ハネカクシ談話会ニュース No. 5
The Newsletter of the Staphylinidological Society of Japan, No. 5

1998年4月3日発行
The Newsletter of the Staphylinidological Society of Japan
ハネカクシ談話会ニュース No. 5
    
1.事務局からの連絡
 いよいよ,採集シーズン到来となりました.私も先日陽気に誘われて,千葉 県は笠森自然公園に採集に行って参りまして,元気に落葉の中を歩き回るムネ ビロハネカクシを見たところです・今シーズンも宜しくお願い致します.本年 も,6月に第3回例会を,10月に採集会を開催する予定です.
(1).会費納入についての連絡
 今年に入って多数の会員の方々から.すでに会費を頂いています.ありがと うございました.既に納入された方の分も含めて,ニュース第6号(8月発行 予定)で.1998年度会費納入状況を改めてお知らせ致しますので,今年度の会費未納の方は,早めに納入頂けるよう御願い致します.
(2).ハネカクシ談話会関西支部採集会のお知らせ
 4月26日(日噂日)丹波方面(JR宝塚線沿線)の低山地帯で.川のあると ころを採集地として,設定する予定とのことです.興味のあるかたは,関西支部事務局(p.6)までご連絡ください.
 (3)・新入会員 豊田浩二

2.ハネカクシ談話会第3回例会/懇親会のご案内
例会日時:1998年6月14日(日曜日):午後2時〜5時
場所:千葉県立中央博物館会議室(入館は業務用人口から御願いします)
交通:中央博へは、JR千葉駅東口正面のバス(7番:大学病院行き;川戸行き
   に乗り,中央博前下車(乗車時間約15分)
例会内容:
(1).事務局からの連絡      
          (2).話題提供:直海俊一郎(中央博):日本産メダカハネカクシ属(S. comma種群以外のメダカハネカクシ亜属)について
(3).話題提供:西川正明(海老名市):チビシテムシの形態と分類
(4).1人1話/自由懇談/情報交換
(当日,フアウナ,生態,採集法などの話題提供歓迎です!)
懇親会:例会に引続き,午後6時〜8時まで千葉市内で行います.会費 5.000−6,000円程度(まあ,酒でも飲んで盛り上がりましょう!)
宿泊のご案内:千葉市の2つのビジネスホテルを御紹介いたします.
・千葉ワシントンホテル(千葉駅近く:043−222−4511)1泊:約8,000円
・ホテルサンシティ一千葉(千葉駅近く:043−247−1101)−1泊:約7.000円
お願い:例会/懇親会に参加御希望の方は,参加/不参加いすれかに○ を付けて(別紙)・6月8日までに事務局(中央博:直海)にご連絡ください.

3.国内ハネカクシ情報(シリホソハネカクシ亜科Tachyporinae: Sepedophilus属:クロゲヒメキノコハネカクシ種群の研究)
 保育社の甲虫図鑑に載っているクロゲヒメキノコハネカクシ(S. armatus Sharp: 図A)は・平野から山地帯まで広く分布している鍾で,カワラタケの様な 比較的硬いキノコから採集されます.この種自体は決して珍しい種ではないの ですが、斑紋の変異が著しく、また,南西諸島に行くと,かなり異なった斑紋 をもった個体がいくつも見つかっていました.そこで,私は丸山宗利氏と共同 研究して、結果を日本昆虫分類学会会報(Naomi & Maruyama, 1997, Jpn. J. syst. Ent., 3(2):239−257)に発表しましたので、以下に概要を紹介致します.
 結果として・日本産クロゲヒメキノコハネカクシ種群に,4新種を含む5種 が含まれることが明らかになりました.本種群は、上翅の側部と下縁部に黒色 剛毛を供えることから、Sepedophilus属の他の種群から,容易に区別できます. 5種のうち、S. subarmatusとクロゲヒメキノコハネカクシが非常に外見が似て いて、実体顕微鏡の下でもほとんど区別できません.ただ,雄交尾器は,全く 違います.S. armatusの交尾器は、先が尖っていますが(図C)、S. subarmatusの交尾器ははるかに幅広く,内部骨片がほとんど発達していません(図D).このへんてこなS. subarmatusの分布は現時点では奇妙で,東京都高尾山と鹿児島県口永良都島だけです.5種への検索表をつけておきます.S. armatusとS. subarmatus以外の3種は,いずれも,南西諸島の特産種で,斑紋などの形態で, 同定可能と思われます.
1(6)上翅は通常3対の斑紋をもつ.
2(5)前胸背は黄褐色から赤褐色;各上翅の中央紋は側縁まで伸びない.
3(4)腹部は黄褐色から赤褐色だが第6腹板は黒ずむ(分布:北海道,本州;四国;,九州;伊豆諸島;屋久島;種子島) ..... S. armatus Sharp
4(3)腹部は一様に黄褐色から赤褐色(分布:本州,口永良部島)..... S. subarmatus Naomi et Maruyama
5(2)前胸背は黒褐色;各上翅の中央紋(図8)は通常側縁まで伸びる(分布:奄美大島,沖縄島)..... S. quadrifulcatus Naomi et Maruyama
6(1)上翅は1対もしくは2対の斑紋をもつ.
7(8)体の光沢は強い;触角は全体が黄色;前胸背は黄褐色から赤褐色;各上翅は下端部に1つの横長の斑紋を供える(分布:沖縄島)..... S. apicalis Naomi et Maruyama
8(7)体の光沢は弱い;触角は黄色だが,第6節から第9節は黒ずむ;前胸背は赤褐色から褐色で,基部に一対の斑紋がある;各上翅は2つの斑紋を供える(分布:石垣島,西表島)..... S. iriomotensis Naomi et Maruyama

4.国外ハネカクシ情報
 (1). ニュース3号で海外の8組の研究者が,日本のハネカクシについて研究 しているという状況を紹介致しました.あれから3カ月しか経っていないのに, さらに新たに2人の若手研究者から,ハネカクシの研究を始めるという内容の 手紙が小生の手元に舞い込んできましたので,紹介致します.こうやって,ハ ネカクシ若手研究者が増えるという状況は,本当に楽しいものです.
 Johannes Frisch氏(ギッセン/ドイツ).彼はギッセンにあるJustus-Liebig大学で,現在,アリガタハネカクシ亜科Scopaeus属の分類学的研究で,学位論文を作成中です・研究対象は新北区(北米)と新熱帯区(南米)をのぞく世界中のScopaeus属の再検討と言うことです.ほとんどのタイプ標本はすでに, 検鏡終了とのことです.おそらく,近い将来,また彼の論文を,談話会ニュー スでご紹介出来ることと思います.
 A. Tagliapietra氏(ベロナ/イタリア).彼の手紙によりますと,イタリア のハネカクシ相Omallinaeの著者(1987)で有名なAdriano Zanetti 博士の指導の もとに,セスジハネカクシ亜科Oxytelinaeの分類学的研究を始めるとのことで す.このセスジハネカクシ亜科と言うのは.属レベルの同定ですら,結構難し く,日本からはおそらく未記録の属もいくつか出るに違いない,研究が最も遅・ れた亜科の一つです・この亜科は,ヒゲブトハネカクシ亜科の次に,分類が困 難な亜科の1つではないでしょうか.

 (2).世界のハネカクシ研究者の横顔 −シリーズ.1一
 今回から,世界(日本を含む)のハネカクシ研究者の横顔として,色々な研 究者の方々に登場してもらい.彼らがどの様な研究をしているかを,紹介した いと思います.そのことによって,どういう感じで,ハネカクシの分類学的研 究が,現在進んでいるかを少しでもご理解いただければ,幸いです.
 このシリーズの第1回として登場していただくのは,シカゴ(USA)の Field Museumで,ハネカクシ上科とエンマムシ上科の高次分類学的研究などを ご専門にされているAlfred F.Newton Jr.博士とMargeret K.Thayer博士です. 実は、彼らはご夫婦でいらっしゃって、いずれも,Harvard大学をご卒業されて います・Newton博士の学位論文(1973)は.なんと,北米産のPlatydracus属(ハ ネカクシ亜科)の分類学的研究でした【Newton,A.F.Jr.(1973)A systematic revision of the rove beetle genus Platydracus in North America(Coleoptera:Staphylinidae).PhD.Thesis.Harvard Univ.,318pp+222 figs.].他方,Thayer博士の学位論文(1985)は,南半球に分布するMetacorneolabium属(ヨツメハネカクシ亜科)の体系学およぴ生物地理学的研究です【 Thayer.M. K. (1985)Revision of the austral genus Metacorneolabium and studies in the systematics and biogeography of omaliine Staphy1inidae(Coleoptera).PhD.Thesis.Harvard Univ.】.
 御夫婦は大変仲良く,就職もHarvard大学から同時にChicagoへ移って行かれ ました.私がシカゴを訪ねたときは,色々な話をしましたが,「アルフレッド はまた,別の所に変わるの?」とマーガレットに聞いたら,「きっと彼は,シ カゴにいると思う.」という答がかえってきました.御両人とも非常に優しい 方で.シカゴ滞在中は,大変楽しく過ごすことができました.
 現在までに,多くの研究をされていますが,ハネカクシ研究者必読のものに は,以下のものがあります(年代順;タイトル中略記あり).
Newton,A・F・Jr・& D・S・Chandler・(1989)World catalog o the genera of Pselaphidae(Coleoptera).Field、Zool..New Ser.,(53):1−93.
Newton,A・F・Jr・& M.K.Thayer(1992)Current classification and family−group names in Staphyliniformia. Field・Zool.,New Ser.,(67):1−92.
Newton,A・F・Jr・& M・K.Thayer.(1995)Protopselaphinae new subfami1y for Protopselaphus new genus from Malaysia, with a phylogenetlc analysis and review of the omaliine group of Staphylinidae including Pselaphidae(Coleoptera).(出典は,ニュース4号のp.3をご覧下さい.)
Lawrence,J・F・& A・F・Newton,Jr.(1995)Families and subfami1ies of Coleoptera(with selected genera.notes,references and data on family−group names).In Pakaluk.J・&S.A.Sliplnski eds.,Biology,Phylogeny, and classification of Coleoptera,P.779-1006.Museum i Instytut Zoologii PAN,Warszawa.(ただし,別刷りだけに48ページのインデックスがついています.)

5.論文紹介
Beutel,R・G・& R・Molenda.(1997)Comparative morphology of selected larvae of Staphylinoidea(Coleoptera, Polyphaga)with phylogenetic implications.Zool.Anz.,236:37-67.
 Friedrich Schlller 大学(ドイツ/ジェナ)のBeutelさんは,もともとハネ カクシの専門家ではなく、甲虫形態学や甲虫系統学を御専門にされていて.玄 人好みの幼虫などの内部形質(筋肉系など)を巧みに利用して,様々な甲虫を 対象に研究を進めてこられた方です.今回は、「幼虫形質だけに基づいた」ハ ネカクシ上科の高次系統を研究課題として、面白い成果を発表していらっしゃ いますので,以下に紹介いたします.結論は、次のページの分岐図に示してあ りますが,要点は次の4つです.
(1). Scydmaenidae + Pselaphinae 十 Euaesthetinae+ Staphylininae + Paederinae + Steninae+ Oxyporinaeが、7・1の形質で単系統群(つまり,図の中で根元が1本 の線でまとまっている群)となりました.このうち,アリヅカムシ亜科Pselaphinaeを除いた他の群は、Newtonらの第4群の溝成メンバーです.アリヅカムシ亜科は,Newton体系では・第1群(ヨツメハネカクシ群)に含まれていますが,今回は,解析した形質が幼虫形質だけであったと言うことと,コケムシ科Scydmaenidaeとアリヅカムシ亜科の幼虫がいくつかの形質を共有していたこと(7. 2:上唇が頭盾と完全に癒合;13・1:大あごが細長くかま形,など)によって,ア リヅカムシ亜科がNewtonらの第4群に含まれるという結果になりました.
(2)・Newtonらの第2群を形成するAleocharinae・Phloeocharinae.Trichoph yinae・Tachyporinae・Habrocerinaeは,単系統群となりませんでした.
 (3).Omaliinae,Proteininae,Trigonurinae,Micropeplinae,Dasycerinae は,TrigonurinaeをのぞくとNewtonらの第1群に含まれる亜科ですが,この第 1群も単系統群にはなりませんでした.
 (4).Osoriinae+Oxytelinae+Piestinaeは単系統群となり,それらとデオキノコムシ亜科Scaphidiinaeを併せた群が,Newtonらの第3群です.
 分岐図中の様々なレベルの単系統群を特徴づける重要形質を,参考のために, 下記に示しておきます【4.1:幕状骨後腕(posterior tentorial arm)は後頭孔( occipital foramen)から離れて位置する;7.1:上唇は部分的に頭盾と癒合;11 .1:触角は比較的頭部の内側に位置する;12.1:大あご磨砕部(mola)は無し;14 .1:大あごは先端に明瞭な3.4本の歯を供える;17.1:小あご内葉・外葉は癒合葉片を形成する;19.1:小あご葉片は比較的短く,内側が斜に切れるか丸まる;28.1:大脳(cerebrum)と触角挿入部の中間地点に分岐しない分泌腺嚢がある】.

 ハネカクシ談話会ニュースNo.5(1998年4月3日発行)
           発行責任者:直海 俊一郎
事務局:〒260−8682 千葉市中央区青葉町955−2 千葉県立中央博物館
   直海 俊一郎 くTEL:043−265−3274;Fax:043:266−2481)
ハネカクシ談話会幹事(中央博:直海俊一郎);(科博:野村周平)
  関西支部 事務局 :〒666−0116 兵庫県川西市水明台3−1−73
           林 靖彦 (TEL:0727−93−3712)
   関西支部幹事(川西市:林靖彦);(八幡市:伊藤建夫)


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