ノムラホイホイを用いたハネカクシ類採集法

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奄美大島でノムラホイホイ(ベート:鶏肉)で採集されたオオツヤシデムシ


 ノムラホイホイをハネカクシ類の採集法として取り扱うためにはある種の忍耐力とテクニックが必要です。いやむしろ一番必要なのは、「ハネカクシ類を採るにはノムラホイホイが一番だ」という思い込みというか、信念というか、信仰のようなものであるかもしれません。もともとノムラホイホイはハネカクシ類を採集するために開発されたものではないので、必ずしも常にいい成績を収めるというわけではありません。失敗したときに決してくじけず、なぜ失敗したかを分析し、どうすれば成功するかを生み出すことのできるパワーが必要なのです。

 ここでご紹介するハネカクシ類採集の方法とその成果は単なる入口であるにすぎません。ノムラホイホイの開発者である私はまだ、ハネカクシ類の採集で十分な成果を得たとは言えないと思うのです。しかしここでその一端をご紹介することによって、ハネカクシ類を採集したいと望む読者が、自分の採集のために、その方法を改良し、自分のものとして実践されることを期待したいと思います。

1) バナナをベートとして使う場合

 「ノムラホイホイのテクニック」のページで、ベートとしてバナナを使い、カブトムシやクワガタムシ、カナブンなどを採集する方法と同一です。しかし、里山でも奥山でも、環境が良いと、多くのハネカクシ類が採集されることがあります。大型でよく採集されるのが、Velleius属(クシヒゲハネカクシ)です。クシヒゲハネカクシ類は6種が我が国から知られていますが、大型種3種、小型種3種です。このうち、大型種3種はバナナをベートとして用いたノムラホイホイで採集することが可能です。関東地方の奥山では時として非常に多数のナミクシヒゲハネカクシとコクシヒゲハネカクシが採集されることがあります。これらはすばしっこく、すぐ飛んで逃げようとしますので注意が必要です。

 また、ブナ・ミズナラを主体とする奥山でバナナトラップを行った場合、シラオビシデムシモドキやエンマムシモドキが採集されることがあります。これらの種は通常は樹液などによく集まる仲間です。



左:山梨県でノムラホイホイ(ベート:バナナ)で採集された甲虫(赤矢印はコクシヒゲハネカクシ);
右:コクシヒゲハネカクシ拡大



2) さなぎ粉をベートとして使う場合

 「ノムラホイホイのテクニック」のページで、さなぎ粉をベートとして入れ、オサムシトラップとして使用する方法と同一です。オサムシとともに、地表を徘徊するモンシデムシ類、ヒラタシデムシ類がよく入ります。紙コップなどに比べて有利な点は、モンシデムシのような明るさが嫌いな飛ぶことのできる甲虫が夜にトラップに入り、翌朝明るくなっても逃げ出して(飛んで)行かないことです。他にサビハネカクシや、クロサビイロハネカクシが採集されることもよくあります。



左:奈良県山上ヶ岳の森林内に設置されたノムラホイホイ(ベート:さなぎ粉);
右:それにより採集されたホソヒラタシデムシ(=ヤマトヒラタ/=オオダイヒラタ)



3) 腐肉をベートとして使う場合

 「ノムラホイホイのテクニック」のページで、腐肉トラップとして使う方法と同じです。生肉をビニール袋に入れてボトルに装着し、オサムシトラップと同じ要領で地表に設置し、肉が腐るのを待ちます。低温や雨などのため、肉が十分に腐らなかった場合は失敗です。どのような肉を使うかはターゲットの虫の種類によります。牛肉、豚肉などは多くの昆虫を誘引しますが、獣肉に集まるものが主で、ヒメヒラタシデムシやオニヒラタシデムシには向きません。これらを採集するためには魚肉を使った方がベターです。どちらにも使えるのが鶏肉で、トリガラや手羽先のような安価な餌を使うのがいいようです。エビやイカなども腐敗が早く、有効な餌になります。

 採集できるハネカクシ類としては、シデムシ類全般(ただしヨツボシヒラタシデ、クロヒラタシデは除く)、ツヤシデの一部、チビシデの一部、腐肉性のエンマムシ類、ハネカクシ類です。



左:奄美大島三太郎峠に設置されたノムラホイホイ(ベート:鶏肉);
右:それにより採集されたネパールモンシデムシ





エビをベートとしたトラップ(ノムラホイホイではない)で採集されたアカバハネカクシの近似種(南フランスにて)


4) きのこをベートとして使う場合

 野外で地面や倒木に生えるきのこには、ハネカクシ類を含むたくさんの甲虫が集まります。明るい昼間よりも夜の方がはるかにたくさんの虫が集まっており、あたかも昆虫のレストランのようです。これらをノムラホイホイを使って一網打尽にできたら、どんなにか楽しいでしょう。しかし、なかなかそううまくいかないのが実情です。

 スーパーでエリンギやヒラタケを買ってきて、ホイホイのボトルに入れ、野外に設置して、集まる虫を見るとよくわかります。この場合気をつけないといけないのは、周囲にきのこがたくさんあるような環境でないと、きのこに集まる虫はそう簡単には採れないということです。しかし、かなりいい環境であっても、新しい、生きたきのこに集まる虫はなかなかホイホイには入ってくれません。エリンギは腐ると、料理に使うときには想像もつかないような激しい臭いをまき散らします。しかしそれに集まるのは腐ったきのこに集まるサビハネカクシやアカバハネカクシばかりで、生きたきのこに集まるようなオオキバハネカクシ類やルリコガシラハネカクシはなかなか入りません。しかし何事も試してみることが肝要ですから、失敗を恐れず、いろんな餌、いろんな状況で試してみることが必要だと思います。

 現地できのこを集めてきて、餌として使う方法もあると思います。しかし多くの場合、十分な餌が集まるかどうか事前にはわかりませんので、スタートのためのえさを準備しておくことも必要です。現地で餌を集める場合には、種類を混ぜてしまうのではなく、種類別にボトルに入れ、効果的な餌を探索すると、以後の作業が楽になるはずです。



ノムラホイホイのボトルにエリンギを裂いて入れ、設置しようとするところ(東京都青梅市にて)



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