ハネカクシ談話会ニュース No. 14
The Newsletter of the Staphylinidological Society of Japan, No. 14

2001年6月11日発行
The Newsletter of the Staphylinidological Society of Japan
ハネカクシ談話会ニュース No. 14
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 今回は直海さんが,千葉県立中央博物館平成13年度特別展(ヒマラヤ―人・自然・文化―)の準備で非常に多忙のため,野村が代わりにニュースの編集と例会のご案内を致します.あしからずご了承下さい.

 2001年度例会のご案内

 21世紀最初の例会は以下のように,東京農大(厚木キャンパス)で開催します.神奈川県方面の方は近いですので,是非お誘い合わせの上,ご出席下さいますよう,お願い申しあげます.懇親会の方もよろしくご出席下さい.

日時:2001年6月24日(日曜日)午後1時より

会場:神奈川県厚木市船子1737 東京農業大学厚木キャンパス 学科研究棟2F形態系実験室(別紙地図参照)

交通機関:小田急線 本厚木 駅下車.
 南口バス停で,厚109系統 東京農業大学行きに乗車,終点で下車.
 本厚木駅南口発:13:25、14:00、14:35、15:10、15:43、13:25発のバスが便利.休日は本数が少ないので注意.
 タクシーは北口より約15分.1000円程度.

話題提供:
 島田孝「セスジハネカクシ類のAnotylus属について(仮題)」
 新井志保「埼玉県のアリヅカムシ相」
 野村周平「日本とその周辺のヒゲブトアリヅカムシはどこまでわかったか」
 他,一人一話など.

懇親会:午後6時頃より本厚木駅近辺で(場所未定).会費3000円から4000円程度.

 ハネカクシ談話会ホームページ更新しました
 昨年立ち上げた談話会ホームページですが,海外からのアクセスも多く,会の情報発信手段として大変役立っているようです.これを3月31日,更新しました.会の写真集2が新規追加され,韓国のCho博士との懇談の様子や伊豆半島での採集現場を紹介しています.会員紹介のページにも少し追加がありました.また,北朝鮮,ベトナム,極東ロシア,モンゴルのアリヅカムシ目録を新規追加しました.URLは以下の通り:
 http://research.kahaku.go.jp/zoology/hane/hane.html


<2回連載>

 ハネカクシのリストを作成するとき,亜科の配列はどうすればよいか?

  直海俊一郎(千葉県立中央博物館)

 ハネカクシ科は甲虫目のなかで非常に大きな群であり,形態的多様性も著しく高いことから,科内の系統を解明することは非常に困難である.その困難性と関連して,ほんの20年前まではいかなるレベルにおいても系統関係がほとんど研究されてこなかった.ゆえに,系統関係に基づくハネカクシ科の高次分類の研究は,非常に遅れていた.しかし,幸いなことに1980年代に入って急速にその分野に光があたりはじめた(Newton and Lawrence, 1982; Naomi, 1985; Thayer, 1987;他).そして,90年代に入り,ハネカクシ科の科群の名称が整理され(Newton and Thayer, 1992),また,ハネカクシ科の高次分類における亜科の配列が示された(Lawrence and Newton, 1995).国内をみてみると,Lawrence and Newton (1995)によって体系だてられた高次分類体系が,たとえば,平凡社の日本動物大百科10昆虫III(1998年)の161ページにおいて紹介された.したがって,私たちハネカクシを研究するナチュラリストは,21世紀をLawrence and Newton (1995)の体系とともに迎えることができることになったのである.
 Lawrence and Newton (1995)の高次分類体系は,もちろん不完全な部分を含んでいるので,今後いくつもの改変が加えられていくであろう.しかし,その体系は現時点では最も情報量に富み,信頼性をおくことができるシステムである.そこで,この小文では彼らのシステムに基づいた亜科の配列を紹介してみたい.
 本稿では,ハネカクシ科のすべての亜科を取り上げなかった.たとえば,南半球に限って分布するようなハネカクシが属する亜科は,本稿から除外されている.本稿では,むしろ日本に分布するハネカクシが属する亜科をまず優先的に取り上げ,番号をふって配列した.加えて,現時点では,日本から知られていない亜科であっても,将来新たに記録される可能性があるハネカクシが属する亜科についても記述した.このような亜科には番号をふらず,かわりにカギ括弧[]をつけた.また,逆に文献上では現在日本のファウナを構成するハネカクシの亜科であるにもかかわらず,当該ハネカクシの記載の内容から判断すると,最終的に日本のファウナから外さなければならないと思われるような亜科がある.ここではこのような亜科をも取り上げたが,それには括弧()をつけ,それを他から区別できるようにした.
 各亜科について,亜科のアウトラインを印象づけるために代表的な属をあげておいた.ただし,小さな亜科に関しては,その亜科に属する全ての属が挙げてある場合がある.なお,代表的な属には,日本に分布しない属も含まれる場合があるので,その点を注意されたい.次に,各亜科について,所見の項で,分類形質,食性,分布,分類など様々な点からコメントを加えた.最後に,必要に応じて日本産ハネカクシ等の記載・分類に関する参考文献を若干あげておいた.各亜科について,そのような参考文献を詳しく挙げるべきであるかもしれないが,紙面の関係上それらを割愛せざるをえなかった.

 ハネカクシ科の亜科の配列

 彼らのシステムによると,従来のハネカクシ科の亜科は4群(あるいは4亜科群subfamily-group)に大別されるので,ハネカクシの亜科の配列の紹介を始める前に,ハネカクシ科の大分類について簡単に触れておきたい.Lawrence and Newton (1982)によると,ハネカクシ科の亜科は,以下の4つに大別される:
 I. Omaliinae-group (ヨツメハネカクシ群)
 II. Tachyporinae-group (シリホソハネカクシ群)
 III.Oxytelinae-group (セスジハネカクシ群)
 IV.Staphylininae-group (ハネカクシ群)
 純粋に系統関係から考察すると,Scydmaenidae(コケムシ科)とSilphidae(シデムシ科)は,上記の第4群であるハネカクシ群に含まれることになるらしい (Lawrence and Newton, 1982).したがって,将来的には,コケムシ科とシデムシ科は,ハネカクシ科に含まれるということになるかもしれない.しかし,コケムシやシデムシのハネカクシ群における系統的位置関係(つまり,姉妹亜科はどれかという問題)は明らかにされていないばかりでなく,それらがハネカクシ科に含まれるような命名規約上の手続きもなされていない.それゆえ,コケムシやシデムシを‘現時点で’ハネカクシ科の構成メンバーと見なすことはできない.この点をくれぐれも注意されたい.
 上に挙げた4群の名称をリスト中に明記することは,通常不要であろう.しかし,系統関係や自然群を強調したリストを作成したい場合,それらの群名を加えるほうがよいであろう.

Staphylinidae ハネカクシ科

I.Omaliinae-groupヨツメハネカクシ群
1.Omaliinae ヨツメハネカクシ亜科
 代表的な属.Acidota, Anthobium, Anthophagus, Boreaphilus, Brathinus, Camioleum, Coryphium, Eusphalerum, Micralymma, Omalium, Phloeonomus, Trigonodemus,他.
 所見.この亜科は,南半球に分布するGlypholomatinae亜科やMicrosilphinae亜科と共に,ハネカクシ科の中では単眼をもった最も原始的な群であるといわれている.
 甲虫の成虫についてみると,単眼は,ヨツメハネカクシ群のヨツメハネカクシ亜科などの一部のハネカクシとHydraenidae(ダルマガムシ科),Derodontidae(マキムシモドキ科)やDermestidae(カツオブシムシ科)にしか存在しない.昆虫綱という高いレベルからみると単眼は明らかに原始的な形質であるにもかかわらず,単眼をもった甲虫の分布は,甲虫目のなかで隔離的となっているのである.したがって,もし単眼を原始的(祖先的)形質と見なすとすれば,単眼を保有していない多くの甲虫の科では,単眼が独立につまり平行的に退化していったということになる.逆に,もし甲虫のPolyphagaの祖先種の初期の段階で,単眼が消失したと仮定すると,単眼は上述のいずれの科においても2次的に派生したということになるので,単眼の存在は派生的と解釈されるということになる.
 成虫における単眼の存在が,ヨツメハネカクシ亜科および近縁群に原始性を示す理由としてLawrenceらによって挙げられている.化石的証拠などから(Crowson,1981, p. 684),彼等の判断はおそらく正しいのであろうが,単眼の形質進化については,もっと詳しい研究が必要であるように思われる.
参考文献(ヨツメハネカクシ亜科)
Watanabe, Y. 1990. A taxonomic study on the subfamily Omaliinae from Japan (Coleoptera, Staphylinidae). Mem. Tokyo Univ. Agr., 31:57-391.

2.Proteininae ハバビロハネカクシ亜科
代表的な属.Megarthrus,Metopsia,Proteinus,他.
 所見.頭部に1単眼をもつMetopsiaは,本当に日本に分布しないのだろうか.ヨーロッパからは,現在でも新種が記載されている(Zerche,1998を参考).
参考文献(ハバビロハネカクシ亜科)
Cuccodoro, G. 1996. Revision of the Japanese rove-beetles of the genus Megarthrus (Coleoptera, Staphylinidae, Proteininae). Rev. suisse Zool., 103(2):475-524.
Hayashi, Y. 1986. Studies on Staphylinidae from Japan. I. Ent. Rev. Jpn.,41(2):107-112.(これと次の論文は,Proteinus属を扱ったもの.)
Hayashi, Y. 1988. Studies on Staphylinidae from Japan. II. Ent. Rev. Jpn.,43(1):17-23.

3.Micropeplinae チビハネカクシ亜科
この亜科に含まれる属.Cerapeplus (タイ,ボルネオ),Kalissus (北米),Micropeplus (全北区,メキシコ),Peplomicrus (新熱帯区,エチオピア区),Pseudokalissus (東ロシア).
 所見.幼虫の全形が非常に異質であるために,しばしばこの亜科は独立の科とされてきたが,幼虫や成虫の形態から判断すると,この亜科は間違いなくヨツメハネカクシ群に属する.
参考文献(チビハネカクシ亜科)
Watanabe, Y. 1975. A revision of the Japanese species of the genus Micropeplus Latreille (Coleoptera, Staphylinidae). Kontyu, Tokyo, 43(3):304-326. Watanabe, Y. 1990. A new Micropeplus (Coleoptera, Staphylinidae) from the Islands of Oki, West Japan. Proc. Jap. Soc. syst. Zool., (42):37-41.

4.Dasycerinae ニセマキムシ亜科
 この亜科に含まれる属.Dasycerus (全北区)だけ.
 所見.ニセマキムシ亜科という亜科の和名は,日高監修(1998)において用いられたものである.現在,日本からは1種だけが知られているが,多分,あと数種が発見されるであろう.
 参考文献(ニセマキムシ亜科)
Lobl, I. 1996. Taxonomy and phylogeny of the Dasycerinae (Coleoptera: Staphylinidae). J. nat. Hist., 30:247-291.

[Protopselaphinae 和名なし]
この亜科に含まれる属.Protopselaphus(マレーシア)だけ.
所見.Newton and Thayer (1995)によって,最近記載された亜科である.この亜科のハネカクシは,アリヅカムシ亜科の姉妹群であり,外見はムカシアリヅカムシ上族によく似ている.中国南部から未記載のまま記録されており,パプアにも分布するようだ.

5.Pselaphinae アリヅカムシ亜科
代表的な属.Batrisus, Bryaxis, Bythinus, Claviger, Mayetia, Pselaphus, Reichenbachia, Tyrus,他.
所見.Pselaphidae (アリヅカムシ科)は,Newton and Thayer (1995)によって,ハネカクシの1亜科に格下げされた.以前アリヅカムシ科内で亜科であった分類群は,すべてsupertribeのレベルの分類群としてまとめられた.全世界の属のカタログは,Newton and Chandler (1989)を参照されたい.アリヅカムシの飛翔のメカニズムについては,野村(1997)を参照.
参考文献(アリヅカムシ亜科)
Jeannel, R. 1958. Revision des Pselaphides du Japon. Mem. Mus. Hist. Nat., Paris, (Ser. A, Zool.), 18: 1-138.
Lobl, I., S. A. Kurbatov and S. Nomura. 1998a. A revision of the genus Triomicrus Sharp (Coleoptera, Staphylinidae, Pselaphinae). Bull natn. Sci. Mus., Tokyo, Ser. A, 24(2):69-105.
Lobl, I., S. A. Kurbatov and S. Nomura. 1998b. On the Japanese species of Bryaxis (Coleoptera: Staphylinidae: Pselaphinae), with notes on allied genera and on endoskeletal polymorphy. Spec. Divers., 3:219-269.
Nomura, S. 1991. Systematic study on the genus Batrisoplisus and its allied genera from Japan (Coleoptera, Pselaphidae). Esakia, (30):1-462.
Nomura, S. 1996. A revision of the tychine pselaphids (Coleoptera, Pselaphidae) of Japan and its adjacent regions. Elytra, Tokyo, 24(2):245-278.
Nomura, S. 1997. A systematic revision of the Clavigerine genus Diartiger Sharp from East Asia (Coleoptera, Staphylinidae, Pselaphinae). Esakia, (37):77-110.

II.Tachyporinae-group シリホソハネカクシ群
[Phloeocharinae 和名なし]
 代表的な属.Charhyphus(北アメリカ,東ロシア),Dytoscotes(アメリカ西部),Phloeocharis(ヨーロッパ,アメリカ西部),Phloeognathus(ニュージーランド),Vicelva(アメリカ西部).
 所見.現時点では,日本から知られていないが,ヨーロッパ,東ロシア,アメリカ,ニュージーランドに分布しているので,日本にも分布していてもよさそうに思われる.一見して,ヒゲブトハネカクシのように見える.
 参考文献(Phloeocharinae) Herman, L. H. 1972. A revision of the rove-beetle genus Charhyphus (Coleoptera, Staphylinidae, Phloeocharinae). Am. Mus. Nov., 2496:1-16.
[Olisthaerinae 和名なし]
この亜科に含まれる属.Olisthaerus (全北区)だけ.
 所見.日本からは,この属によく似た種が小笠原諸島および石垣島から採集されている.

6.Tachyporinae シリホソハネカクシ亜科
代表的な属.Bolitobius, Bryoporus, Cilea, Coproporus (=Erchomus), Derops (=Paraleaster), Ischnosoma, Lordithon, Mycetoporus, Sepedophilus (=Conosoma), Tachinus, Tachyporus, 他.
 所見.現在のシリホソハネカクシ亜科の学名は最初,Tachinidae Fleming, 1821であった.しかしその後Tachinidaeがハエ目のヤドリバエ科をさすように広く用いられた.そのため,本亜科の名前はTachyporidae MacLeay, 1825から造語(すなわちTachyporinae)する措置がとられた(Newton and Thayer, 1992).本亜科は,現時点で,属レベルの分類が非常に混乱している亜科の1つである.たとえば,Sepedophilus属は将来複数の属に分れるであろうと考えられている.Sepedophilus属では,食菌性種と捕食性種があり,それらの食性は系統と深く関係しているらしく,さらに,それらの関係が,幼虫形態でより明瞭に区分けされるという.あー考えただけで大変そう!間違ってもこの亜科の属の再検討だけはよした方がよさそうだ.
参考文献(シリホソハネカクシ亜科)
Li, L., M. Zhao and N. Ohbayashi. 1999. A revision of the genus Lordithon Thomson (Coleoptera, Staphylinidae) of Japan. Jpn. J. syst. Ent., 5(2):217-254.
Newton, A. F., Jr. and M. K. Tayer, 1992. Tachinidae Fleming, 1821 (Insecta, Coleoptera) and Tachinidae Robineau-Desvoidy, 1830 (Insecta, Diptera): proposed removal of homonymy, and Tachyporinae MacLeay, 1825 (Insecta, Coleoptera): proposed precedance over Tachinusidae Fleming, 1821. Bull. Zool. Nomencl., 49(2): 122-126.
Schulke, M. 1995. Neue Arten der Gattung Carphacis Des Gozis aus Japan (Coleoptera, Staphylinidae). Ent. Blatt., 91(1/2):62-77.
Schulke, M. 1998. Studien zur Systematik und Faunistik der Gattung Tachyporus Gravenhorst. Teil 7. Alte und neue Tachyporus aus dem Fernen Osten, Sachalin und Japan (Coleoptera: Staphylinidae, Tachyporinae). Beitr. Ent., 48(2):367-406.

7.Trichophyinae ホソヒゲハネカクシ亜科
この亜科に含まれる属.Trichophya属(ユーラシア,北アメリカ)だけ.
 所見.日本からは,現在までに3種知られている.北海道から,まだ1,2種発見されるかもしれない.
参考文献(ホソヒゲハネカクシ亜科)
Watanabe, Y. and Y. Shibata. 1962. Description of a new species of the genus Trichophya Mannerheim from Japan (Col., Staphylinidae). J. agric. Sci., Tokyo, 7:95-96.

[Habrocerinae 和名なし]
 この亜科に含まれる属.Habrocerus (ユーラシア,北アメリカ,ブラジル),Nom-imocerus(東ロシア,南アメリカ).
 所見.雄の腹部先端部および交尾器が著しく変形される.分布的に見ても,日本にいるように思われる.
参考文献(Habrocerinae)
Assing, V. and P. Wunderle. 1995. A revision of the species of the subfamily Habrocerinae (Coleoptera: Staphylinidae) of the world. Rev. suis. Zool., 102(2):307-359.

8.Aleocharinaeヒゲブトハネカクシ亜科
代表的な属.Aleochara, Atheta, Bolitochara, Cypha (=Hypocyphtus), Deinopsis, Falagria, Gymnusa, Gyrophaena, Leptusa, Lomechusa, Myllaena, Oligota, Oxypoda, Trichopsenius, Zyras, 他.
 所見.この亜科は,ハネカクシ科のなかでは最も特殊化した形質を多くもつ群であり,その形態的・生態的多様性が著しく高く,種数は他の亜科のハネカクシと比べて非常に多い.その分類は困難を極めるので,ヒゲブトハネカクシ亜科は,古今東西を問わず多くのハネカクシ学者の悩みの種として立ちはだかってきた.昔はヒゲブトハネカクシ亜科内の形態的に特殊化した群が,非常にしばしば独立した亜科として認められる傾向にあった(たとえば,Trichopseniinae,Cyhinae, Mimamommatinae,Trilobitideinae,他).しかし,雄交尾器形態を基軸とした分類形質を用いて,Hammond(1975)がこの亜科の概念を整えてからは,多くの研究者が彼の見解に従っている.Seevers (1978)は,ヒゲブトハネカクシ亜科内の高次分類に挑戦したが,属,亜族,族のどのカテゴリー階級においても,分類は依然として混沌としているようだ.
参考文献(ヒゲブトハネカクシ亜科)
Kishimoto, T. 1999. Occurrence of the genus Dictyon (Coleoptera, Staphylinidae, Aleocharinae) in the Ogasawara Islands, with description of a new species. Elytra, Tokyo, 27(1):207-211.
Maruyama, M. 2000. A revision of the myrmecophilous genus Aspidobactrus (Coleoptera: Staphylinidae: Aleocharinae). Sociobiology, 35(1):149-173.
Sawada, K. 1974. Studies on the genus Atheta Thomson and its allies (Coleoptera, Staphylinidae). Contr. Biol. Lab. Kyoto Univ., 24(3):145-186.

(以下,次号に続く.)
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
<レビュー>

 真洞窟性ハネカクシ

  東京農業大学 岸本年郎

 洞窟には暗黒の世界に適応を遂げた様々な生物がすんでいる.ホライモリやペットショップでも良く見かけるブラインドケーブフィッシュ(コイ科)などの両生類や多くの魚類が一般には洞窟性動物として著名である.しかし,その形態や分化から見て多様性が最も著しいのは,甲虫のゴミムシ類とハネカクシ上科であろう.ヨーロッパから北アフリカにかけて繁栄しているメクラチビシデムシ類(Leptodirini)の鞘翅が丸く膨隆しているLeptodirus hohenwartiなどは,チビゴミムシ類の盲目長肢の種とともに,甲虫愛好家を引きつけ,欧州ではこの群を専門に集めているコレクターもいるほどである.アジア産洞窟性メクラチビシデの群は,沿海州と朝鮮半島から1種ずつが知られているだけで,日本からは知られていない.
 1998年にルーマニアのSociete de Biospeologie (Moulis / Bucarest)から発行されたEncyclopaedia Biospeologica, Tome IIには洞窟性昆虫のレビューが所載されており,ハネカクシ科の部分(除くアリヅカ)はA. BordoniとP. Oromiの担当(p.1147-1162)で,アリヅカムシをR. Poggi ,V. Decu,C. Juberthieの3名がまとめている(p.1139-1146).Bordoni& Oromi論文では,真洞窟性種(troglobies)として3亜科12属29種があげられている.ガラパゴス産の1種を除いてすべてが,ヨーロッパ,北アフリカおよびカナリー諸島に産する.ヨツメハネカクシ亜科ではLesteva,アリガタハネカクシ亜科ではDomeneやMedonに真洞窟性種があり,アリガタハネカクシ亜科の中では,1989年にガラパゴスの溶岩洞からCambell & Peckにより新属新種として記載されたPinostygus galapagoensisが,洞窟性ハネカクシの中でひときわ目を引く存在である.本種は大型個体で28mmにも達し,洞窟への適応も著しい.PinostygusはPinophiliniに属するが,ガラパゴスには,現在本族は分布しておらず,また南アメリカ大陸やオセアニアからも近縁な属は見出せない.海洋島における本種の存在は大変興味深いものであり,「進化論の島」ガラパゴスの生物相を語る際に忘れてはならないものの一つであろう.残る亜科はヒゲブトハネカクシ亜科で,6属が知られており,高度に特殊化した形態をもつものが多い.この他に好洞窟性種(troplophiles)として44種が世界各地からリストアップされている.アリヅカムシの項では35属にわたる群に洞窟性種が含まれるとしている(ただし真洞窟性,好洞窟性の区別はしていない).この中には日本,アジア,タイが含まれている.
 日本の洞窟での記録については,Watanabe (1996)がまとめており,54種が洞窟で発見された種としてリストになっている.このうち日本では好洞窟性といえるのは,Lathrobiumの3種,Quediusの10種くらいであろう.残りは偶然に採集されたり,湿潤で安定した環境として,洞窟にすむことのある種と思われる.
 上記のように東アジアから真洞窟性のハネカクシは知られていなかったが,昨年A.Smetanaにより韓国から真洞窟性ヨツメハネカクシ亜科の新属新種Uenohadesina styxが記載された.この種は,一見ハネカクシとは思えない特異な形態をしている.筆者はここ数年来,中国大陸やタイで洞窟調査を上野俊一,西川喜朗,佐藤正孝博士らと行っており,チビゴミムシ類をはじめ多くの興味深い洞窟性動物を採集している.しかし,ハネカクシにおいては,興味深い好洞窟性種は得られているものの,真洞窟性種は発見できていない.広い中国のどこかの洞窟にはまだ,ひっそりと真洞窟性のハネカクシが潜んでいるのではないかと思っており,しばらくは調査を続けていく予定である.
<引用文献>
Campbell, J. M. and S. B. Peck, 1989. Pinostygus galapagoensis, a new genus and species of eyeless rove beetle (Coleoptera: Staphylinidae: Paederinae) from a cave in the Galapagos Islands, Ecuador. Coleopt. Bull., 43: 397-405.
Smetana, A., 2000. Uenohadesina styx, a new cave-dwelling genus and species of the subfamily Omaliinae (Coleoptera, Staphylinidae) from South Korea. Elytra, Tokyo, 28: 285-294.
Watanabe, Y., 1996. Staphylinid beetles (Coleoptera) found in caves and mines of Japan. J. speoleol. Soc. Japan, 20: 8-18.
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  ハネカクシ情報いろいろ
1.丸山氏,訪欧
 北大の丸山宗利氏が,この5月,アリヅカなどを精力的に研究しているスロヴァキアのPeter Hlavac(フラヴァーチェ,と発音するらしい)氏に招かれて,スロヴァキア,チェコなどを訪ねてこられました.Dvorak(ドヴォルジャーク)氏と会って,タイプ標本を見せてもらったり,東欧の研究者と交流をもたれたようです.ご存じのことと思いますが,最近,東欧の甲虫学者は大変精力的にアジアの甲虫を研究しており,その点では日本の競争相手となっています.この東欧の研究状況についてはいずれ丸山氏に詳しく報告していただきたいと思っております.研究者の写真も,お願いして撮ってきていただきましたので,この方も,ホームページなどで紹介しようと思っております.

2.Chandler著“オーストラリアのアリヅカムシ”
 New HampshireのDonald S. Chandler博士が10年近く取り組んでいたオーストラリアのアリヅカムシのモノグラフ(568pp.)が,下記の書名で刊行されるようです.
 Biology, Morphology, and Systematics of the Ant-like Litter Beetle Genera of Australia (Coleoptera: Staphylinidae: Pselaphidae)
 オーストラリアに固有のたくさんの分類群が記載されています. 野村はまだ入手していませんが,グリーン洋書(TEL: 044-533-0470)で扱っています.
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 ハネカクシ談話会ニュースNo. 14 (2001年6月11日発行)
 発行責任者:野村周平・直海俊一郎
 事務局:〒260-8682 千葉市中央区青葉町955-2 千葉県立中央博物館 直海俊一郎
 (TEL: 043-265-3111; FAX: 043-266-2481)
 幹事: 直海俊一郎(千葉中央博),野村周平(科博),岸本年郎(東京農大)
 年会費500円(2000年度から)郵便振替にて払込下さい。
 加入者名:ハネカクシ談話会;口座番号:00170-2-145635
 関西支部事務局:〒666-0116 兵庫県川西市水明台3-1-73 林靖彦(TEL: 0727-93-3712)
 関西支部幹事(川西市:林靖彦);(八幡市:伊藤健夫)

← ハネカクシ談話会ニュースのページへ
← ハネカクシ談話会ホームページへ