コナラ
Quercus serrata Thunb. ex Murray
ブナ科 離弁花 落葉高木
分布 北海道〜九州
高さ 15m
母の時期 4〜5月

幹は真っすぐに立つ。幹の皮は灰色がかっていて、縦に割れる。葉は、細長い卵形で、ふちに大きな鋸歯がある。春の新芽は薄い緑色でとてもきれいである。秋には、茶色に色づいて、やがて落葉する。春に咲く花は、雄花と雌花があり、両方がひとつの樹木につく。雄花は集まって黄色のひも状となり、枝から垂れ下がる。1個の雄花は小さく、深く5〜7枚に裂ける花びらとがく片の区別のない花被片と4〜6本の雄しべからできている。雌花も小さく、ドングリの皿になる総苞のなかにある。ドングリは長さ1.6〜2.2cm、幅0.8〜1.2cmあり、皿は浅くて外側に小さなうろこもようがある。

暖かい地方の里山に多い。古里の雑木林の代表として最近見直されてきた。幹のようすと葉の形を覚えると、山へ入ってからすぐに見つけられる。関東地方では昔、武蔵野の雑木林が有名であった。富士山の麓も広くコナラ林でおおわれていた。中国地方では、アカマツ林のなかにたくさん生えているが、最近アカマツが枯れてしまって、コナラの林に変わったところが多い。

コナラのナラ(楢)のいわれは分からない。コナラのコは小さいという意味。落葉樹の多い雑木林を代表する樹木で、秋に実るドングリは子供の遊びに使われ、またリスなどの動物のエサになる。

幹や枝が昔から薪や炭の原料として利用されてきた。最近はシイタケを育てるほだ木として利用される。コナラの幹は根もとから切られても、切り口から新しい芽を出して、また、幹をつくる性質がある。この性質を利用して、幹が大木になる前に、マキや炭にするために伐採する。一度伐採してから20年くらいでコナラの幹が成長してくるので、また伐採する。こうして、くり返し伐採されてきた林が、里山の雑木林である。この雑木林には、コナラ以外の樹木も生えるが、ほとんどが落葉樹で、林のなかは明るい。枝のすきまから日の光が地面までよくさしこんで来る。そこで、多くの草や低木の花が咲く。春には、スミレ、ヒトリシズカ、ヤマツツジ、ヤマブキなど、秋には、リンドウ、ノコンギク、ヤマハギなどの花に加えて、ムラサキシキブやガマズミの実が楽しい。昆虫も多く、夏休みのコナラ林には、近所の子供たちの秘密のコナラがあって、朝早くそこへ行くと、カブトムシがとれる。野鳥や小さな動物も多く、ドングリやキノコのような山の幸にも恵まれて、コナラ林は自然の宝庫でもある。コナラ林は古里の生活の場として、また自然を楽しみ、学ぶところとして、日本人にとって、非常に大きな利用の価値ある自然であった。

しかし、里山のコナラ林は1950年代から急に少なくなった。それは、コナラ林が高い値段で売れる材木となるスギやヒノキの人工林に変えられたからである。そして、残されたコナラ林のあるものは、常緑のカシ類が茂る暗い森へと姿を変えようとしている。それは、家庭で使う燃料がガスや電気になり、もうマキや炭の必要がなくなって手入れをしなくなったからである。人々は、コナラ林の恵みを忘れた。そして、自然への心も忘れたのではないだろうか。そう考える人たちは、今、古里のコナラ林の復元にとり組みはじめた。武蔵野のコナラ林が残る埼玉県の一部では、ボランティア活動として、コナラを伐採する活動が知られる。コナラの生える山より高い山や寒いところには、ミズナラがある。葉がもっと大きく、固くて、よい家具材のとれる幹をもっている。明治時代にオーク(ヨーロッパのミズナラのなかま)の家具をつくる材木として、北海道からヨーロッパへミズナラが輸出された。かしわもちを包む葉のとれるカシワ、ドングリが大きく昆虫が集まるクヌギなどがある。これらの樹木はみな、落葉樹である。コナラのなかまには、これらとはちがって、常緑の葉をもつ樹木もある。一般にカシと呼ばれる種類で、アカガシ、シラカシ、ウラジロガシ、アラカシ、イチイガシ、ウバメガシ、ツクバネガシなどがある。