脂綿を使いますが、これは微小甲虫の標本にとっては非常に厄介なものです。綿の繊維が虫体にからみついて触角や脚を折ってしまうことがよくあります。微小甲虫は大型甲虫と違って修復ができませんので、脱脂綿はなるべく使わないようにお願いしたいものです。厚めのコットンペーパーなどを代わりに用いるとよいようです。ハネカクシの場合も同様です。
其ノ参「一枚の台紙に複数の個体を貼るべからず」:ラベルの節約のためか、同一種と思われる複数個体を一枚の台紙に貼ってしまう人がよくあります。そのようなときに限って複数の種が含まれていることがあり、マウントし直さなければならなくなることがあって、大変無駄な労力を要します。1枚の台紙には1個体を貼りましょう。
其ノ四「三角台紙と虫はラベルの範囲をはみ出すべからず」:台紙標本を真上から見た場合に標本がラベルの範囲をはみ出していると、標本の差し替えの際に他の標本とぶつかって大変壊れやすくなります。台紙と標本はラベルの範囲を越えないように作りましょう。但し、5mm以上の中〜大形ハネカクシの場合はこの限りではありません
其ノ五「タトウ標本を同定依頼に出すべからず」:マウントしていないタトウ標本を大量に送ってきて、同定依頼をするのは、マウントの手間を相手にかけることになり、大変迷惑です。普通常識としてマウントした標本を送るようにしましょう。但し研究者によってはタトウのままでもよいとか、液浸のままがよいという場合もありますので送る前に一度問い合わせるのが礼儀でしょう。
其ノ六「同定結果を放置するべからず」:同定結果をもらったら、必ず同好会誌や学会誌に発表するのが同定してくれた相手に対する礼儀です。むしろ、同定を依頼する前に、その同定結果を使ってどのような報告文を書くのかを十分詰めてから同定依頼に出すのが望ましいでしょう。
 以上、同定を依頼する側にとっては厳しいことを書いたかもしれませんが、これは面識のない相手に対する礼儀を書いたもので、仲のよい相手であるならば、上に書いた限りではないでしょう。

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ハネカクシ関係論文・報文情報

 昨年度国内で発表されたハネカクシ関係の論文を紹介します。昨年ご紹介できなかった一昨年の分も一部含まれています。実は野村が「月刊むし」誌から1998年甲虫界のレビュー原稿を頼まれておりまして、主要学会誌に載ったものはそちらの方を参照下さい。誠に勝手ながらこちらのほうでは分布生態観察記録中心にお届けしたいと存じます。前回別刷またはタイトルをお送りいただけるようお願いいたしましたが、集まりが悪かったので、今回は当方で気がついた分についても登載することに致しました。しかしながらお知らせいただけないと落ちてしまう可能性がありますから、今後もできる限り編集局宛、別刷またはコピーを各一部お送り下さるか、タイトルをお知らせ下さいますようお願い申し上げます。なお、前回お知らせいたしましたとおり、本会では著者からのご希望がない限り、別刷配布の斡旋はいたしませんので、悪しからずご了承下さいますようお願い致します。
 今回別刷をお送りいただいた、林靖彦さん、保科英人さん、吉田進さん、木村正明さんに厚く御礼申し上げます。ご協力誠に有り難うございました。
<分布生態:ハネカクシ(アリヅカムシを除く)関係>
吉田進(1998)町田市でカクツヤケシアバタハネカクシを採集.神奈川虫報, (122):49.
木村正明(1998)琉球列島におけるハネカクシの記録(1).琉球の昆虫,(16): 13-16. (トカラ中之島、奄美大島、沖縄本島、伊平屋島、久米島から42種。同定に苦心の跡が見られ力作。)
豊田浩二(1998b)クサアリモドキの巣より得られたハネカクシ2種.甲虫ニュース,(121):14.
豊田浩二(1998c)ヨシダヒョウタンメダカハネカクシの生息環境.同上,(122): 9.
秋田勝己(1998)こうひ・ぶれいく(話のたね)-2 “人を食った”ハネカクシ.ねじればね,(79): 10. (ナカアカヒゲブトハネカクシの奇妙な生態)
<分布生態:アリヅカムシ関係>
降旗剛寛・野村周平(1998)松本市及びその周辺で採集された土壌性甲虫.ニュー・エントモロジスト,47(1/2): 27-32.(アリヅカムシ34種、コケムシ4種、ムクゲキノコ1種、再録多)
久保浩一・渡 弘(1998a)Batriscenellus japonicus Sharp(アリヅカムシ)の採集例.神奈川虫報,(123): 38-39.
久保浩一・渡 弘(1998b)神奈川県初記録の甲虫3種.同上,(123): 39.(ヤマトアリヅカ)
<分布生態:チビシデムシ他>
Nishikawa, M. (1998) Catops angustipes apicalis found in an ant nest. Elytra, Tokyo, 26(1): 128.
豊田浩二(1998d)カントウコチビシデムシの冬季採集例.同上,(122): 3.
<地方ファウナ関係>
平野幸彦(1998)神奈川県産甲虫類目録.神奈川虫報特別号,(2): 35-124.(後に解説)
吉越肇・小田博ら(1998)埼玉県の鞘翅目(甲虫類).埼玉県昆虫誌,3: 93-340.(後に解説)
高羽正治ら(1998)COLEOPTERA コウチュウ目.石川県の昆虫,pp. 102-251.(後に解説)
豊田浩二(1998a)埼玉県における甲虫類の記録1994〜ヤ96.寄せ蛾記,(86): 2440-2459.(タマキノコ3種、チビシデ1種、シデ(クロツヤシデ)1種、ハネカクシ4種)
小池寛・島田久隆(1998)岩船郡朝日村の甲虫類.越佐昆虫同好会報,(77): 35-69.(採集記録はクロシデ、デオキノコ4種のみで後は文献)
小池寛・桜井精(1998)津南町の甲虫.同上,(78): 35-74.(タマキノコ1種、シデ7種、デオキノコ2種、ハネカクシ5種)
淀江賢一郎ほか(1998)島根県斐伊川水系の昆虫類(1997年の調査結果).ホシザキグリーン財団研究報告,島根県木次市, (2): 7-86. (ヒゲブトチビシデ1種,シデ5種,ハネカクシ23件,アリヅカ1件)
島野智之・斉藤修司・久保田憲二(1998)1998年福島虫の会調査会報告(相馬郡鹿島町など).ふくしまの虫, (17):1-11.(シデムシ1種、デオキノコ1種、ハネカクシ3種、アリヅカ1種)
<その他>
吉田進(1995)土の中の小甲虫(アリヅカムシ).自然と遊ぼう かしの木山フェスタ昆虫部展示物の説明.町田市かしの木山公園.
平野幸彦(1998)私のコレクションでタイプになった甲虫類.神奈川虫報特別号,(2): 7-15.(タマキノコ2種、ハネカクシ4種、アリヅカ3種)
日高敏隆監修(1998)日本動物大百科10 昆虫。.平凡社,東京,187pp. (ハネカクシ関係は以下の通り:佐藤正孝ム水生甲虫類(ダルマガムシの生態について言及)pp. 96-97;渡辺泰明ムハネカクシ上科 pp. 100-101;直海俊ム郎ムハネカクシ類 pp. 101-103;木村恵ムシデムシ類 p. 103;野村周平ム地面の下の甲虫類 pp. 104-105;木村史明ムキノコに集まる甲虫 pp. 106-107.分類体系はNewton & Lawrence, 1995を用いている)

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ハネカクシ類情報いろいろ

1.日本のタマキノコムシ研究
 ここ十数年停滞を続けてきた日本のタマキノコムシ研究が、最近になってようやく、保科英人氏(九州大学大学院)を初めとした若い人たちの手によって、少しずつ進み始めました。今後のさらなる活躍が期待されます。保科氏の最近の業績は、昨年及び一昨年の分については「月刊むし」誌をご覧下さい。それ以前には次のものがあります。
Hoshina, H. (1996) A taxonomic study on the genus Cyrtoplastus of Japan. Jpn. J. syst. Ent., 2(2): 201-206.

2.好蟻性甲虫のトラップ
 昨年11月14〜15日に愛媛大学で行われた鞘翅学会大会で、北大の丸山宗利氏が好蟻性甲虫を効率よく採集するトラップについて発表されましたので、以下に紹介します。
 このトラップは主にクロクサアリなど、ケアリ属クサアリ亜属の蟻に用いられました。この蟻は北海道、本州では自然のよく残された森林に普通に見られ、亜属名の通り、大木の樹幹を行列を作って這っているのが見受けられます。トビイロケアリなどとは異なり、体色がつやのある黒色なので容易に区別できます。これらのアリの行列の途中、特に大木の根際などに紙コップを埋めてピットフォールトラップにする、というのが、意外とシンプルなこのトラップの用法です。できればアリの餌となる昆虫の死体などを入れてやるとよいそうです。アリは紙コップの壁面を平気で上り下りすることができますが、行列に混じって歩いてくる小甲虫はこれを上ることができません。その結果、紙コップの底には好蟻性甲虫が次々たまって行くそうです。丸山氏らはこれによって、札幌郊外などで、20種以上の好蟻性のハネカクシを得られたそうです。その他、何と言っても衝撃的なのは新属と思われる大型の好蟻性エンマムシ(アリクイエンマムシと命名された)が採集され、シナノセスジエンマなども普通に採集することができるということです。アリヅカではヒゲカタアリヅカとその近縁種が少なからず採集されています。
 ハネカクシの専門家でなくとも、この方法を見逃す手はありません。来シーズンには是非この「丸山トラップ」を仕掛けて、好蟻性ハネカクシ、エンマムシをタコ採りしようではありませんか!

3.平野幸彦氏、「虫寿」の祝
 本会会員でもあられる小田原市の平野幸彦氏が昨年64歳=“虫寿”を迎えられたということで、それを記念した神奈川昆虫同好会誌「神奈川虫報」の特別号(No. 2)が発行されました。この号には都道府県レベルでは日本最多の神奈川県産甲虫目録が登載されています。その数、3866種!ハネカクシ関係を抜粋すると、ダルマガムシ3種、ムクゲキノコ12種、ツヤシデ2種、タマキノコ亜科35種、ヒゲブトチビシデ亜科2種、チビシデ亜科20種、コケムシ6種、シデムシ16種、ニセマキムシ1種、アリヅカ77種、その他のハネカクシ524種、エンマムシ上科63種、ガムシ上科42種、でした。但しこれらは既知種のみの数です。神奈昆各位の努力の賜でありましょうが、やはりその精神的支柱であられる平野さんの存在は功労の最たるものといえましょう。ともに“虫寿”をお祝い申し上げると共に、今後のご活躍に注目したいと思います。

4.「埼玉県昆虫目録」成る!「石川県の昆虫」も!
 昨年くらいから、都道府県レベルで大冊の昆虫誌が続々発刊されるようになりました。埼玉昆虫談話会発行の「埼玉県昆虫誌」はその代表的な存在で、3分冊から成る大著です。今回のこの出版は同好会活動の集大成であるといえましょう。ハネカクシ関係では、ガムシ26,エンマムシモドキ1,エンマムシ39,ダルマガムシ1,ムクゲキノコ6,タマキノコ16,コケムシ1,シデムシ(ツヤシデ含む)22,ハネカクシ299(アリヅカ24を含む)です。やや手薄な群もありますが、ハネカクシ約300は立派と言えましょう。リスト中には小田博さんらの素晴らしい精密図が挿入され、彩りを添えています。
 石川県も負けてはいません。富樫一次先生や「石川むしの会」によって詳しく研究されてきた石川県の昆虫ファウナがついに一冊の本になりました。甲虫は高羽正治氏らが担当され、103科2732種をリストアップしました。ハネカクシ関係は、古い分類体系を用いていますが以下の通り:ホソガムシ2,ガムシ30,エンマムシモドキ1,エンマムシ28,タマキノコ13,コケムシ4,ニセマキ1,チビシデ11,シデ17,デオキノコ18,ハネカクシ276,アリヅカ33。コケムシ、タマキノコといった地味な群も積極的に攻めている努力は評価できますが、同定にはやや疑問が残ります。いずれにしても大変な労作で、ただただ敬服の至りです。昨年はこのほかにも、広島、岡山で大きなリストが発刊されています。「千葉県動物誌」もまもなく発刊される予定です。

5.ヒゲブトハネカクシが繭を作る
 甲虫解剖学の権威、イタリアのLuigi De Marzo博士から送られてきた彼の論文によると、ヒゲブトハネカクシ亜科のCypha imitatorを飼育したところ、幼虫が土中に蛹室を作り、粗い繭を作ったということです。前に彼が報告したアリヅカの繭と似ています。終齢幼虫の第8腹節に大きな絹糸腺が見られるそうです。文献は以下の通り:De Marzo(1997)Morfologia preimmarginale in Cypha imitator (Luze). Entomologica, 31: 197-205.


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