ノムラホイホイのテクニック

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高所カギを使って樹上に設置されたノムラホイホイ

※ここで掲げた内容は、発行者の許可を得て、コガネムシ研究会和文誌「鰓角通信」に掲載された野村周平(ノムラホイホイの発案、開発者)の著作を一部抜粋、転載したものであり、許可なく引用、転載することを禁ずる。



1)バナナトラップとしての使い方、効果

[ベート]バナナ、1ボトルにつき、1〜2本。

[使い方]バナナの皮をむいて、身も皮も両方ボトルに入れる。身は多少手でほぐしておいた方がよい。ボトルを現場の木の幹などに針金で固定し(図7)、3〜4日後に回収する。乾燥や低温が続くとバナナが発酵せず、効果が上がらない。このようなことが予想される場合や、回収までの時間が取れないときには、すでに発酵させたものを現場で入れる方法もある。

[採れる虫、効果]クワガタでは、コクワガタ類とノコギリクワガタ類が非常に多く、次いでヒラタクワガタ類が得られる。村山輝記(2002)の調査ではネブトクワガタもかなり得られているようだ。オオクワガタ、ミヤマクワガタ類はあまり期待できない。昼間樹液や果実に集まるカナブン類やアカマダラハナムグリ、シロテンハナムグリ類も多数採集できる。時としてすさまじい数のハナムグリ類が入って、ボトルが一杯になることもある。夏季にはカブトムシも多く入る。ほか、マイマイカブリ、ミヤマカミキリ、ケシキスイ類、クシヒゲハネカクシ、が得られることもまれではない。オオアオカミキリやシラオビシデムシモドキなど、意外なものが得られたこともある。地面に寝かせて設置すると、マイマイカブリやオオルリオサムシ類がよく採集される。

 バナナトラップとしてのノムラホイホイの長所は、従来のストッキングなどに比べて、見回りの手間が要らず、回収が簡単という点である。生きたまま回収できるという点は、ノムラホイホイ全体を通じて言える長所であるが、この場合、バナナの皮がにおいを発して誘引剤として働くとともに、大型甲虫が多数入った場合の緩衝材として有効である。

 ゲンゴロウトラップに使うような水糸をつけたボトルにバナナを入れて樹木の高所に吊り下げ、樹冠部のハナムグリ類を狙う手も考えられるが、まだ実験にはいたっていない。



図7.バナナトラップとして使うノムラホイホイ


2)オサムシトラップとしての使い方、効果

[ベート]さなぎ粉、骨粉など。

[使い方]ボトルにさなぎ粉を底面から1〜2cmの深さに入れ、横に寝かせて、口が地面に接するように置く(図8)。近くの立ち木の根際などに針金で固定した方がよい。斜面に設置すると重力の助けで入りやすくなるが、雨水が流入しやすいので角度に注意が必要(図9)。高温期、雨季で3〜4日、低温期、乾季では1週間後くらいに回収するのが最も適当と思われる。

[採れる虫、効果]オサムシ、ゴミムシ類が多数入る。特にクロナガオサムシ類がさなぎ粉のボトルに大量に入る。ゴミムシはナガゴミがよく入るが、オオズナガゴミは少ないようだ。小型のゴミムシはあまり入らない。海岸近くにかけると、シロスジコガネやオサムシモドキが入る。同じ目的で使用されるピットフォールトラップに比べて、穴を掘る必要がなく、地面を傷めないことに加え、ピットフォールでは日中飛び出してしまうシデムシ類がボトル内に居残っている長所がある。

 コガネムシ類は一般に少ないが、センチコガネは大量に入ることがある。ベトナムで糞にはこない珍しいエンマコガネが採集されたことがあり、ベートを工夫することにより、ミツノエンマコガネやコブスジコガネも期待できるのではないだろうか。肥料として使う骨粉を試してみたことがあるが、特にさなぎ粉を凌駕するような効果は得られなかった(野村,1995)。



図8.オサムシトラップとして使うノムラホイホイ


3)腐肉トラップとしての使い方、効果

[ベート]トリガラなどの肉をビニール袋に入れて用いる。

[使い方]肉を適当なサイズ(1号と呼ばれるサイズが最適)のビニール袋に入れ、ボトルに入れる。口の余った部分を外側へ折り返し、ボトルの口を留めることによって固定する(図9)。3〜4日後に回収するのが最適と思われる。樹木、地面などに固定するが、固定の方法によって採れる種や状況が異なるので注意が必要。例えば、オサムシトラップのように地面に寝かせておくと、地上徘徊性のオオヒラタシデムシなどが多数入り、飛んでくるモンシデムシ類やコガネムシ類の採集の障害になることがある。設置及び回収の際、腐肉の悪臭が気になる人は相応の対処が必要である。

[採れる虫、効果]多くの種類のシデムシが採集される。他に、ハネカクシ、サビキコリ、ケシキスイなどが得られ、エンマコガネ、コブスジコガネが入ることも多い。



図9.腐肉トラップとして使う場合.斜面に設置した例を示す
 (この程度傾けても雨水は流入しない)


4)糞トラップとしての使い方、効果
[ベート]獣糞,人糞。

[使い方]福岡県の野田亮氏は以下のような方法でノムラホイホイを糞トラップとして用い、糞虫を採集した。地中にノムラホイホイを、口の部分が地表面と一致するように垂直に埋め込んで、プラスチックの波板で雨除けをする。ボトルの中に土を一握り入れ、冷凍保存した新鮮なシカ糞を50gずつ入れて1週間後に回収という方法で通年実施した。餌となる糞については、第一に、表面がヌメヌメして手にくっつくぐらいの新鮮なものがベスト。第2にひからびた糞でも水で戻して使用できるし、冷凍で保存することも可能、とのことである。この餌の保存性は大変心強いが、冷凍保存は家庭内トラブルの原因にならないよう、注意が必要かも。

[採れる虫、効果]上記の野田氏の採集によって、オオセンチコガネ、クロオビマグソコガネ、チャグロマグソコガネなど糞虫が7種、ハネカクシが28種、その他ヒメオサ、オオオサなどのオサムシが得られた。糞虫類は主要3種の年間の発生消長が押さえられる量(各種年間で100頭以上)が採集でき、特に積雪期にもチャグロマグソが活動しているという興味深い結果が得られたという(池田浩一他,1997)。

 糞の種類やトラップの設置法はさまざまに改良の余地があると思われる。ボトルは垂直に埋め込むよりも寝かせた方がおそらく手間が省けるし、雨よけの心配も要らないだろう。また、糞の種類によって当然得られる糞虫の種類も変わってくるはずである。最近マルマグソコガネの採集に使われる犬糞トラップの容器としても使えるのではないだろうか。


5)その他のベートトラップとして

 大型のゲンゴロウを狙った、ゲンゴロウトラップとしても非常に有効である。ベートは煮干を1ボトルにつき一つかみほど用いる。まず、5mほどの水糸をナスカンでボトルにつなぎ、ボトルに煮干を入れて池や沼の浅い部分に投げ込む。夕方投げ込んで、深夜か早朝に回収する。ボトルが水没した場合、半日以上時間がたつと、中のゲンゴロウが窒息してほとんど死んでしまうので注意が必要。この方法で採れるのはゲンゴロウの大型、中型種がほとんどで、ガムシの大型種が若干混じることもある。コガネムシ類は期待できない。

 キノコ類に集まる甲虫を目当てに、青果店で「しめじ」として売っているパック入りのヒラタケをベートにして設置したところ、サビハネカクシなど若干の甲虫を得た。野外でキノコを現地調達してかける方法もあるかもしれないが、生きたキノコに集まるものより、腐ったキノコに集まる普通種が多いと思われ、あまり期待できない。



ノムラホイホイの長所と短所

 ノムラホイホイは従来の各種ベートトラップと基本的に同じコンセプトで行われるものだが、トラップ容器やかけ方の違いによって、さまざまな長所、短所がある。これらについて、野村(1995, 1996)、野村・野田(1998a, 1998b)でも紹介しているが、再度ここで検討してみたい。  このトラップの第一の長所は、一通りのトラップ容器によって多種類の昆虫を採集できる点にある。一定地域の昆虫相調査を行う場合、従来のやり方では、バナナトラップに使うストッキング、オサムシトラップに使う紙コップ、ゲンゴロウ採集に使う水網(それも頑丈で重いやつ)、腐肉採集に使う容器等々、大量の道具が必要だった。それが何と一通りの道具で済むのである。そもそも、本トラップが開発されたきっかけとなったのは、福岡県糸島半島における九州大学移転予定地の昆虫相調査であった(野村,1995)。この長所を生かして、一定地域の昆虫相調査を行う場合、ノムラホイホイは威力を発揮する。期間や労力の限られた調査において、ノムラホイホイは、始終トラップを見回ったりする必要がない。また,ピットフォールのように地面を掘る必要もないので、設置、回収にかかる労力が格段に軽減される。

 国立科学博物館の皇居の生物相調査でも、ノムラホイホイは縦横に活躍し、アオオサムシ、オオヒラタシデムシ、センチコガネ(以上オサムシトラップ)、コクワガタ、ノコギリクワガタ、カナブン、カブトムシ、ヨツボシケシキスイ、ウスバカミキリ(以上バナナトラップ)、ヨツボシモンシデムシ、コクロシデムシ、エンマムシ類、チビコブスジコガネ(以上腐肉トラップ)など、多数の甲虫が採集された(野村,2001)。

 さらに、トラップ容器としてのノムラホイホイのよい点は、雨風に強い、カラスや犬,サル,イノシシなどによる獣害に強い、という点であろう。従来のオサムシトラップは雨に弱かった。波板などで雨除けをしても、余計に手間がかかる点、非常にわずらわしかったものである。その点ノムラホイホイは、余程水没するような大雨が降らない限り、回収不能になるようなことは起こらない。また、腐肉トラップで予想される、カラスなどの攻撃に対しても、ペットボトルという材質は驚くほど頑丈で、被害が出たためしがない。晩秋のオサムシトラップが野犬か何かの害をこうむったことはあるが、問題にならない程度である。この点は、特に定量調査を行いたいときに有効であろう。ただし外国ではひどい獣害を受けたことがある。ベトナム、タムダオ山で、クレルモントゲオサムシをねらってオサムシトラップをかけた際、底部をネズミか何か、歯の強いけものに食い破られ、かなりの数をダメにしたことがある(野村、1996)。

 ノムラホイホイは通常、少なくとも側面の3面にスプレーラッカーで塗装を施すが、これにはそれなりの意図がある。野外でなるべき目立たないようにして、人によるいたずらや、カラスの攻撃を回避する目的も一方にある。もう一つは、太陽光線が苦手な夜行性の昆虫が入った場合、光を遮断して、安心してボトルの中に居残ってもらう効果である。従来のトラップでは、かけっぱなしにしておく場合、夜行性の飛ぶ昆虫は、朝になると出てしまうことが多かった。ピットフォールトラップに、夜のうちにシデムシが落ち込んでも、朝になると飛んで出てしまう。ゲンゴロウトラップの場合でも、塗装していなければ、日中の光を嫌って、外に出てしまうのだ。塗装の効果により、多くの場合、入った昆虫は生きたまま回収できる。ノムラホイホイの要点は、入った昆虫に対しても、回収するまでやさしく接する、という点にもあるのではないだろうか。

 しかし逆に、ボトルに入った甲虫同士がけんかして、互いに傷ついてしまうケースも多々ある。そのような場合には、ボトルの中に、緩衝材となるものを入れておく必要がある。バナナトラップの場合、皮を必ず入れておかなければならないのはこのためだ。オサムシトラップの場合、荒挽きのさなぎ粉を多めに入れておくことで、かなり効果がある。ゲンゴロウトラップの場合には、煮干を一つかみいれた後、草を一握り丸めて入れておくと、煮干が流れ出るのも防ぐことができ、一石二鳥である。腐肉の場合にも、骨が残るトリガラなどの方がよい。いずれにしても緩衝材が必要な場合、草を丸めて入れたり、木屑やマット、砂などを用いるとよい。新聞紙などでもよいが、回収後ゴミになることを考えておかなくてはならない。

 さて一方、使ったことのある人が必ずこぼすノムラホイホイの短所は、何といってもかさばることである。トラップというものは効果を上げようと思ったら、とにかく多数かけることが早道だ。しかし、2リットルのペットボトルというものは、重さは軽いが、ことのほかかさばる。携帯にも不便なため、海外や、高山や、アプローチの長い採集地での使用には、甚だ不適である。車で近くまでいけない場所には非常にかけづらい。しかし、どうしてもノムラホイホイの力を借りなければならない場合には、体力と根性で勝負しなければならない。筆者は、奈良県大峰山の山頂部に生息するオオダイヒラタシデムシを採るためには、ノムラホイホイしかないと思い、登山用80リットルザックにつめこんで(わずか12本しか入らなかった)、片道2時間の山道を2往復した。おかげでシデムシは採集できたが、全然労力が軽減されてないのではないかと反省している。せめてアイスクリームカップのように重ねられるものであればと、デザインも考えた(野村,1995)が、実現していない。


高所ホイホイとして使うテクニック(31. viii. 2010加筆)

 2004年頃から野村は、地上高い領域の昆虫相に興味を持ち、高所FITなどを用いて、高所の昆虫相、特に甲虫相の調査を始めた。2010年現在もこれらの調査は継続中であるが、このような視点から昆虫採集を継続する中で、高所でノムラホイホイによる採集を行うとどんな結果が得られるだろうという疑問が沸き起こった。それで実際に高所にノムラホイホイを設置、回収する手段を講じ始めた。

 このときに参考にしたのは、高所FITを高い樹上に設置する方法である。これは両側にカギのある「高所カギ」と長竿を使ってFITを高木のこずえに吊下げる方法であった。これについては、拙著「FITかけある記 その2」(月刊むし,(475): 22-31)で解説している。ノムラホイホイもまったく同じ方法で高所に設置することが可能であったが、FITほど重くないので、小型で軽便な高所カギが必要だった。それで、太目の針金を工作してこれを製作した。

 高所カギを試作してみてわかったのは、針金というのは太いから丈夫とは限らない、ということである。ホームセンターなどで売っている針金(カラーワイヤー)では、太さ3ミリほどあっても、やわらかすぎてすぐに曲がってしまうことがわかった。それよりもむしろ、クリーニングでついてくる針金ハンガーの方が丈夫で、高所カギには向いていたので、今はこれを使っている。


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