ハネカクシ談話会ニュース No. 2
The Newsletter of the Staphylinidological Society of Japan, No. 2

1997年8月1日発行
The Newsletter of the Staphylinidological Society of Japan
ハネカクシ談話会ニュース No. 2
    
1.事務局からの連絡
 ハネカクシ談話会は今年の1月に発足致しましたが,7月末までの正会員の 人数は39名です・会費の納入状況は・各年度の最後に出るニュース(今年度 は第3号)でお知らせします・なお、来年から各年度の初めに出るニュース( 来年度は第4号)は,アリヅカムシの特集号です.また,千葉市で毎年例会を 開催すると,西日本の会員の方にとって距離的に遠く,参加しにくいと言う理 由もあり・来年から,関西支部会を発足させる方向で検討中です.
 現在・正会員数が少ないこともあって,談話会の環境がとても“at-home”で す.ニュースを送ると,会員の方々から談話会への有意義なコメントや励まし の言葉を頂き,大変うれしく思っています.お礼申し上げます.今後ともご支 援の程,宜しくお願いします.

2.ハネカクシ談話会第2回例会の報告
 6月1日に開催された第2回例会は,事務局からの連絡が終了した後,以下 の2題の話題提供講演が行われました.内容的に非常に面白く,議論も白熱し たため.当日予定していた3題目(直海俊一郎)と4題目(丸山宗利)の話題 提供講演は,時間切れのため中止となりました.2題の話題提供講演のあと. 1人1話があり,例会を終了しました.その後,午後6時から千葉市の居酒屋 「季の家」にて9名の奉加者により懇親会が行われました.
 なお.例会奉加者は.以下の13名(50音順;敬称略)です:笠原須磨生, 岸本年郎.佐野正和 田添京二 直海俊一郎 中根猛彦 西川正明 野村周平, 平野幸彦,丸山宗利 吉崎真紀,吉田進,渡辺崇.

話題提供講演1.野村周平(科博):日本産シデムシ科のかかえる問題
 日本産シデムシの分類は,よく判っているようで,実は以下に示すような分 類学上の多くの問題をかかえている.Nicrophorus investigatorとして取り扱 われているヒロオビモンシデムシは,沿海州から記載されたN. pedatorが当 てはまる可能性がある.カラフトマエモンシデムシはマエモンシデムシと区別 できず,後者の個体変異と考えられる.最近,“Japon,Kamaishi”から記載さ れたN. fasciatus Hlisnikowskiは,クロシデムシの小型個体(24,2mm)ではな いか? チョウセンベッコウヒラタシデムシとベッコウヒラタシデムシは,はたして別種とするはどの形態的差異が認められるのだろうか?K冢o(1929)によって記載されたヤマトヒラタシデムシSilpha yamatonaは.現在の分類体系では無視されているが,後に記載されたオオタイヒラタシデムシと同種であるか否か?という問題など,少なくとも無視されるべきではない.オオモモブトシデムシはNecrodes asiaticusの学名のもとに扱われてきたが,Cho(1995)はこれをヨーロッパのN. 1ittoralisのシノニムとした.両種の差は軽微であり,その差が中間地域の標本によって埋められるならば,後者の取扱に従うべきであろう.

 話題提供講演2.岸本年郎(東京農大):日本産ヒゲブトハネカクシ亜科の概要
 ヒゲブトハネカクシ亜科A1eocbarinaeは,ハネカクシ科最大の種数を含む亜 科で,現在世界から48族985属が知られ(Ashe,1993),ハネカクシ科(狭義) の40%を占めるとも言われている(Seevers,1978).今回は現在までに日本か ら記録のある種のチェックリストを作成した.族の分類については主にSeevers (1987)に従い,さらに近年出版された論文での再検討の結果も加えたところ, 日本から19族81属287種が記録されていることが判明した.その内訳は 以下の通りである(族の配列はアルファベット噸):Aleocharini 4属20種. Athetini 20属101種,Autalini 1属2種,Deinopsini 1属2種,Diglottini 1属1種.Gymnusini 1属1種,Falagrini 1属7種,Homalotini 12属50種,Hoplandrini 3属5種,Hygronomini 1属1種,Hypocyptini 2属7種,Leucocraspedini 1属3種,Lipalocepbalini 3属5種,Lomechusini 7属22種,Myllaenini 3属12種,Oxypodini 17属41種.Placusini 1属1種,Trichopseniini 1属4種.この種数は今後の研究により倍増間違いなく,最終的な種数は見当もつかないのが現状である.

3.ハネカクシ談話会第2回採集会のご案内
 1997年のハネカクシ採集会を下記のように行いますので,お時間に都合 の付く方は.ご参加頂けるようお願い申し上げます.
(1)・採集会日程:10月11日(土)・12日(日)
(2)・場所:栃木県栗山村奥鬼怒・奥鬼怒には水量豊富な渓流があり,谷合い には落葉が豊富で,ふるい採集やきのこ採集にはもってこいの場所です.
(3)・宿泊:紅葉のシーズンですので・予約ができるかどうかで場所が変わり ます・現在の第一侯補としては.加仁湯温泉(あるいは八丁の湯)を考えてい ます・宿泊代金は1万円程度ですが,宿を一歩でるとそこはもう素晴らしい採 集地です・第二の侯補としては,川俣温泉の民宿を考えています・こちらは, 1泊7,000円程度で安く泊まれますが,採集地まで自動車等で移動する必要があ ります・どちらに宿泊するかは,事務局に御任せください.
(4)・利用交通:JR日光線/東部鬼怒川線/村営バス等
 バスは東部鬼怒川線沿線にある鬼怒川温泉駅から・女夫淵温泉まで村営バス が日に4便通っています・詳しくは,栗山村観光協会(0288−97−1126)へ.
 鬼怒川温泉発:AM7:35;10:15;PM 1: 10;3:45(女天淵温泉行き)
 女夫淵温泉発:AM7:45;9:55;PM 1:00;3:35(鬼怒川温泉行き)
上記の採集会にご参加ご希望の方は,9月15日までに,直海(中 央博)までご連絡ください・連結先:4ページ下をご覧ください.
 ご参加される方には・具体的な宿泊の情報と地図等を改めてお送り致します.

4.国内ハネカクシ情報
(1)・日本産ハイイロハネカクシ属の研究が・林靖彦さん(1997.Ent.Rev.Jpn., 52(1):25-37)によって行われました・石垣島からかっこいい1新種が記載されています(Eucibdelus ishigakiensis Hayashi)・また,Dvorakによって日本から記載された種はどうなるのかと思っていたら・シノニムとのこと.納得 です・伊藤建夫さん(1996・Ent・Rev・Jpn・51(2〉:75−83)は日本産ナガエハネカクシ属を研究しています.日本産のツマアカナガエハネカクシOchthephilum bernhaueri (Cameron)が,気になっていましたが・新種(O. kurosai Ito)だったのですね・これにも納得しました.また、O. shibatai Itoという新種が石垣島から記載されています・南西諸島のハネカクシ相は実に豊富です! 
(2)・来年から直海俊一郎が,手元に残された未見の標本等に基づき,日本産 メダカハネカクシ分類の詰めの研究を開始します・メダカハネカクシ亜科ハネ カクシの研究ではすでに,直海の個人収蔵標本に加え,野村周平,柴田泰利 平野幸彦,岸本年郎,岡本巌,宮下公範,武田卓明,田尾美野留,吉田正隆, 大石久志,今坂正一さんらの個人収蔵標本をはじめ,北海道大学,愛媛大学 九州大学等の公的機関の標本に基づき,多くの新種が日本列島から記載されて います.(ちなみに・カナダ国家所蔵CNCとジュネーブ自然史博物館に収蔵されていた日本産メダカハネカクシ11新種は,V. Puthz (1993)さんによって記載されています:Revue suisse de Zoologie 100(1):143−168・なお,沢田高平さん が採集されたメダカハネカクシは・かれこれ17,8年前にプラハのHromadkaさんによって記載されています.)現時点で約200種のメダカハネカクシが 記録/記載されていますが・来年から始まる研究で,あとどれだけ種数が増え るでしょうか・なお,来年からの研究が終了した時点で,日本産メダカハネカ クシ目録という集大成の研究に取り掛かります.

5.訃報(国内)
 ハネカクシ研究家で知られる石川県能美郡辰口町の杉江良治氏が,昨年(1996年)8月25日に65才でお亡くなりになりました・謹んでご冥福をお祈り致します.杉江さんは.辰□町鍋谷から珍しいハネカクシを多数採集されていましたが,杉江さんに献名された2新種のハネカクシが今年になって相次いで発表されました:Lathrobium(Lathrobium s. str.) sugiei Y. Watanabeスギエヒメコバネハネカクシ(Elytra.Tokyo,:5(1):136),およびStenus(Parastenus) sugiei Naomi(Ent.Rev.Jpn.,52(1):3).

6.国外ハネカクシ情報
(1). 現在,ハネカクシの研究分野で行われている最も大きなprojectはおそら く,まだ若いJames A. Danoff−Burgさんが中心となって行っているハネカクシ 上科を対象とした分子系統学約研究でしょう.Danoff-BurgさんはJames.S.Asheさん(Snow Entomological Museum、Kansas)の指導のもとで,ヒゲブトハネカクシ亜科Sceptobiini族に属する中南米産ハネカクシの好蟻性(myrmecophi1y)の進化の論文を1本書いています(Syst. Ent., 1994,19:25−45).その後どうやらL.Hermanさんのテコ入れで,American Museum of Nat.HistoryのPost Doctral Research Fellowになったようです.この巨大projectは.L.Hermanさん(カワベハネカクシ属Blediusのモノグラフなどで有名)およびRob DeSalleさん(おそ らく.分子畑の人)との共同研究となっています.Danoff−Burgさんからの手紙によると,ミトコンドリアDNAと核遺伝子を少なくとも1つずつ.78タクサについて解析するとのこと!う−む,と唸ってしまいました.ハネカクシ上科では,コケムシ科(Scydmaenidae)とチビハネカクシ亜科(Micropeplinae)の分類学的位置が最後まで判らない状況ですが,もしかしたら,この謎が彼らの現在進行中のprojectで明らかにされるかもしれません.
(2). イタリアのハネカクシ学の大家 Arnaldo Bordoniさん(Museo Zoologico la Specola)は,Staphylininae亜科Xantholinini族の研究で有名で.Fauna dユ Italiaシリーズでも,1982年に同族(当時は亜科)のモノグラフを発表されています.それ以降,表面だった論著が少なかったので.何をされているのかと思っていた矢先に,彼からすごい内容の手紙が届きました.彼の手紙によりますと,なんと東南アジアのXantholinini 族について,45属400種を明かにし,そのうち25新属250新種!を記載する予定との事です.これまた,う−む,と唸ってしまいました.ちなみに,日本産については,Revision of the tribe Xantholinini from Japan.1という論文が,日本昆虫分類学会誌に掲載される予定です.属の変更がずいぶん行われていますので.ハネカクシ屋必見の論文だと思います.

ハネカクシ談話会ニュースNo. 2(1997年8月1日発行) 発行責任者:直海 俊一郎 事務局(〒260 千葉市中央区青葉町955−2 千葉県立中央博物館 直海 俊一郎 TEL:043−265−3274;Fax:043−266−2481) ハネカクシ談話会幹事(中央博:直海俊一郎):(科博:野村周平)
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