ハネカクシ談話会ニュース No. 13
The Newsletter of the Staphylinidological Society of Japan, No. 13

2001年2月14日発行
The Newsletter of the Staphylinidological Society of Japan
ハネカクシ談話会ニュース No. 13
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2000年度採集会の報告

(2000年11月11(土)〜12日(日)伊豆半島天城山周辺)
 今回の採集会も好天に恵まれました。前夜遅く出発した野村は真鶴道路で仮眠を取り、午前中下田近くの爪木崎まで走って、土を採りました。ここは比較的条件の良い照葉樹林が残っており、後日、ハナダカアリヅカムシなどが抽出されています。天城山麓の低地で土を採ったあと、夕刻5時に熱海の国道沿いの宿に着き、皆さんと合流しました。入浴、夕食後、野村が恒例のスライド上映を行いました。「美しい日本の風景とアリヅカムシ相」というような題で、日本各地の植生とアリヅカのファウナとの関係について説明しました。
 翌朝、各自が思い思いのルートから天城山高地での採集を行いました。昨日万三郎岳に登った直海氏は、この日は天城峠でメダカハネカクシの採集を試みました。豊田氏らは遠笠山にトラップを仕掛けて、万三郎岳へ向かったようです。野村は天城高原カントリークラブから万二郎、万三郎岳の主稜を縦走しました。さすがに万三郎岳山頂付近のブナ林は堂々たるもので、リターも深く、採集には申し分ない環境で、アシナガアリヅカや、Batriscenellus fallaxを多数採集しました。しかし全体として、天城峠付近で過去に採集されているものと同じで、目新しいものはありませんでした。山頂から北面の巻き道へ下って、豊田氏らと出会いましたが、彼らもそれなりに収穫があった模様でした。
 次回は、筑波山方面が候補として上がっています。今まで参加されたことがない方も是非ご参加下さい。
 参加者(順不同):上田康之、豊田浩二、新井志保、島田孝、長島聖大、渡辺崇、直海俊一郎、野村周平.(野村 記)
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 事務局からの連絡:会員異動(新入会員)
 <省略>

※今年、会員名簿を整理して会員に配布したいと考えておりますので、メールアドレスをお持ちの方は、岸本(Staphtk@aol.com)まで一報下さい。


 世界&日本のアリヅカムシ研究の近況 2000

 2000年のアリヅカムシ界は特に大きな動きは見られませんでしたが、大きなカタログや論文集の出版を控えて、忍耐と充実の日々を過ごしていたように思われます。今後の動きを見通しつつ、現在の水面下での動きも含めて追ってみましょう。

1.“Palearctic Catalogue”はどうなった? 
 月刊むし誌の回顧記事「1998年の昆虫界をふりかえって」(これはハネカクシ談話会HPで閲覧可能です)で紹介した“Palearctic Beetle Catalogue”のその後の進行状況をお知らせしようと思います。野村がチェックしたアリヅカの分は1999年初頭に編集担当のIvan Lobl博士のもとへすでに送付済みです。これにはニュース10号で紹介したBesuchet (1999)の内容がすでに盛り込まれていました。先日Lobl博士から来たメールによると、このカタログは現在、すべての群の原稿が出そろうのを待っている状況のようです。チビゴミムシでは上野俊一先生が昨年末かなり苦労してチェックを行っておられました。ハネカクシではどうやら今年あたり出版予定のHerman博士のカタログ(ニュース6号で直海さんが紹介)を待っているらしく、もう少し時間がかかりそうです。

2.アリヅカムシの分子系統学的研究
 ロンドンのNatural History Museumで研究しているJoseph Parker氏は、アリヅカムシ各群の分子系統解析を行っています。昨年2月にロンドンへ行った折り、会って話をする機会がありました。彼はスキンヘッドに耳ピアスの、ヘビメタふうの若者でした。野村はアジアの材料を送ってあげましたが、それらの材料を使って、はじめ12S rDNAを使って解析を行ったようです。その結果、Cyathigeriniの位置や、PselaphitaeとGoniaceritaeの関係について、注目すべき示唆が得られたとのことでした。しかしこの部位は進化速度が速すぎ、いくつかの群で大きな欠損が見られたために、今度は18Sを使うようにして、12Sの結果とあわせて系統樹を構築することにした、と知らせてきました。彼によれば、70年代の乾燥標本からもDNAシークエンスを取り出すことが可能だそうです。近いうちにアリヅカ各群の系統関係が明らかになるでしょう。

3.アジアのアリヅカムシ研究
 前述のLobl博士は昨年リタイアされましたが、博士の後任であるGiulio Cuccodoro氏が中心となって、記念論文集を出版する計画が進行中です。野村も中国(四川、雲南)、ベトナム、台湾のPselaphogenius属10新種の記載を投稿中です。

 昨年夏、韓国の趙永福博士が来日され、日本のハネカクシ研究者と歓談されました。帰国後彼は安基晶博士と共同で、韓国産ハネカクシ類目録を作成中であると知らせてきました。野村はアリヅカの部分のチェックを依頼されたので、昨年末、これを作成して送りました。近く完成予定とのことで大変楽しみです。
 Nomura (2000a) は横浜国大の青木淳一先生らが編纂された中国雲南省の土壌動物報告書の中で、アリヅカムシ亜科223種のリストとProtopselaphinae亜科の1種を報告しました(新種記載はなし)。Protopselahinaeは渡辺泰明先生が西双版納(シーサンパンナ:タイ族が住むラオス、ミャンマー国境に近い高原地帯)で採集されたものです。本亜科は東アジアからは初めての記録で、近々記載予定です。また、この報告には属の検索表をつけていますので、東洋区のアリヅカの属の同定にも使えるかも知れません。
 Hlavac, Nomura & Zhou (2000) は中国四川省と雲南省からLabomimus2新種を記載しました。Hlavac氏は野村と共同で、引き続きアジアのTyriniを研究中です。

4.大石久志氏の形態論文
 京都市在住の大石久志氏は、現在双翅類談話会の中心的存在としてハナアブ研究を行っておられます。しかし以前には日本のアリヅカムシ研究の先駆者であり、特に形態に関する論文は海外でも高い評価を得ています。大石氏は、1992年、日本甲虫学会で講演された内容に加筆改訂し、このほど「Insecta Miyatakeana(宮武頼夫さん退職記念論文集)」(2000)に「アリヅカムシの口器について」と題して発表されました。この論文はアリヅカムシ各種の口器構造を細密に検討し、感覚毛の形態、配列を明らかにしており、極めて高いレベルの形態研究といえます。アリヅカムシの食性に関しても、行動および消化管構造の観察結果を示して、注目すべき考察を行っています。

5.日本のアリヅカムシ研究
 昨年は、サイゴクヒゲナガアリヅカを扱ったNomura (2000b)(ニュース10号ですでに紹介)以降は日本からの新タクサの記載はありませんでしたが、地域のアリヅカリストが相次ぎました。ここではアリヅカについてクローズアップしてみましょう。野村周平・山本栄治(2000)は愛媛県小田深山とその周辺地域から91種を記録しました。一山域としては破格の種数です。またこのリストでは多くの種に和名新称がつけられましたので、要注意です。渡弘(2000)は円海山のリストの中で27種を記録しました。未記載種を含むすべてに和名がつけられていますが、このような行為は名称の混乱を招くおそれがあり、慎重にすべきです。「エンカイザンケシチビムカシアリヅカムシ」と名付けられた種は、日本未記録族Dimeriniの未記載種Octomicrus sp.で、近々記載予定です。平野幸彦(2000)は神奈川県綾瀬市から7種のアリヅカを報告しました。丸山宗利他3名(2000)は千葉県佐倉市の自然環境調査で16種のアリヅカを報じました。そのうち3種は♀個体のみで種が特定できなかったものなので、実質13種です。種数の少なさは調査不足ではなく、北総台地の土壌性甲虫ファウナの貧弱さを物語るものです。野村・岸本・渡辺は皇居からハナダカアリヅカなど5種を報じました(Nomura et al., 2001)。その他の短報などはハネカクシ関係論文・報文情報で紹介します。

6.採集情報
 昨年末、北大大学院生の菅谷洋氏が野村の所を訪ねて見えました。その際持参された標本の中に、野村は驚くべき好蟻性アリヅカを数種見出しました。特に注目すべき種の第1は、北海道のケズネアカヤマアリの蟻塚から採集されたというEuplectitaeの小型種で、ヨーロッパから知られるものです。この種はEuplectini族Trimiina亜族に属し、亜族としても日本未記録のものです。ヨーロッパではヨーロッパアカヤマアリから採集されていますので、エゾアカヤマアリにもついている可能性があります。北海道方面の方は注意して捜してみて下さい。もう1種はこれも北海道のBatraxis属かな〜と思われるアトキリアリヅカ属の種で、類似のものが日本周辺では見つかりません。これは1頭だけなので、追加が望まれます。いずれも菅谷氏が発表予定です。今年も好蟻性の種は気をつけて捜してみる価値がありそうです。
<引用文献> Nomura (2000a). In Aoki et al. eds. Taxonomical studies on the soil fauna of Yunnan Province in southwest China, Tokai University Press; 197-238; Hlavac, Nomura & Zhou (2000) . Species Diversity, 5: 149-153; 大石久志(2000)Insecta Miyatakeana: 37-46; 野村周平・山本栄治(2000)小田深山の自然,2: 325-321; 渡弘(2000)神奈川虫報, (130): 115-286; 平野幸彦(2000)綾瀬市史調査報告書, 2: 213-284; 丸山宗利・斉藤明子・信太利智・佐野正和(2000)佐倉市自然環境調査報告書, 3(2): 239-322; Nomura, Kishimoto & Watanabe (2001). Mem. Natn. Sci. Mus., Tokyo, (31): 257-286.


 ハネカクシ関係論文・報文情報

 今回も、外国雑誌および国内学術雑誌については月刊むし誌の回顧記事をご覧下さい。本欄では、なかなか拾うのが難しい地方雑誌、同好会誌を中心に紹介して行きたいと思っております。資料をお寄せいただいた、新井志保、堀繁久、河上康子、松尾照男、小田博、大原昌宏、尾崎俊寛、初宿成彦、淀江賢一郎、吉田正隆、渡辺崇の各氏に厚く御礼申し上げます。また、所蔵文献の閲覧を許された「月刊むし」編集部にも厚く御礼申し上げます。以下、各科の名称は以下のように略記します:ガムシ(HY), エンマムシモドキ(SY), エンマ(HI), ダルマガムシ(HR), タマキノコ(LE), ヒゲブトチビシデ(CO), チビシデ(CH), ツヤシデ(AG), シデ(SI), ハネカクシ(ST), アリヅカ(PS), デオキノコ(SC), コケムシ(SD).

<地方ファウナ関係>
大原昌宏(1997)小樽市奥沢水源地地区昆虫相調査報告(3).小樽市博物館紀要,10: 35-41.(HY1,SI1,ST2)
「 ST4) 大原昌宏他2名(1997)ニセコ山系昆虫相調査報告(1).小樽市博物館紀要,10: 97-110.(HY4,SI4,
佐々木邦彦(2000)北海道倶知安町の甲虫類(U). Jezoensis, (27): 49-56. (HI1, ST18. 同定丸山氏)
小林英男(2000)石狩湾の海浜地帯で得られた小甲虫類について(第2報).Jezoensis, (27): 133-135.(SI1, ST3)
尾崎俊寛(2000)青森市田代平高原昆虫相調査.Celastrina, (35): 103-134.(HY7,HI3,LE5,SI2,ST12)
大桃定洋(2000)県南地方の甲虫分布資料(その8).ふくしまの虫,(19): 13-23.(ワタナベダルマ)
金杉隆雄(1999)(栃木県)茂木町鮎田で採集された昆虫類.T(甲虫類).インセクト, 50(1): 32-44.(HY1, HI1, SC1, ST5)
佐藤光一他2名(1999)栃木県産甲虫分布資料(8).インセクト,50(1): 45-54.(HR4, HY2, HI2, PS1, ST8)
高野勉・大桃定洋(2000)茨城県産甲虫リスト.るりぼし,(23): 1-156. (過去の記録の総括)
高橋守(2000)小川町の甲虫類.小川町の自然 動物編: 209-234.(アリヅカ原著記録は疑問種有)
新井志保(2000)日高市の甲虫.寄せ蛾記,(95): 2857-2871(HY8,HI4,LE1,SI1,ST17)
豊田浩二(2000)埼玉県から新たに記録される甲虫類(1). 寄せ蛾記,(96): 2902-2910.(AG1, ST5)
豊田浩二(2000)埼玉県から新たに記録される甲虫類(2). 寄せ蛾記,(98): 2975-2984.(HY1, HI1, LE2)
豊田浩二(2000)埼玉県の甲虫に関する覚書. 寄せ蛾記,(97): 2955-2956.(「カラフトシデ」=ヒメクロ)
信州甲虫談話会(2001)信州の甲虫目録・目標は4000種.ざざむし通信, (2): 1-2.(中間報告で各科種数を掲示。シデ26(すごい!), アリヅカ34含ハネ208など。信州甲虫談話会は松本虫の会内グループ)
初宿成彦(1997)琵琶湖岸の砂浜環境における甲虫相―海浜性甲虫の分布―.自然史研究,大阪,2: 181-194. (HY3,HI3,SI2,ST10)
河上康子(2000)大阪湾沿岸地域における海浜・河口汽水域の地表性甲虫調査.関西甲虫談話会資料,(16): 1-29.(HY5,HI3,SI1,PS1,他ST60.力作!)
     的場績(2000)和歌山県産甲虫類既報の整理 訂正と追加4.Kinokuni, (57): 24-42.(二次文献。科別種数表あり) 高橋壽郎(2000)記録による但馬の甲虫相(2).Iratsume, (24): 31-41.(兵庫県関係の甲虫の記録を収録.地元からの報告はエンマは多少あるものの, ハネカクシはほとんど皆無)表あり) 淀江賢一郎他2名(2000)鳥取県会見町の昆虫類.すかしば, (48): 1-25.(HY4, SI2, ST4)表あり) 松田賢・中村慎吾(1999)島根県高津川の昆虫類.ホシザキグリーン財団研究報告,(3): 57-119.(HY11,HI5,SI7,ST19)表あり)
田中馨他2名(1999)「山口県の甲虫」以後に採集された甲虫類.ちょうしゅう, (11): 17-24.(SY1, HI2, AG1, ST5)
田中馨(2000)阿武町の甲虫類(主に大木克行氏採集による).ちょうしゅう, (12): 13-14.(HY4, CO1, SI1, ST3)
松尾照男(2000)長崎県平戸島の甲虫類総目録.こがねむし,(63): 1-21.(HY12, HI8, LE2, CH1, SI7, SC10, PS11,他ST29)
城戸克弥・小田正明(1999)熊本県上村白髪岳で採集した甲虫類(4).Koresana, (67): 13-22. (LE1, SC1, ST1)

<分布:ハネカクシ科(アリヅカ含)>
水野谷昭三(2000)オサシデムシモドキを西郷村で採集.ふくしまの虫,(19): 49.
敦見和徳(1998)ハネカクシ類.筑波山の土壌動物.茨城県自然博物館第1次総合調査報告書:347-349. (25種)
渡辺泰明・吉田正隆(2000)四国産オオコバネナガハネカクシ種群(コウチュウ目:ハネカクシ科)について.徳島昆虫,(11): 11-16.
新井志保(1999)Astenus setiferを東松山市で採集.寄せ蛾記,(91): 2671.
的場績(1999)和歌山県産ハネカクシ科の採集記録.Kinokuni, (56): 18-20.(45種、同定伊藤建夫氏)
的場績(2000)和歌山県産ハネカクシ科の採集記録2.Kinokuni, (57): 12-14.(47種、同定伊藤建夫氏)
的場績(2000)和歌山県産ハネカクシ科の採集記録3.Kinokuni, (58): 24-25.(23種、同定伊藤建夫氏)
渡辺崇(1999)神奈川県新記録のハネカクシ3種.神奈川虫報,(126): 51.
渡辺崇(1999)ニジムネコガシラハネカクシの記録.神奈川虫報,(127): 50.
渡辺崇(1999)阿部光典氏採集のハネカクシ類.神奈川虫報,(128): 21-24.(全国, 32種)
渡辺崇(2000)オオツカスソハダケハネカクシを神奈川県で採集.神奈川虫報,(129): 47.
渡辺崇(2000)箱根のダイミョウマルズハネカクシ.神奈川虫報,(131): 67.
渡辺崇(2000)アシナガコガシラハネカクシを西丹沢で採集.神奈川虫報,(131): 67.
渡辺崇(2000)藤沢市のアリヅカムシの記録.神奈川虫報,(132): 61. (5種)
佐々木邦彦(2000)北海道内初記録のハネカクシ科1例.Jezoensis, (27): 56.(Lordithon sakaii 札幌市真駒内)
堀繁久(1999)洞爺湖中島の甲虫相(IV)ハネカクシ科.Jezoensis, (26): 101-107.(41種)

<分布:シデムシ科,タマキノコムシ科など>
堀繁久(2000)洞爺湖中島の甲虫相(V)シデムシ科.Jezoensis, (27): 113-114.(6種)
木内盛郷・吉田正隆(2000)徳島県産タマキノコムシ科甲虫の記録.徳島昆虫,(11): 1-8. (32種)
的場績(2000)和歌山県産甲虫類分布資料6.Kinokuni, (57): 17-18.(LE18, SC7、保科氏同定)
豊田浩二(2000)ホンドヒロオビモンシデムシを大滝村で採集. 寄せ蛾記,(96): 2913.
豊田浩二(2000)埼玉県のダルマガムシ類について 寄せ蛾記,(94): 2835-2836.(4種)
吉田元重(1999)標本箱からV.Kinokuni, (56): 13-15.(CH5、中根猛彦氏同定)

<生態その他>
Maruyama, M. & K. Toyoda (2000) Notes on Quedius hirticornis (Coleoptera, Staphylinidae, Staphylininae). Elytra, 28: 65-67.
Maruyama, M. et al. (2000) Notes on the myrmecophilous rove beetle, Philetaerius elegans Sharp (Coleoptera, Staphylinidae, Staphylinidae). Elytra, 28: 67-70
宮武頼夫・初宿成彦(1998)第3章京都大学北部構内BF30区の発掘調査, 第6節昆虫遺体. 京都大学構内遺跡調査研究年報 1994年度:80-84.(縄文晩期.エンマ, シデ, コガシラハネ)
初宿成彦他4名(2000)付論2粟津湖底遺跡の昆虫遺体: 161-177.(HY2, HI2, SI不明1, ST不明1)
野尻湖昆虫グループ(2000)第13次野尻湖発掘で産出した昆虫化石.野尻湖ナウマンゾウ博物館研究報告, (8): 53-58.(クロヒラタシデ)
野尻湖昆虫グループ(2000)第8回野尻湖陸上発掘で産出した昆虫化石.野尻湖ナウマンゾウ博物館研究報告, (8): 139-147.(コツヤエンマ、ツノグロモンシデ)
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 ハネカクシ談話会のホームページ更新します
 ニュース12号でお知らせしたハネカクシ談話会のホームページ(http://research. kahaku.go.jp/zoology/hane/hane.html)ですが、おおむね好評なようです。さらに内容を充実するために会員の紹介や公表したいデータ、画像などを募集します。
 会員の紹介は下のフォーマットに沿って作成下さい。更新時期は3月後半を予定しています。積極的にご参加下さい。

 1)氏名: 読み: 欧文表記:
 2)所属機関(もしあれば):
   欧文:
 3)連絡先:
 4)研究対象:
 5)論文、業績:
 6)メッセージ:
 7)リンクを希望する個人のホームページなどのURL:


 丸山宗利氏が好蟻性昆虫のホームページ開設
 北大昆虫体系学教室でご活躍中の丸山宗利氏が好蟻性昆虫のホームページ“Myrmecophiles‘ Cafe”を開設されました。対象は全昆虫ですが、当然のことながらハネカクシが主体です。特に好蟻性のヒゲブトハネカクシやアリヅカは充実しており、種名一覧から詳しいデータベースカードを開く形式になっています。一部制作中とのことですが、是非画像が満載の楽しいHPの完成を期待しましょう。URLは以下の通り。
 http://insect3.agr.hokudai.ac.jp/maruyamaHP/Myrme.Cafe/MyrmeCafeTop.html
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 微小ハネカクシ研究・ノウハウシリーズ2

  液浸標本の入れ物と作り方

 微小甲虫では微小であるほど液浸標本の操作は重要です。どのような道具、どのような薬品を使ってどのように保存整理するかで研究材料としての標本の良し悪しが変わってきます。どのような道具と方法が微小甲虫に向いているのでしょうか?
 微小甲虫を数頭〜数十頭保存するための入れ物には実にさまざまです。一般的にはガラス瓶にプラスチックの栓のついたサンプル管が多く使われますが、栓のすき間から液が蒸発し、乾き上がってしまうため、長期の保存用には向きません。
 長期保存用の入れ物としては、栓がねじ式になったスクリュー管ですが、これにも多数のメーカー/規格があり、使い勝手もさまざまです。中にはスクリュー管なのに液が漏れたり、蒸発してしまう粗悪品がありますから注意が必要です。野村が使っているのは日電理化器のSV-10(10cc)という製品です。これは、1)液が漏れたり乾いたりしない、2)落としても割れない、3)口が広くて使いやすい、4)完全な円筒形に近いので、収まりがよく整理しやすい、などの利点があります。同じメーカーでもSV-20以上は割れやすく、細長いものはパッキンの材質が違っていて乾きやすい欠陥があります。  1個体ずつ整理するにはマルエム社のマイクロチューブNos. 1-3がよく使われます。これはガラスが非常に丈夫でほとんど割れることがありません。栓もしっかりしていますが、逆に機密性が高いため、中の空気圧で栓が飛ぶことがあるので要注意です。そのため、タイプ標本などの恒久的な保存には向きません。DNA用のサンプルチューブも時に使われますが、中が見えないのと、収まりが悪い為、整理には向きません。
 タイプ標本などを小分けして保存するには、「昆虫採集学」に記述してある通常の昆虫保存法の基本を踏襲し、道具を工夫することになります。まずガラス製のダーラム管を準備します。これは片方を丸く塞いだ小型ガラス管(約10mm×5mm)で、これに標本とラベルを入れ、液で満たします。これに脱脂綿で綿栓をし、別の大型スクリュー管またはガラス瓶に栓を下にして入れ、同じ液を満たします。栓を下にするのは多少液が蒸発してもダーラム管内が乾かないようにするための工夫です。綿栓にはコツがいるので、実験化学系の人にならって練習しましょう。
 大形標本やツルグレン抽出物を入れておく広口瓶(細口、角瓶もある)としては、マヨネーズ瓶やプラスチック製の広口瓶が使われますが、割れたり液漏れのおそれがあって、海外や輸送用には向きません。このような場合には井内盛栄堂のプラ製広口瓶、アイボーイが中栓なしで液漏れせず、スグレモノです。
 液浸の液は微小甲虫の場合、70〜80%エタノールが最適と思われます。ただし、注意しなければならないのはエタノールは脱色作用があるため、数年経って、標本が真っ白になることがあります。重要な標本はプレパラートに封入したり、乾燥標本にした方が無難です。また、希釈液は蒸留水を使います。水道水を使うと澱物が出来て、標本にまとわりつくので大変厄介です。完全に乾き上がってしまうのを防ぐためにグリセリンを少量混入する人もいます。また、アルコールでは関節が硬くなってしまうので、それを防ぐために乳酸を少量入れる人もありますが、標本が変色することが多いようです。野村は液浸標本を乾燥したときに体表の毛が寝てしまうのでどちらもやっていません。
 以上、ご参考まで。誤りや追加記事がありましたらお知らせ下さい。
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ハネカクシ類情報いろいろ

1.Michael Hansen博士が死去
 ガムシ類の大家で、ハネカクシ系列全体の高次分類などを精力的に手がけておられたデンマーク、コペンハーゲン大学動物博物館昆虫部のMichael Hansen博士が、昨年11月26日、急逝されました。享年44歳ということで、あまりに突然の悲報に水生甲虫およびハネカクシ類研究者の間に大きなショックが走りました。詳しい博士の経歴などは水生甲虫研究者のホームページ“Water Beetle World”(http://www.zo.utexas.edu/faculty/sjasper/beetles/index.htm)が伝えています。ご冥福をお祈りします。

2.趙永福博士が来日
 韓国大田市にある韓南大学校の趙永福(Cho, Young-bok)博士が、昨年8月に来日されました。趙博士は主にハネカクシ亜科やシデムシ科がご専門で、今回は神奈川県の西川正明氏の招きで来日されたものです。22日に成田に到着され、千葉の直海さんの所を訪れた後、23日、科博へ見えられました。その夕方、談話会会員諸氏と歓迎会を持ちました。この会には、西川氏、野村の他、農大の岸本、島田、新井の各氏、横浜国大から保科英人氏とシデムシ生態を専攻されている永野昌博氏が参加され、シデムシ、ハネカクシの話しで盛り上がりました。以降は西川氏が箱根、富士山方面を案内して採集を行われたようです。
 この際、博士から最近の別刷をいただきましたので、以下に記しておきます。趙博士と西川氏、歓迎会に参加された各氏に厚く御礼申し上げます。
Cho, Y.-B., 1996a. Studies on the tribe Philonthini (Coleoptera, Staphylinidae) from Korea. I. Genera Neobisinus and Erichsonius. Korean J. Zool., 39: 159-163; Cho, Y.-B., 1996b. Studies on the tribe Philonthini (Coleoptera, Staphylinidae) from Korea. II. Genus Gabronthus Tottenheim. Korean J. syst. Zool., 12: 25-31; Cho, Y.-B., 1996c. Taxonomic study on the tribe Quediini (Coleoptera, Staphylinidae) from Korea. Korean J. syst. Zool., 12: 107-119; Cho, Y. -B. & K. -J. Ahn, 1999. A review of the subfamily Osoriinae (Coleoptera, Staphylinidae) in Korea. Korean J. syst. Zool., 15: 175-181; Cho, Y. -B. & Yong-Jung Kwon, 1999. New Silphids (Coleoptera: Silphidae) from Korea. Korean J. Ent., 29: 221-223; Cho, Y. -B., 2000a. Taxonomic review of the subtribe Astenina (Coleoptera, Staphylinidae) from Korea. Korean J. env. Biol., 18: 121-124; Cho, Y. -B., 2000b. A taxonomic study of the tribe Pinophilini (Coleoptera, Staphylinidae) in Korea. Korean J. syst. Zool., 16: 65-68; Cho, Y. -B., 2000c. A taxonomic study of the subtribe Lathrobiina (Coleoptera, Staphylinidae) in Korea. Ins. Koreana, 17: 121-128.

 歓迎会の様子:左から島田、西川、野村、趙博士、岸本、保科、永野、新井 (2000年8月23日、新宿区百人町 居酒屋「藩」にて)

3.シデムシの新種
 前項で紹介したCho & Kwon (1999)には、ヒラタシデの新種、Silpha koreanaが記載されています。この種は韓国江原道太白山(Taebaeksan)産のもので、韓国に分布するS. perforata Geblerと比較すると明らかに小型で、背面の光沢が強く、交尾器中央片先端部分が顕著に細いことで区別できるとのことです。
 他にも旧北区からシデムシの新種が最近書かれています。Jiri Hava, Jan Schneider & Jan Ruzicka (1999)は中国から驚くべきシデムシ4新種を記載しました。四川北部から書かれたPtomascopus zhanglaはモンシデに似た橙色紋を前胸背と上翅に持つ変わった種で、本属の3種目となります。ミニヤコンカから記載されたNicrophorus smefarcaはヒロオビモンに似た斑紋を持ち、黄色毛に密に被われています。陜西省秦嶺山脈産のSilpha businskyorumと四川省Zhanglaから書かれたS. schawalleriはいずれも日本のホソヒラタに似た形態をしており、非常に興味が持てます。
 さらにRuzicka、Hava、Schneider (2000)はインドメガラヤからネパールモンに似たモンシデの新種N. sausaiを記載しました。以上2件の出典を以下に記しておきます。
Hava, J., J. Schneider & J. Ruzicka, 1999. Four new species of carrion beetles from China (Coleoptera: Silphidae). Ent. Prob., 30: 67-83.
Ruzicka, J., J. Hava & J. Schneider, 2000. Taxonomical and distributional notes on Oriental Silphidae, with description of Nicrophorus sausai sp. n. (Insecta: Coleoptera). Reichenbachia, Dresden, 33: 377-384.

4.国内ハネカクシリスト
 アリヅカの所でも紹介しましたが、昨年は地域の甲虫リストが多数出版され、ハネカクシのファウナもかなり解明されてきました。主なものとハネカクシ系列各群の種数を以下に列記しておきます。神奈川県横浜市(一部鎌倉市)円海山―ガムシ21、エンマ26,ムクゲ12,タマキノコ19,コケ4,シデ7,ハネ260(渡, 2000);同綾瀬市―ガムシ11、エンマ12,ムクゲ3,タマキノコ3,コケ2,シデ2,ハネ80(平野,2000);千葉県佐倉市―ガムシ17、エンマ20、ムクゲ1、タマキノコ6、シデ10、ハネ105、コケ2(丸山他3名,2000);東京都千代田区皇居―ガムシ14、エンマ7、ムクゲ6、タマキノコ7、コケ4、シデ4、ハネ104(野村他4名,2000;Nomura et al., 2000);愛媛県小田深山―ガムシ5(佐藤・山本,2000)、エンマ25(大原・山本)、チビシデ17(春沢・山本)、シデ10(山本)、ハネ271(ヒゲブトを除く:岡本・山本)。

5.雑甲虫談話会が発足
 愛媛大学の酒井雅博氏と大阪の安藤清志氏を中心に雑甲虫談話会が発足し、このたび連絡誌「雑甲虫ニュースレター」が発行されました。酒井氏が「2000年の甲虫界を回顧して」と題して、様々な科の重要論文を紹介しています(ちょっと辛口?)。会員は29名。連絡先:〒790-8566 松山市樽味3-5-7愛媛大農学部昆虫学研究室 酒井雅博様

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 ハネカクシ談話会ニュースNo. 13 (2001年2月14日発行)発行責任者:野村周平
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 年会費500円(2000年度から)郵便振替にて払込下さい。
 加入者名:ハネカクシ談話会;口座番号:00170-2-145635
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