クリ
Castanea crenata Sieb. et Zucc.
ブナ科 離弁花 落葉高木
分布 北海道〜九州
高さ 15m(幹の直径1m)
花の時期 6〜7月

クリは黒い実、つまりクロミの意味という。漢字では、栗と書くが、栗は中国産のクリで、日本の山に自生するクリとは別種である。日本産のクリはシバグリとか、ニホングリとも呼ばれる。クリの変わりものとして次のようなものがある。ハコグリはひとつのイガに果実が6〜8個も入っているもの。シダレグリは枝が垂れるもの。トゲナシグリはイガのトゲが短いもの。

葉は細長く、ふちには先が針のようにとがった鋸歯がある。初夏のころ、雄花と雌花をひとつの木につける。雄花は集まって長さ20cmにもなる黄白色の細長いひものようになり、強い香りがある。ひとつの雄花は、がく片と花びらの区別のつかない花被片が6枚あり、10本くらいの雄しべがある。雌花は雄花の集まりの根もとのほうにあり、3個が総苞という入れものに入っている。総苞の外側には針がたくさん生え、クリの果実が熟すとイガになる。

学名のCastaneaはギリシャ語のクリを意味するkastaneonからついた。crenataは、頭の丸いギザギザの意味。

北海道の石狩地方と日高地方より南に分布し、里山の雑木林に生える。野生のクリはシバグリと呼ばれる果実の小さいものである。初夏の花、秋のクリの実のイガが目印となるので、雑木林のなかの小道や林のふちを歩けば、たいてい見つかる。葉にも特徴があり、目印になるが、クヌギとよく似ているので、注意がいる。クリの葉の裏には、ループで分かる小さな粒々(腺点という)があって、区別できる。また、クヌギの幹の表面は、縦に割れ目がたくさんあってゴツゴツしているが、クリは、なめらかである。

茨城県は日本一のクリの産地で、あちこちにクリ林が多い。

クリの実は大昔から重要な食料であった。その証拠に、縄文時代の遺跡からクリの果実が掘り出されている。青森市の三内丸山遺跡では、縄文時代にクリの木が栽培されていたことが分かった。

果実を干したものをカチグリといい、昔は保存食品であった。戦国時代には、その名前から、戦いに勝つための儀式には欠かせないものであったという。山村では、作物が不作の年にそなえる救荒食物とされた。そのため、クリの木は大切に育てられ、門松のように使われる地方もあった。日本では、野生のシバグリから、多くの品種がつくられてきた。栽培品種は400年前に現れ、果実の大きい「丹波栗」などが栽培された。クリの栽培は大正時代から盛んとなったが、1940年ごろにクリタマバチの大きな被害が広がった。幼虫がクリの木のほとんどの新芽に虫コブをつくり、新芽がやがて死んで、クリの木が枯れるものであった。その後、クリタマバチに強い新しい「筑波」「利平」などの品種が栽培されるようになった。 現在では、栗ようかんや栗きんとんなどの菓子としても親しまれている。そのほか、果実、樹皮、根、葉は薬用にされる。

材は建築材や家具材となる。材は、固くて強く、水のなかでも腐らず、しかも加工がかんたんというすぐれた性質があるので、建築物の土台や柱とされた。三内丸山遺跡からは太いクリの柱でつくられたやぐらが発掘されている。また、鉄道の線路のまくら木に使われた。つい30年前までは、幹や枝は薪や炭として盛んに利用され、現在はシイタケを生えさせるほだ木に利用される。クリ属は約10種が世界の北半球に分布し、日本では1種だけである。ブナ科の樹木にクヌギ、コナラなどがある。クリは、日本だけでなく、世界中で食物として喜ばれている。ヨーロッパでは、ヨーロッパグリからおいしいお菓子のマロングラッセがつくられる。中国では、天津甘栗が有名で、日本の商店でもよく売られている。この甘栗は、中国産の「栗」であるCastanea molli-ssimaの果実を大きなナベのなかで砂といっしょに焼いて、ゴマ油と砂糖を加えたものである。